恋は戦争?
黄櫨紅葉
「ナイトメアフレームが出てきたんだ」
スザクはそう言って笑う。
「馬鹿だな。これでブリタニア軍が動ける」
これは間違いなく敵対行為だ。しかも、この場所は軍事施設ではない。周囲の人々は避難させてあるとはいえ市街地だ。
「……藤堂さん。ナイトメアフレームの操縦は?」
スザクはそう問いかける。
「不本意だが身につけた」
何が不本意なのかは聞かなくても想像がついた。それに、今重要なのはそれではない。
「準備しておいてよかったな、やっぱり」
それがあればガン・ルゥ相手でも対処できるだろう。
「あるのか?」
かみつくように問いかけてきたのは朝比奈だ。
「グラスゴーだけど。あぁ、ルルーシュが『持っていけ』と言ってくれたから、問題はない」
さすがにサザーランドは無理だった。あれはまだ、軍以外に流出していない。
「十分」
彼はそう言って笑う。
「まぁ、基本的に藤堂さん達は神楽耶と桐原のじいさんの護衛だけど」
相手をするのは、あくまでも自分だ。スザクはそう言う。
「ずるい!」
「仕方ないでしょうが。あんた達が出て行ったら、テロリスト扱いですよ?」
一緒に撃墜されかねない。そう続けた。
「目立たないなら、適当にごまかせるとは思うけどね」
それに、とスザクは笑う。
「あの程度の数、一人でどうにかできなかったら、僕がルルーシュに怒られる」
ひょっとしたら嫌われるかもしれない。それだけはごめんだ、と言い切った。
「確かに、好きな人に嫌われるのはいやだよね」
朝比奈がすぐに同意をしてくれる。
「失望されるのはもっといやだし」
「否定しないな」
さらに言葉を重ねれば、千葉も頷いて見せた。
「そういうことなので、おとなしくしていてください。でも、危険が迫ったときには遠慮なく反撃をしていいですから」
それに関しては文句を言わせないから、とスザクは続ける。
「なら、来てくれることを祈ろう。暴れたいし」
にこやかにそう言った朝比奈の後頭部を、仙波と卜部が押さえつけた。
「何もないのが一番だろうが」
それを、自分が暴れたいからと言って何を言っているのか。さらにその頭に向かって小言を落とす。
「何にしても、一応、セシルさんあたりに声をかけてください」
騒いでいる朝比奈達を無視して、スザクは藤堂と神楽耶へと告げる。
「わかりました」
「無駄な戦いは避けるべきだろうな」
二人がこう言ってくれたのならば大丈夫だろう。
「じゃ、暴れてくるんで」
こう言うと同時に、スザクはきびすを返す。そのまままっすぐにロイド達がいるトレーラーへと向かった。
「と言うわけですから、神楽耶達をお願いします」
駆け寄ってくるロイドを無視して、セシルへと声をかける。
「わかっているわ。ロイドさんが彼らをそそのかさないように見ておくわね」
セシルのその言葉に笑い返すと、スザクは奥へと進む。その間にも手早く上着を脱ぎ、シャツのボタンを外していた。
そのまま更衣室へと足を踏み入れる。
ロッカーからパイロットスーツを取り出すと、なれた動きで着替えをはじめた。それは手早いと言っていいのではないか。
「スザクくぅん! 準備は?」
しかし、ロイドは待ちきれなかったようだ。
「できています」
彼は決してラウンズの誰かのように戦闘狂ではない。ただ、ランスロットの性能を確認するのが待ちきれないのだろう。
それはそれで困ったものだ。
心の中でそう呟きながらスザクはファスナーをしめながら大股にドアに近づく。
「相手は逃げませんよ」
そう言いながらドアをくぐった。そうすれば、目の前にランスロットの姿が確認できる。
「でも、正規軍が来るかもしれないだろう?」
それでは獲物が減るのではないか。ロイドはそう言って笑った。
「少しでも多くデータを取りたいしぃ」
彼としては、それが一番重要なのだろう。
「はいはい。そう思うなら、ちょっとどいてください」
ランスロットに乗れない、と付け加えれば、おもしろいようにロイドは脇に移動した。
「全部やっつけていいからねぇ」
「まぁ、僕としてもちょっとあいつらにはいらついているんで」
あいつらがちょっかいを出してきたから、自分はルルーシュと離れる羽目になった。その責任を取ってもらわなければいけないだろう。
もちろん、今ガン・ルゥに乗り込んでいる連中がちょっかいを出してきたわけではないのかもしれない。だが、組織が同じなら連帯責任でいいのではないかと思う。
「徹底的にやってやる」
にやりと笑いながらランスロットのコクピットへと滑り込む。
「さすがに神楽耶に八つ当たりはできなかったからな」
だが、敵ならば遠慮はいらない。そう呟くとスザクは壮絶な笑みを浮かべる。
「あきらめろよな」
こう呟くと、ランスロットを移動させた。
「セシルさん。準備できました」
『わかったわ。ハッチを開くわね』
すぐに言葉が返される。同時に、目の前のハッチが開いた。
「行きます!」
言葉とともにランスロットを発進させる。
そのまままっすぐに敵の中へと切り込んでいった。
もうじきエナジー・フィラーが切れる。だが、ランスロットの周囲に動いているものはいない。
「セシルさん? これで殲滅できましたか?」
いい汗をかいた、と心の中で呟きながらスザクは問いかける。
『動いている機体はいないわ』
即座に言葉が返ってきた。
『でも、まだ生き残りがいるかもしれないわ』
それは当然だろう。脱出装置も効いていたようだし、とスザクも納得する。
「わかっています。でも、エナジー・フィラーが残り少ないんですよね」
このままでは、いつ、切れるかわからない。言外にそう言い返す。
『戻ってきていいよぉ!』
不意にロイドの声が割り込んでくる。
『後はルルーシュ様とジェレミアが責任持つってぇ』
だからデーターの解析に付き合ってねぇ、とロイドはにこやかに付け加えた。
「ルルーシュがいるなら、そちらに合流したいと思いますが?」
同じような表情を作りながら、スザクは言い返す。
「でないと、トレーラーの中で暴れますよ?」
ひょっとしたらデーターが飛ぶかもしれないですねぇ、とさわやかな口調で告げた。
「それはだめぇ!」
即座にロイドが悲鳴を上げる。
「殿下に連絡を取ってあげるからぁ」
お願いだから、データーは消さないでぇ! と彼は続けた。
「なら、さっさとしてください」
スザクはそう告げる。
「ちょっと待っててねぇ。何にも触っちゃだめだよぉ!」
念を押すようにロイドはそう言うと、慌てたようにかけていく。
「……着替えておこうかな」
それとも、このままでもいいのだろうか。スザクはそう呟きながらロイドの背中を見送っていた。
「久々のルルーシュの姿が見られると思ったのに……」
ジェレミアと合流してから何度目のセリフだろうか。スザク本人が数えていないかわからない。
「仕方があるまい。夜になればお目にかかれる」
慰めるように彼は言葉を返してくれた。
「それはわかっているんですけど……このままだと、暴走しそうでまずいんです、いろいろと」
この言葉の意味がわかったのだろう。ジェレミアは小さなため息をつく。
「ルルーシュ様のためにも、できるだけ抑えろ。無理なようなら別方面で発散できるようにしてやろう」
そして、心配しているとわかる声でこう言ってきた。
「大丈夫です」
そんなことをしたら相手を殺しかねないから、とため息で告げる。
「限界が来るまでは我慢します」
そう告げれば、ジェレミアがそっと肩を叩いてくれた。
13.06.25 up