恋は戦争?
若楓
目の前でカレンは明らかに敵意を見せている。だが、ルルーシュはそれを平然と受け流しいていた。
「カレン。ルルーシュ様に失礼ですわよ」
むしろ神楽耶の方がぴりぴりとしているくらいだ。
「あまり気にされないでください、神楽耶様」
そんな彼女に向かってルルーシュは笑みを向ける。
「日本人にとって、私は征服者でしょうからね」
実際に作戦の指揮を執ったのはマリアンヌだが、とスザクは思う。もっとも、そんなところまで目の前の相手が考えているのかどうか、わからない。
おおざっぱな人間であれば『同じブリタニアの皇族でしょう』と言って終わらせる可能性もあるのではないか。
だが、それをルルーシュに面と向かって、それをぶつけられる人間がいるのか、と心の中で呟く。目の前の彼女がそれをできるなら感心してやろうとも、だ。
「同時に、ルルーシュ様は日本人の庇護者ですわ。わたくし達が自由にしていられるのも、ルルーシュ様が他の方々に許可を取ってくださったからでしょう?」
神楽耶はそう言って首をかしげる。
「そうでなければ、他のエリアのように伝統的な技術も全て禁止されていたでしょう」
さりげなく神楽耶が視線をカレンへと向けた。つまり、今までの弦ふぉうは彼女の反応を見るためのものだったのか。
「……変な奴」
ぼそっとカレンが呟く。
「だったら、日本を侵略しなければよかったのに」
さらに彼女はそう付け加えた。
「それ、逆」
ため息とともにスザクは口を開く。
「ブリタニアにけんかを売ったのは日本の方だから」
「えっ?」
どういう意味だ、とカレンは視線を向けてくる。
「ブリタニアの皇族を暗殺しようとした馬鹿がいただけ。まぁ、それを藤堂さんが防いだんだけどな」
しかも、だ。
それをそそのかしたのは今はもうあの世に行っている何とかって中尉だったはず。そして、父をはじめとする連中はそれを黙認していたんだよな、確か。
「それがなかったら、さすがにあそこまでやられなかったんじゃね?」
それを知ったのは父の遺品を整理していたときだ。自分の父の馬鹿さ加減も、きっと、桐原達に縁を切られた一因だろう。
「本当にルルーシュとマリアンヌさんが拾ってくれなかったら、今頃どうなっていたんだろうな、僕」
矯正施設か、それとも……と呟く。
「そうならなかったのだからいいだろう?」
ルルーシュが苦笑とともに声をかけてくる。
「そうだね」
今は幸せだからいいのか。スザクはそう言って頷く。
「好きって言っても怒られないし」
さらにさりげなく付け加える。
「……やっぱり、どっかずれてるわ、あんた達」
カレンがあきれたようにため息をついた。
「普通、そんな風に微笑ましい話にしないでしょ」
もっと深刻な話なのではないか。彼女はそう続ける。
「あきらめなさい。わたくしはお兄様に再会したとき、もっとののしられると思っておりました」
神楽耶までもがこう言った。
「連絡が来たときは『何を今更』って思ったけど、まぁ、それはそれだし。それこそ、今更何を言っても意味はないと思ったから」
イヤミの一つぐらいは勘弁してもらおう。スザクは心の中でそう呟く。
「それに、最終的に僕がこうしていられるのはマリアンヌさんに拾ってもらったおかげだし、その理由はルルーシュに一目惚れしたかららぞ」
微笑ましい話以外になるはずがないではないか。
スザクはきっぱりとそう言いきる。
「それが普通あり得ないから」
カレンはあくまでもこう主張してきた。
「別にいいよ、普通じゃなくても」
スザクはあくまでもこう言い返す。
「幸せだって思えるから」
それで十分ではないか。ついでに、とスザクは言葉を重ねる。
「僕の幸せを邪魔する奴は排除してもいいよね」
にこやかな表情で問いかけの言葉を口にした。
「もちろんですわ」
神楽耶がすかさず同意をしてくる。
「邪魔する人間は排除するのは当然のことです」
それが皇の家訓ですから、と彼女は続けた。
「……それも何か間違ってるような……」
