恋は戦争?
菊重
数日後、また、神楽耶から面会の申請があった。だが、今度は彼女だけではなく、ほかにも数名、同行者があると言う。
「おそらく、カレンのグループの人間だろうな」
ルルーシュはそう言って笑った。
「どうやら、あのファイルは十二分の効果を示したらしい」
まぁ、それは当然だろう……と彼は続ける。
「あれを作った連中はすでに捕縛されているだろう?」
ついでにシュナイゼル殿下が直々に処罰を与えたらしい。スザクはそう口にした。
「さすがに陛下には内緒みたいだけど」
「当たり前だろう! あんなもの、あのロールケーキが見たらどうなると思う?」
ブリタニアは粛清の嵐になる。そうなれば、国内が不安定になるだろう。そうなれば、エリアで反乱が起きるかもしれない。さすがにそれはまずい、とシュナイゼルが考えたのではないか。
「しかし、予想以上の威力だったな」
こちらでも、とスザクは呟く。
「いろいろな意味でな」
苦笑とともにルルーシュがそう言い返してくる。そこに、神楽耶と桐原がカレン達を連れて姿を見せた。
「……藤堂さん?」
いや、彼らだけではない。何故か関係ないはずの藤堂達の姿もあった。
「万が一のことがあっては困るからの。護衛代わりじゃ」
しれっとした口調で藤堂が言う。
「もちろん、ルルーシュ様が何かされるとは考えておりませんがの。問題なのは道中でのことです」
最近、自分達の周囲も微妙にきな臭くなってきている。彼はそう続けた。
「それはそれは……厄介だな」
ルルーシュはそう言うと顔をしかめる。
「かといって、こちらから護衛を出すのも筋違いか」
困ったな、と彼は続けた。
「まぁ、いい。それに関しては後で相談しよう。それよりも先に片付けなければいけないことがあるしな」
言葉とともに彼は視線を移動させた。
「それで、お前たちがここに来た、と言うことは、敵対をやめると言うことか?」
それとも、単にあちらとは共闘しないという宣言か? とルルーシュが問いかける。
「どちらかというと、後者……かな」
気弱そうな男が口を開く。
「とりあえず、自己紹介をさせてもらう。俺は扇だ。扇要。こちらが玉城。カレンは……紹介しなくてもだいじょうぶか」
彼はそう続けた。
「そうだな」
苦笑とともにルルーシュは頷く。そして、次の言葉を促す。
「我々は、とりあえずあちらには協力しない。君たちとの協力関係は……これから判断する」
あちらも信用できないが、ブリタニアも信用できない。ルルーシュ以外の人間が聞けば無条件で激怒しそうなセリフを扇は口にした。
「まぁ、当然だな」
だが、ルルーシュは平然と受け流す。
「俺としては、あちらに集中できるだけで十分だ」
それだけではない。微笑みすら向けている。そうすれば、マリアンヌ譲りの美貌がひときわ際立つ。実際、免疫のない者達は呆然と彼の顔を見つめている。
「問題はお二人の方でしょうな」
不意にジェレミアが口を開いた。
「部下の名誉ブリタニア人をつけるか……それとも、いっそ、しばらくクルルギに行かせるか」
「ちょっ! ジェレミアさん、それはなし!!」
ルルーシュのそばを離れるなんて、とスザクは即座に抗議の言葉を口にする。
「スザク」
そんな彼の名をルルーシュがいさめるように口にした。
「……ごめん」
とりあえず謝罪の言葉を返す。
「だが、それも選択肢の一つだな」
何かまずい方向に話が進んでいるような気がするのは錯覚ではないだろう。
頼むからあきらめてくれ。
本気でそう考えてしまうスザクだった。
だが、その願いはあっさりと潰えた。
「何で、僕が」
スザクは本気で反論する。
「作戦上、必要だからだ」
ルルーシュが静かな声でこう言い返してきた。
「他の誰でも目立ちすぎる。そして、ブリタニア軍に影響力を持っていない」
だが、スザクであればヴィ家の養い子でルルーシュの専任騎士――まだシャルルの正式な許可をもらっていないから候補だが――と言うことで有名である。任務で離れていると言えば誰もが納得するだろう。
「それはわかるけど……でも、僕がルルーシュから離れたくない」
ルルーシュのそばにいたいから、あれことがんばってきたのに。せめて、何か約束があるなら我慢できるかもしれない。だが、きっと彼はそんなものをくれないだろう。
そんなことを考えていたのがわかったのだろうか。ルルーシュは軽く首をかしげる。
「そうだな。お前ががんばって役目を果たしたら、何でもお願いを聞いてやろう」
そして、こう言った。
「何でも?」
本当に? とスザクは反射的に聞き返してしまう。
「もちろんだ」
ルルーシュは自分がどれだけ危険なセリフを口にしているかわかっていないのではないか。
「……たとえば、ベッドの中であれこれしてもいいってこと?」
とりあえず、確認のために問いかけてみる。その瞬間、ルルーシュが凍り付く。
「やっぱり、そこまで考えてなかったんだ」
彼のその様子にスザクはため息とともにそう告げる。
「そうじゃないかなって思ってたけどな」
全く、と呟く。本当に自分の気持ちを認識してくれていなかったのか。
「スザク……」
ようやく現実に戻ってきたらしいルルーシュが彼の名を呼ぶ。だが、どこかぎこちない。
「お前は、知っているのか?」
「何を?」
「……その……やり方を、だ……」
何か、以前にも似たような話をした記憶があるのは錯覚だっただろうか。
「知ってるよ。実践はないけど」
それが何か? と聞き返す。
「知っている……」
「聞かなくても教えてくれるし。最近だとロイドさんから専門書をもらったよ?」
たぶん、出所はもっと別のところだと思うが、と付け加える。
「……そうか……」
そうなのか、と彼はため息をつく。
「だって、ルルーシュを傷つけるのはやだし……僕の方が背が高くなったし……」
いつだって、そう言う関係になりたいと思っていたし、とスザクは続ける。
「確かに、逃げていた俺も悪いか」
視線を彷徨わせながらルルーシュはこう言った。
「……無理なら、いいよ。キスだけでも」
とりあえず譲歩案も口にしておく。こうしておかないと嫌われる可能性もあるから、とスザクは考えたのだ。
「キスなら、いつもしているだろう?」
しかし、ルルーシュは予想もしないセリフを返してくる。
「意味がわかっているの?」
「……触るだけだぞ?」
最後まではしないからな、とルルーシュは叫ぶように口にした。それが彼なりの譲歩なのだろう。
「約束したからな! 絶対だぞ」
スザクはそう言うと笑って見せた。
13.06.10 up