恋は戦争?
紅薄様
しかし、二回目のチャンスはなかなか来ない。
「それもこれも、全部、中華連邦が悪いんだ!」
思わずこんなことを口にしてしまう。
「あいつら、叩きつぶしてこようかな」
ぜーんぶ焼き払ったら、こちらにちょっかいを出してくる余裕はなくなるのではないか。むしろ、こっちに都合のいい人間をトップに据ええられるよな、と呟く。
「スザク……」
そんな彼の耳にルルーシュのあきれたような声が届く。
「だって、ルルーシュ。最近、また忙しくなったからキス以上のことをさせてくれないし」
せめて、触るぐらいはしたい。言外にそう主張する。
「……示しがつかないからな」
視線を向ければ彼は微妙に頬を赤らめながら視線を彷徨わせていた。その様子がかわいいと思う。
「やっぱり、叩きつぶして来よう」
シュナイゼルに相談すれば、適切な作戦を考えてくれるはずだ。
「そうすれば、ナナリーの顔を見に帰れるかもしれないし」
さりげなくそう付け加えれば、ルルーシュの表情が微妙に変化した。
「ナナリーも『会いたい』って言ってきてたじゃん」
さらに一押しすれば彼はため息をつく。
「確かにそうだな」
しかし、とルルーシュは続けようとした。
「クロヴィス殿下はたまに向こうに戻っていらっしゃるだろう? どうして、ルルーシュはだめなんだ?」
それよりも早くスザクはこう問いかける。
「……兄さんは向こうでも仕事があるからな」
趣味の、と付け加えられたような気がするのは錯覚ではないはずだ。
「とは言えども……一度、本国に戻った方がいいような気がするな」
ナナリーのことだけではなく、と彼は呟く。
「その前に兄上に相談をして、近くに艦隊をよこしてもらわなければいけないが」
さらに付け加えられた言葉で、スザクにはルルーシュが何を考えているかわかったような気がした。
「そういえば、ロイドさんが空を飛ぶ旗艦が完成間近らしいって言ってたっけ」
「ロイドが?」
「シュナイゼル殿下が試作機を完成させたとか。自分が知らないところで作るなと騒いでいたよ」
「そうか」
スザクの言葉に、ルルーシュは小さく頷く。
「ならば、確認しないとな」
その上で、使えるようならばシュナイゼルから借りる。そうすれば、作戦の成功率が上がるだろう。
「後は根回しか」
神楽耶だけではなくカレンたちとも必要か、とルルーシュは呟く。彼の脳裏では、今ものすごい勢いで作戦が展開しているのだろう。
こうなると、もう声をかけない方がいい。
スザクはそう判断をして口をつぐむ。代わりにルルーシュの足下に近づくとそこに座り込んだ。
無意識なのだろうか。彼の手がスザクの髪に絡んでくる。そのまま、そっと髪の毛を梳きだした。
その指の動きが心地よい。
ルルーシュの思考を邪魔することなく、その心地よさに甘えることにした。
まぁ、その後で理性を総動員させることになったのは否定できない事実ではあったが。
「……とりあえず、数日、里帰りをしてくることにしました」
ブリタニアから戻って来たクロヴィスに向かってルルーシュはそう宣言する。
「ルルーシュ?」
それにクロヴィスが慌てたように彼の名を呼んだ。
「いきなり、何を……」
「ナナリーとユフィがごねているそうなので、なだめて来ます」
ついでにあの方も、とルルーシュは深いため息とともにはき出す。
「……あぁ、そういうことか」
確かに顔を出しておいた方がいいかもしれないね、とクロヴィスはため息をつく。
「しかし、この時期に……」
「この時期だからこそですよ、兄さん」
舞台の悪役のような笑みをルルーシュは口元に浮かべる。でも、そうしているときのルルーシュは凄艶というのがぴったりと来る。
「俺がこのエリアを離れれば、連中が動きます」
「……ルルーシュ」
ルルーシュの言葉を耳にした瞬間、クロヴィスが泣きそうな表情を作った。
「もっとも、一日あればコゥ姉上が救援に来ますが。ジェレミアも置いていきますし」
それに、とルルーシュは笑みを深める。
「ここの守りが不安だと言ってノネットをよこしてもらえるように手配してあります」
二人がいれば一日ぐらいは十分に持ちこたえられるはずだ。
「それに、シュナイゼル兄上がおもしろいものを完成させたそうですので、それを使えば俺もすぐに戻ってこられます」
微笑みながら、彼はさらにそう付け加える。
「つまり、私はお飾りで連中への餌になればいいんだね?」
自分の役目がわかったのだろう。クロヴィスはこう言った。
「すみません、兄さん」
「そのくらいなら私にもできるだろうから、安心してくれていいよ」
苦笑とともにクロヴィスは頷く。
「兄上を傷つけさせるようなことはしません」
安心してください、とルルーシュは笑みを優しいものに変える。
「本当はスザクも置いていきたいところですが、それではばれますし……ナナリーが悲しみますからね」
「何よりも君が悲しむだろう?」
からかうようにクロヴィスが言葉を返す。
「騎士を二人とも君から取り上げるなんてできないよ。エニアグラム卿もおいでなら大丈夫だろう」
自分でも、と彼は続ける。
「何事もないのが一番だが」
「難しいでしょうね」
二人はそう言って頷きあった。
「……マリアンヌさんとナナリーの暴走も怖いけど」
ぼそっとスザクは呟いたつもりだった。しかし、静かな室内では予想以上に響いてしまう。
「クルルギ……」
隣にいたジェレミアが小さな声で注意をしてくる。
「すみません。でも……」
「わかっていても口に出すな、と言うことだ」
考えるだけでも怖い、と彼は続けた。
「でも、十分にあり得るな、それは」
特にマリアンヌは、とルルーシュはため息をつく。
「母さんが退屈しているらしいと、ナナリーも言っていたからな」
しかも、新しいおもちゃを手に入れたらしい。ルルーシュはそう続ける。
「誰だよ、それ!」
そんな危険なことを、とスザクは思わずこう言ってしまった。
「ラクシャータだろう」
ロイドがこちらにいる以上、と彼は言い返して来る。
「まぁ、最近、夜会ばかりで鬱憤がたまっていたらしいからな」
かといって、陣頭指揮を執らせることができるような戦場があるわけでもない。
しかし、自分がかかわっているとなれば彼女があれこれと口実をつけて出てくるに決まっている。
「ごまかせるはずがないからな」
かといって、このチャンスを捨てるわけにもいかない。
「ロールケーキとシュナイゼル兄上に期待しておこうか」
主に後者に、とルルーシュは続けた。
「とりあえず、今回のことを成功させるのが優先だね」
クロヴィスは苦笑を浮かべつつこう言う。
「そうですね」
いい加減、鬱陶しい連中を排除したいのは皆同じだから。ルルーシュも頷く。
「では、そういうことで」
「仕方がないね」
マリアンヌが何をしてくれるか。誰もがそれを考えようにしていたの否定できない。
もっとも、最初から結果は見えていたようなものだが……
13.08.21 up