恋は戦争?
薄
「カレンが仲間達と話をしていたようですわ。ただ、まだ信じ切れていないようですの」
桐原ととともにやってきた神楽耶がこう告げる。
「明確な証拠でもあればよいのでしょうがな」
こう言ってきたのは桐原だ。
「それについてだが」
ルルーシュがため息とともにロイドを見つめる。
「はいは〜い! ご要望のものは見つけてありますよぉ」
言葉とともに彼はファイルを差し出す。
「とりあえず、ブリタニアの某企業に残されていた澤崎敦の購入履歴です」
日本で購入したものだが、本社がブリタニアにあったから残っていたものだ。ロイドはそう続ける。
「一枚目はただの履歴ですがぁ、二枚目にはそれのジャケットだのなんだのも載せてあります。個人的には、女性は一枚目でやめておいた方がいいと思いますよぉ」
事前に何か言われていたのだろうか。ロイドにしては珍しく気を遣っている。
もっとも、それを受け入れるかどうかは本人次第なわけで。
「……これは……」
ぱらりと一枚めくった瞬間、神楽耶は硬直している。
「だから言われたのに」
あれはきつい、と事前に見せられたスザクは心の中で呟きながらファイルを取り上げる。
「確かに、これはまずいですわね。ですが……」
「それを作った者達はもちろん、販売していた企業もしっかりと処罰済みです」
ルルーシュがため息混じりにそう言う。それはきっと、第一皇子の趣味を思い出しているからだろう。でも、彼は公私を分ける方だし、犯罪行為もしていないかかまわないのではないか。
いや、マリアンヌをはじめとする女性陣がいる以上、できないと言った方が正しいのかもしれない。
だが、それはオデュッセウスの名誉のためにもあえて言わないでおいた方がいいだろう。そのくらいの気遣いはスザクでもできる。
「必要でしたら内容の方も確認できますよ。あまりお薦めはしませんが」
神楽耶に向かってルルーシュがそう言った。
「それを見た人間が全員、いやがってたからねぇ」
女性陣が設備を壊さないようにさせるのが精一杯だった、とロイドが言う。と言うことは、セシルが怒り狂ったというところだろうか。
「わかりました。これはお預かりしても?」
「えぇ。どうするかは神楽耶様がお決めください」
ルルーシュが微笑みとともにこう言う。それが作り物だとわかっていても、美人だからいいか。スザクはそう判断をした。
相変わらず、自分の用事が終わると神楽耶は風のように去って行く。しばらくの間、政庁で暮らしていたせいか、案内がなくても困らないらしいというのは問題ではないか。
それよりも、だ。
「本当に渡してよかったのか、あれ」
スザクはルルーシュにそう問いかける。
「機密でも何でもない。かまわないだろう」
平然と彼はこう言い返してきた。
「むしろ、あれを見てこちらに協力してくれるならそれでかまわない」
いや、と彼は言い換える。
「あちらに協力しないならそれで十分か」
それだけでこちらの負担は減る、と彼は続けた。
「それならいいけど」
スザクはそう言い返すと小さなため息をつく。
「神楽耶が余計な暴走をしそうで怖いんだけど」
中華連邦に行って澤崎を殴るとか、暗殺させるとか、あれこれ暴露するとか、と彼は続けた。
「桐原公に内々に話をしておきましょうか」
想像したのだろうか。かすかに頬を引きつらせながらジェレミアがそう提案する。
「頼む。神楽耶様を失うわけにはいかないからな」
ルルーシュもそう言って頷く。
「だったら、逆効果だったかなぁ」
ロイドがぼそっと呟いた。
「ロイド?」
何をした、と彼の視線が問いかけている。
「いや……何をしたと言いますか」
彼はそう言いながら視線を彷徨わせ始めた。
「ロイド!」
ルルーシュが少し強めの声音で彼の名を呼ぶ。そうすると、やはりマリアンヌに似ている。
他の者達もそう認識したのか。ジェレミアは称賛のまなざしを彼に向けた。しかし、ロイドは何故か表情をこわばらせると震えている。
これは、マリアンヌを怒らせたな。
でも、ロイドならやりかねないか。スザクは胸の中でそう呟く。
「……研究費、削られるかな?」
最終的に、と思わず口からこぼれ落ちた。
「それはいやぁ!」
ロイドの口から悲鳴が上がる。やっぱり、これが彼にとっては一番――いや、マリアンヌの存在があるから二番目か――怖いことらしい。
「なら、さっさとはけ!」
ルルーシュが半眼になりながら命じる。
「……えぐいのだけを二枚目に載せておいただけですぅ」
びくっと肩をふるわせながらロイドが言い返す。
「でも、一番やばいのは載せてませんよぉ」
名前もこっそりと下の方に滑り込ませておいた。これに関してはジェレミアにも見せていない、と彼は続けた。
「何か問題が?」
ジェレミアが即座に問いかける。
「ルルーシュ様とスザク君の耳に入れるのは、さすがの僕でもためらうような、ねぇ」
そう言いながら、ロイドはジェレミアを手招く。
いやそうな表情でジェレミアはそれに従う。それでも手を伸ばした距離で止まったのは、何かを察したからか。そんなジェレミアの耳をロイドが手を伸ばして引き寄せた。
「何をする!」
「いいから、耳を貸してよぉ」
そう言うとロイドは彼の耳元に口を寄せる。そして、何事かをささやいた。
「……それは、確かに……」
次の瞬間、ジェレミアがいやそうに呟く。
「でしょう? だから、ますます厄介なんだよねぇ」
暗殺してきていいかな、と真顔でロイドは付け加えた。
「私も同意見だが……ルルーシュ様に内緒で勝手な行動を取るわけにはいかないだろうな」
ため息混じりにジェレミアはそう言い返している。
「あの腹黒殿下を巻き込めばぁ?」
「あぁ、その方法があったな」
二人の会話が次第に物騒になっていくような気がするのは錯覚ではないだろう。しかし、それでいいのだろうか。
「お前たち……」
ルルーシュの機嫌がさらに悪化していく。
「知らない方が幸せですってぇ」
「今はそれよりも優先すべきことがあるかと思います」
二人が慌ててこう言い返している。彼らが共闘するとは珍しい、と思わずにいられない。
「……お前たち……」
そうルルーシュは呟く。
「……そう言えば、そろそろおやつの時間だよね。ロイドさん、プリンがどうのこうのって言ってたけど?」
買ってきたの? とスザクは問いかける。
「もちろんだよぉ。僕の分とルルーシュ様の分が二つずつで、スザク君が一つ。ジェレミアはいらないよね?」
ロイドは即座にスザクの言葉に乗ってきた。
「……プリン?」
いや、彼だけではない。ルルーシュも、だ。
「はい。レイの店の新作をGETしてありますよぉ」
ロイドのこのセリフでルルーシュはとりあえず問題を棚上げにすることにしたらしい。
よかったのかな、とスザクは首をかしげて見せた。
だが、結果としてエリア11でのことは全て丸く収まったらしい。
だから、よかったということにしておこう。
13.06.03 up