恋は戦争?
卯花
このエリアに存在しているテロリスト集団は一つではない。主義主張によりいくつもの集団がある。そして、カレンはその中の一つに属しているらしい。
「シュタットフェルトって、ブリタニアでも名門じゃなかったっけ?」
貴族ではないが、とスザクは呟く。
「そうだ」
ルルーシュはあっさりと頷いてみせる。
「だが、彼女の場合、かなり複雑な事情があるが」
それは彼女がハーフだということに関係しているはずだ。それなのにテロリストグループに入っていると言うのは父親との折り合いが悪いのだろう。何か共感を感じてしまうのは、きっと、自分もそうだったからではないか。
その代わり、自分はルルーシュたちに可愛がってもらった。それこそ、家族同様にだ。
だから、父のことはもう『どうでもいい』と今は思える。
彼女にとって、それがテロリストだったのだろうか。
「複雑な?」
そんなことを考えながら問いかけた。
「正妻には子供がいない。だから、彼女を引き取りたいと言ったらしい。だが、彼女たちにとって父親は必要はなかった、と言うところだろうな」
父親の妥協案としては、名字だけを変えさせて今まで通りの暮らしをさせることだったのかもしれない。
しかし、正妻はそれを認めなかった。ブリタニアの名家の娘として最低限の教育を施さなければいけないと言い張った。しかし、実際には彼女をいじめただけだった。
「……彼女の兄が警察によって殺されたことも、彼女を反ブリタニアへと走らせたんだろうな」
立場が違えば自分もそうなっていたかもしれない。ルルーシュはそう呟く。
「それは僕も同じだよ」
ルルーシュに会わなければ、きっと、テロリストになっていただろう。
しかし、ルルーシュがブリタニアの敵に回るとは思えない。
「俺だって、いつ、皇族から引きずり下ろされるか、わからないからな」
それでなくても、ブリタニアの歴史でも、反乱を先導したのは皇族であることが多い。
そう言った瞬間だ。ルルーシュが自分の言葉で何かに気づいたらしい。
「……そう言えば、この国の元首脳陣はどこで何をしているのだったかな?」
彼はそう言いながらジェレミアへと視線を向ける。
「一人を除いて矯正施設におります」
一生、そこから出てこられないだろう。彼はそう続けた。
「……でも、子供はすでに解放されていたんじゃないかな?」
スザクはそう言う。神楽耶なら、そのあたりは詳しいのだろうが、あいにくと自分は知らない。
「十三才以下の子供は、と聞いている。その後で、信頼できると判断された名誉ブリタニア人の夫婦に養子に出されたはずだ」
さすが、と言っていいのだろうか。ジェレミアがすらすらと言葉を口にする。
「ただ一人、と言うと、あれか」
「はい、あれです」
さらに、二人だけで頷き合っている。
「あれって……」
それが悔しくて、スザクは必死に思い出そうとした。
「あぁ、澤崎のあほか」
ようやく出てきた名前に、思わず拳で反対側の手のひらをぽんと叩いてしまう。
「あの変態、さっさと駆逐すべきだよな」
さらにこう付け加えてしまった。
「変態?」
即座にルルーシュが反応を返してくる。
「ロールケーキとか腹黒の同類か?」
さらにこう付け加えてくれた。
「……むしろ、陛下やシュナイゼル殿下はあれに比べると人畜無害だと思うぞ。前に一度、あいつが落としたレンタルショップの伝票見たけど、ジュウカンとかエスエムと言った文字が並んでたし」
その単語の意味がわからなかったのか。ルルーシュが首をかしげている。逆にジェレミアは表情をこわばらせた。
「確かにそれは、今すぐに駆逐すべきだな」
そして、こう言い返してくる。
「今すぐ暗殺の手配をしてもよろしいでしょうか」
視線をルルーシュに向けると彼は問いかけた。
「しばらく待て」
そんなジェレミアをルルーシュは止める。
「ルルーシュ様?」
「どうせなら、馬鹿と変態は一網打尽にした方がいいだろう?」
彼はそう言って笑う。
「厄介事はまとめて片付けるに限る」
どうせつながっているのだし、とルルーシュは続けた。
「そうでなければ、後からわいて出てくるだろうしな」
「まるでゴキブリだな、それじゃ」
スザクは思わず思いついた感想を口にしてしまう。
「……スザク、お前な」
ルルーシュがいやそうな表情でそう言ってきた。
「だって、連想しちゃったんだから仕方がないだろ」
ルルーシュのセリフから、と続ける。
「確かに……」
「ほら! ジェレミアさんだって、そう言っているじゃないか」
ジェレミアは大人だから口に出さなかっただけだろう。しかし、自分にはまだ無理だ。
「……ともかく、だ」
自分に不利な状況だと悟ったのか。それとも、単に話を進めようとしたのか。ルルーシュが話題を変えてくる。
「神楽耶様とカレンの話を聞くときには、お前たちも同席するように。それと、情報局を使って澤崎が今何をしているのか、早急に調べさせろ」
それを使ってカレンを揺さぶれるかもしれない。ルルーシュはそう言う。
「連中の行動は事前に阻止しなければいけない。民衆のためにもな」
あと少しでこのエリアは衛星エリアに昇格できそうなのだ。それを邪魔してはいけない。
「神楽耶様との約束もあるし……何よりも、スザクのふるさとだからな」
それって、思い切り個人的感情じゃないか?
