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恋は戦争?

楓紅葉



 今まで身にまとっていた騎士服ではなく、動きやすい服装で座っている。
 それは構わない。
 ルルーシュがこっそりと街に行くときはよくこうしていたのだ。
 問題はただ一つ。
「何でお前の顔を見ていないといけないんだろうな」
 そう言うと、スザクはため息をつく。
「それはわたくしのセリフです」
 即座に神楽耶が言い返して来る。
「しかもため息ばかり。鬱陶しいですわ」
 さらに彼女は追い打ちをかけてきた。
「仕方ないだろう。ルルーシュの顔が見られないんだから」
 士官学校に行っていたときもそうだった。でも、今の方が辛い。
 それはきっと、約束のせいだ。
 あんな約束とその後に手付けというセリフとともに重ねられた唇のぬくもりが忘れられないからだろう。
「……やっぱ、早々に澤崎は叩きつぶさないと」
 そうでなければ、自分がルルーシュ不足で倒れる。いや、その前に我慢できずに戻るか。
 でも、そうしたら怒られたあげく、命令無視で約束がなかったことにされるか。
 それは困る。
「やっと、一歩前進できそうだったのに!」
 そう、やっとだ。
 出会ったのが五歳の時だから、あれから十二年か。我ながら我慢したよな。
「……本当に執念深いですわね、お従兄様」
「お前には負ける」
 第一、自分よりも年上ではないか、彼は。言外にそう付け加える。
「いいではありませんか。そのくらいの年齢差」
 ルルーシュとスザクの倍だ。そう言って彼女は笑う。
「まぁ、がんばれ。相手にも拒否権はあるからな」
 逃げられることも覚悟しておけ、と言外に告げる。
「皇の血はあきらめが悪いのですわ」
 ころころと彼女は笑いを漏らす。
「それはお従兄様が一番よくご存じでしょう?」
「……否定はできないな」
 それに関しては、とスザクは呟く。
「でも、勝算があったから」
 マリアンヌが味方についてくれていたし、と心の中だけで付け加える。
「将を射んとせばまず馬を射よと言うのは、本当だったよ」
 あるいは、外堀を埋めていくと言うべきか。
「ご助言、ありがとうございます……と言うべきなのでしょうね」
 神楽耶はいやそうにそう口にする。
「一応、お前には幸せになってもらわないと困ると言うか……子供を産んでもらわないと困るから」
 そうでなければ、最悪、自分におはちが回って来かねない。
「まぁ、そんなところだろうと思っておりましたわ」
 でも、と神楽耶は微笑む。
「お従兄様のそう言うところは嫌いではありませんわよ? それに、お幸せになっていただきたいというのもお従兄様のお気持ち程度には考えております」
 ルルーシュには不幸だったかもしれないが。そう付け加えられて、スザクは思わず相手をにらみつける。
「ルルーシュが不幸なわけないだろう。拒否権は向こうにあるんだし」
 自分は彼に好きになってもらえるように努力するだけだ。スザクはそう続ける。
「それでルルーシュが僕を選ばなくても、それならそれでいいし」
 ルルーシュのために努力した時間が無駄だとは考えない。スザクはそう言いきった。
「本当にお従兄様は変わられましたわ。以前のお従兄様でしたら、ルルーシュ様をさらって逃げ出されたでしょうに」
「そんなことをしたら、ルルーシュがかわいそうだろう? ナナリーに会えなくなるし」
 何よりもマリアンヌ達が怖い。
 彼女達ならば、間違いなく世界中をネズミ一匹逃さないように周到な作戦を立てて探しまくるだろう。自分も彼女から逃げ切れる地震は、全くない。
「本当に変わられましたわ」
 神楽耶がこういったときだ。外が騒がしくなる。
「……神楽耶?」
「わかっていますわ、お従兄様」
 彼女の言葉を合図にスザクは立ち上がった。そして、刀を握る。
「さて……誰が来るかな」
 こいつらのせいでルルーシュから離れることになったのだ。責任を取ってもらおう。多少八つ当たりしてもかまわないよな。
 そう考えながら、スザクは唇の端を持ち上げた。

 室内に飛び込んで来たの日本人ではなかった。
 顔立ちはよく似ているが、微妙に違う。
「……中華連邦の軍人かよ」
 やっぱり、と呟きながら、鞘をつけたままの刀で相手を殴りつける。
「二三人残しておけばいいよな」
 どこの連中なのかを確認するには、とスザクは呟く。
「でも、斬ると後が面倒か」
 室内の清掃と言うよりも、刀の研ぎ直しがだ。
「ちゃんと職人を確保しておりましてよ」
 背後から神楽耶が声をかけてくる。当然、連中はそちらに向かおうとする。
「隠れている意味がないだろう」
 全くと呟きながらスザクは刀を抜く。そして、神楽耶へと伸ばされた手を叩ききった。
 一瞬遅れて、そこから血が噴き出す。
「お従兄様!」
 非難するように神楽耶が彼の名を呼んだ。
「相手の気を引いたお前が悪い」
 それでも、できるだけ血がかからないように注意はしたつもりだ。
「まぁ、おかげで隙を突くことができたけどな」
 それだけは感謝してやろう。そう続ける。
「……できれば、もう少し穏便にしてくださいませ」
 神楽耶が少しだけ表情を和らげると言葉を口にした。
「相手に言え、相手に」
 即座にスザクはそう言い返した。同時に襲撃者の背中を思い切り蹴飛ばす。伝わってきた感触から判断して背骨はともかく、あばらの一本は折れているはずだ。
 皿に念を入れようと、倒れた男の利き手を思い切り踏む。鈍い音が周囲に響いた。
「容赦ありませんのね」
「する必要があるのか?」
 神楽耶の言葉にそう言い返す。同時に、襲撃者を縛り上げるためにロープを拾い上げた。
「ありませんわね」
 神楽耶が頷いてみせる。
「とりあえず、手伝え」
「何をすればいいのですか?」
「縛り上げた連中を手錠で適当なところでつないでくれ」
「お任せください」
 神楽耶の言葉に頷くと、スザクは手早く作業を開始する。流れ作業的に、彼女は椅子だの机に男達を手錠でつないでいく。それが何か別の作業に見えたのは錯覚だろう。
「皆は無事でしょうか」
 ふっと思い出したというように彼女は問いかけてくる。
「大丈夫だろう。藤堂さん達がこの程度で負けるはずがない」
 それこそ、ナイトメアフレームでも持ち出さなければ、だ。
「終わったか?」
 その可能性が高い以上、移動するしかない。
「もちろんですわ」
「じゃ、行くか」
 そう言うと、スザクは歩き出す。当然のように神楽耶も後をついてきた。

 数分後、何かが壁を破壊する。次の瞬間、ガン・ルゥのカメラが室内のようすを確認していた。



13.06.17 up
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