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恋は戦争?

梅襲



「やだわ、ルルーシュ。お肌がつやつやじゃないの」
 再会した瞬間、マリアンヌが楽しげな表情とともにこう言ってくれる。
「充実しているのね、いろいろと」
 言葉とともに彼女はさりげなく視線をスザクへと向けてきた。それに思わず逃げ出したくなったのは否定しない。
 それでも、何とかスザクはその場に踏みとどまった。
「スザク君もずいぶんと大きくなったわね」
 にっこりと微笑むと彼女はそう言う。しかし、その視線が値踏みをしているように思えるのは錯覚ではないはずだ。
「ルルーシュより大きくなったのかしら?」
 そう言いながら、彼女はゆっくりと手を動かした。次の瞬間、反射的に体を沈み込ませる。
「母さん!」
 風を切る音とともに剣が先ほどまでスザクの首があった場所を通り抜けていく。
「不抜けてないわね」
 にっこりと微笑みながらマリアンヌはそう言った。
「よかった。締め直さないといけないかな、と思っていたのよね」
 何かものすごく怖いことを言われたような気がする。
「……だからと言って、母さん……」
「スザク君ならよけられるもの。あなたにしているわけじゃないし、かまわないでしょう?」
 ころころと笑いながら続けられたセリフに何と言い返せばいいものか。さすがのルルーシュもすぐには出てこないらしい。
「それに、大事な息子を守りきれるのかどうか。それも確認しないとね」
 いや、単なる暇つぶしか八つ当たりに決まっている。そう考えるものの、口に出さない。いや、そんなこと口にしたら命の危険が押し寄せてくるはずだ。
「それでも、スザクは俺の大切な騎士です。俺の許可なく傷つけられるのは不満です」
 ようやくフリーズから復帰したらしいルルーシュがこう反論する。
「ついでに恋人だもんね」
 これは間違いなくからかわれているとわかった。
「……母さん」
「いいじゃない。楽しいから」
 そう言う方ですよね、マリアンヌさんは。ため息しか出てこない。
「できれば、そう言う話は落ち着いた場所でしたいのですが」
 それでも、せめてこれくらいは主張してもいいよな、と思いながらスザクは口を開いた。
「いくら子供の頃から知っている人たちでも、そっちの方面を知られるのはちょっと……」
「確かに。ナナリーの耳にはあまり具体的なことは入れたくないしな」
 マリアンヌは根掘り葉掘り聞く気満々のようだが、とルルーシュもため息をつく。
「そうね。さすがに我が子の赤裸々な話を風潮する気はないし……万が一、シャルルの耳に入ったら大変だわ」
 心臓麻痺で倒れかねない、とマリアンヌも納得する。
「その前に、聞かないという選択肢はないのか」
 ルルーシュがそう呟いた。それにはスザクも同意をする。
「第一、最後までしてません」
「バカスザク!」
 思わず漏らしてしまった真実に、ルルーシュが本気で慌て出す。
「あら、そうなの?」
 しかし、マリアンヌはしっかりと食いついてくる。
「物足りなくない?」
「ルルーシュのそばにいられれば、それでいいです」
 彼女の問いにスザクはきっぱりと言い切った。
「あらあら。ごちそうさま」
 マリアンヌはそう言いながらルルーシュとスザクを両脇に抱えるようにする。
「ついでにあれこれと教えてね」
 今手をつけていることについても、と彼女はささやいてきた。これは間違いなく手を出す気満々なのだろう。
 こうなると、自分では手出しができない。ルルーシュに丸投げしてもいいだろうか。本気でそう考えてしまうスザクだった。

 とりあえずと言うことで、小さな談話室に落ち着く。と言うより、今はそう使われているが、自分が小さな頃はここは勉強を教わるための部屋だったよな、とスザクは現実逃避に励む。
「だって、ノネットを呼び出したんでしょう? あの子、出発前に報告に来たし」
 気になるじゃない、とマリアンヌが続けている。
「作戦上必要だからです」
 それに関しては、マリアンヌに報告する義務はない。ルルーシュはそう言う。
「あら、ひどいわね」
「ひどいのは母さんでしょう? 副総督以上の人間には、必要とあれば皇帝にも守秘義務を使えますよ」
 つまり、今回はそれに該当する。だから、話す必要はない。ルルーシュは淡々とした声音でそう言った。
「母さんをのけ者にするの?」
「それとこれとは別問題です」
「つまらないわ」
「なら、あのロールケーキでもかまっていてください」
 今回のことにマリアンヌをかかわらせるつもりはない。ルルーシュはそう言う。
「母さんが出てくると勝ちすぎます。それでは、別の意味で混乱が生じる」
 バランスが崩れれば中華連邦だけではなくブリタニアや日本まで巻き込まれるだろう。それでは意味がない。
「だから、母さんは当面、おとなしくしていてください」
 マリアンヌが動くだけで国が揺れる。ルルーシュはそう締めくくった。
「全く……口だけ達者になっちゃって」
 かわいげがない、とマリアンヌは頬を膨らませる。もうそろそろ不惑を超えているだろうに、そんな表情をすると彼女は息子と変わらない年齢に見えた。
「母さんとあのロールケーキの子ですからね」
 周りにも鍛えられた、とルルーシュは言い返す。
「育て方に失敗したかしら」
 ナナリーはあんなにかわいいのに、とマリアンヌはわざとらしいため息をついてみせる。
「ナナリーがかわいいのは、ルルーシュが可愛がったからじゃん」
 スザクは思わずこう呟いてしまう。
「そうだな。お転婆なのは母さんの影響だ」
 もう少しおとなしくしていてくれてもいいのに、とルルーシュも同意の言葉を口にした。
「あらあら。悪いのは全部母さん?」
「……それ以上にあのロールケーキでしょう」
 全く、とルルーシュは吐き捨てるように言葉を続ける。
「さっさと隠居すればいいのに」
 そうすれば、被害が減るのではないか。そうも続ける。
「ルルーシュはシャルルが嫌い?」
 マリアンヌが不意にそう問いかけてきた。
「そう見えますか?」
 ルルーシュが逆に聞き返す。
「文句しか言ってないでしょう?」
「……単に、鬱陶しいだけです」
 自分に干渉するのはやめて欲しい。ルルーシュはため息とともにそう続ける。
「確かに、シャルルの愛情は暑苦しいわね」
 苦笑とともにマリアンヌは頷く。
「そう言うあなたはどうなのかしら?」
「鬱陶しくないよな?」
 微妙に話がずれてきているように思えるのだが、と思いつつも頷く。
「もっと積極的でもいいけど……」
 ついでとばかりに本音を漏らす。
「今は俺が寝込むわけにはいかないからな」
 自分が動けなくなればいざというときの対処が遅れる。ルルーシュは視線を彷徨わせながらそう言った。
「別の、最後まででなくてもいいけど……」
「……まぁ、それは後でだな」
 ルルーシュが慌てて口を開く。
「あらぁ。何で? それが一番聞きたいことなのに」
 ひょっとして、あの話題転換はこの結果に持ち込むためだったのか。だとするならば、完全にはめられたよな。
「いやです!」
「何で?」
「全部、あのロールケーキにバレルでしょうが!」
 スザクの身柄が危なくなる。それは困る、と言ってくれるルルーシュにスザクは感動する。
「大丈夫よ。それは母さんがちゃんと止めるから」
 結局、自分はもちろんルルーシュもマリアンヌに勝てないんだろうな。スザクは改めてそう認識した。



13.08.30 up
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