まぁ、自分的にはとても嬉しいけれど、とスザクは心の中で呟く。
「いいの?」
「母さんもそう言っているんだ。かまわないだろう」
ルルーシュはそう言いきった。
「もっとも、最終的にはあのロールケーキの判断次第だがな」
それも何とかなるだろうが、と彼は続ける。
「ともかく、まずは今回の件を何とかするしかない」
ルルーシュの言葉にスザクとジェレミアはうなずき返す。
「本当、集めて一掃できれば楽なんだけどな」
スザクはそう言う。
「昔、そう言う捕殺方法があったんだよな、ゴキブリの」
中をのぞかなけれなあれは一番手軽な方法だった。スザクはそう続ける。
「でも、人間相手では無理か」
残念だ、と呟く。
「だから、それから離れろ!」
ルルーシュは叫ぶようにそう言った。
「お前は、いつからそんなものが平気になったんだ?」
ナナリーと同じように育てたつもりだったのに、と彼は続ける。
「士官学校?」
アリエスでは確かに見なかったけど、と思いながらスザクはそう言った。
「おそらくそうだろうな」
ジェレミアもそう言って頷く。
「はっきり言って士官学校の寮なんて、寝に帰るだけだから。掃除が今ひとつ行き届いていないんだよな」
だから、どうしてもあれを駆除できないのだ。
「……それも、あいつらと同じか」
スザクはそう呟く。
「だから、それから意識を離せ」
本気でいやなのか。ルルーシュは顔をしかめながらそう言う。
「士官学校の寮の環境改善に関しては、後で俺から指示を出しておく」
だから忘れろ、と彼は続けた。
「……マリアンヌさんは平気なのに」
何でルルーシュはだめなのか、とスザクは疑問に思う。
「マリアンヌ様は、あれでも戦場になれておいでだからな」
その気になれば平然と地面で熟睡できる、とジェレミアが言ってくる。
「あぁ。ルルーシュは箱入りだもんな」
スザクはさらりとそう言う。
「で、何の話をしていたんだっけ?」
話が思い切りずれたような気がするのだが、と彼は首をひねった。
「お前は……」
ルルーシュが深いため息とともに言葉を吐き出す。
「まぁ、いい。ともかく、明日、神楽耶様と紅月カレンがやってくる。その場にはお前たちも同席しろ。ジェレミアは指示を忘れるな」
そのまま、彼はこう言う。
「あれ?」
実はまずい状況なのだろうか。それとも、とスザクは本気で悩む。
「お前はとりあえず、そのままでいい」
と言うより、変わるな。ルルーシュが言葉とともに視線を向けてくる。
「よくわからないけど、ルルーシュがそう言うなら」
スザクのこの返事に、彼はふわりと微笑んで見せた。それにごまかされたような気がするのは錯覚ではないだろう。でも、ルルーシュの笑顔が見られたからいいか、とスザクは面倒なことを全て放り投げた。
13.05.20 up