カレンはそう言って首をかしげている。
「あら。ある意味正しいと思いますわよ。あなただって、自分の目的のためには手段を選ばないことがあるではありませんか」
余計な事は言うなよ、と思いながらスザクはカレンを見つめた。
「先日、好きなメニューを確保するために窓から飛び降りたそうではありませんか」
そんなことをするのか。さすがと言っていいのだろうかどうか、とスザクは悩む。
「あ、あれは……」
「目的が違うだけで、考え方は一緒です」
神楽耶はそう断言する。
しかし、彼女が本当に言いたかったことはそれなのだろうか。ふっとそんな疑問がわき上がってくる。
「でも、僕は誰にも迷惑はかけてないぞ」
マリアンヌはもちろん、ナナリーにも許可を取ってあるし、とスザクは言い返す。
文句を言いそうな人物に心当たりはあるが、そちらに関してはマリアンヌが何とかしてくれると言っていた。
「まぁ、ルルーシュが『だめだ』って言うならあきらめるけどな」
何か間違っているのか、とスザクは問いかける。
「間違っているようなきもするけど……間違ってないわね」
「えぇ。間違っていませんわ。問題があるとすればルルーシュ様の性別だけです」
もっとも、と神楽耶は続けた。
「わたくしとしては変な女がルルーシュ様の隣に立たないだけでも十分すぎるくらいですが」
その一言も何なのだろうか、と思わなくはない。
「スザク……神楽耶様も、あまりこちらの事情を口にしないでいただけますか?」
苦笑とともにルルーシュがこう言ってくる。
「わかってるけどさ。中華連邦の援助を受けた馬鹿があれこれ騒ぎを起こすと大変じゃん。最悪、変態澤崎が日本の傀儡政権のトップになりかねないだろ」
そんなことになったらロリコン陵辱好きのあいつが何をしでかすか、とスザクは真顔で付け加えた。
「女性の前だぞ」
ジェレミアがため息混じりに指摘してくる。
「……神楽耶相手だと気にしたことないから、忘れてた」
素直にスザクはそう言ってしまう。
「それはかまいません。むしろ、聞かされなかった方がまずいですわ」
神楽耶は即座にそう言ってくる。
「何? あいつも変態なの?」
予想以上の反応を見せたのはカレンだった。
「ひょっとして、日本を取り戻したらあいつのハーレム?」
それってものすごくまずいのではないか、と騒ぎ出す。
「何? あいつ、あたし達にハーレム造りを手伝わせていたの?」
本気で焦っているのだろう。自分達にとってまずいセリフを口にしているとわかっていない。
ルルーシュがさりげなくジェレミアに目配せをしている。
「狙うなら、合法ロリにしなさいよね。もちろん、合意で」
その間にもカレンはこう叫んでいる。
「合法ロリ?」
何だ、それは……とルルーシュが問いかけてきた。
「見た目が若くて実年齢は合法の女性、と言うところかな?」
ブリタニアだと誰がいるだろうか、とスザクは首をかしげる。
「若作りとは違うんだけど、見た目が本当に子供っぽい人っているだろう? 日本人だと結構多い見たいけど」
それだから、日本を取り戻したいのか? とスザクは続けた。
「いきなり『日本奪還』が下世話な理由になったわ」
やっていられない、とカレンは言う。
「なら、やめてしまいなさい。代わりに内部から変えていけばいいでしょう?」
彼女に向かって神楽耶は言葉をかけている。
「あなた方が現状に不満を持っているのはわかっています。それでも今も日本だった頃と変わらない援助が受けられています。それを壊していいのかどうか。もう一度考えてみることですね」
彼女はこう締めくくった。
「と言うことですので、ルルーシュ様」
「わかっている。今回だけは何も聞かなかったことにしておこう」
ルルーシュのこの返事に神楽耶はわざとらしいほど安心した表情を作ってみせる。
だが、彼女のことだ。きっと何かを画策しているに決まっている。後で確認しておこう。スザクはそう考えていた。
13.05.27 up