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恋は戦争?

梅重



 マリアンヌの追求はナナリーが戻って来たことで終了となった。そのことにほっとしながら夕食を食べていたときだ。
「失礼します」
 普段は食事時には顔を見せない執事がこう言って入ってくる。その瞬間、マリアンヌとルルーシュの表情が引き締められた。
「何かあったの?」
 代表してマリアンヌがそう問いかける。
「マリアンヌ様にではございません」
「では、俺だな」
 ルルーシュの言葉に執事は頷く。そのまま彼はまっすぐにルルーシュの元へと歩み寄ってくる。
「……殿下。コーネリア殿下からご連絡が入っております」
 やっぱり、とスザクは小さなため息をつく。
「動いたか」
 わかりやすいな、とルルーシュは唇の端を持ち上げる。
「お兄様?」
 不安そうな表情でナナリーが呼びかけた。
「すまない、ナナリー。ちょっと忙しくなりそうだ」
 これが終わればゆっくりできるはずだ、とルルーシュは申し訳なさそうに告げる。
「ですが……」
「終わったら、あちらも落ち着くし……ナナリーが遊びに来ればいい。クロヴィス殿下も喜ぶよ」
 このままではまずい、とスザクは思わず口を挟んでしまった。
「あら、それはいいわね」
 マリアンヌがそう言って笑う。
「そうしたら、一日中、ルルーシュとスザク君を独占し放題よ?」
 今だだをこねてルルーシュが二度と帰ってこないのと、我慢して二人を独占するのとどちらがいいか。それは究極の選択というものではないだろうか。
「……どちらもいやだ、とは言えないのですね」
 ナナリーはそう言ってうつむく。
「わかりました……我慢します」
 自分は皇女だから、と彼女は続ける。だから、国のためならば割り切らなければいけない。そう続ける。
「だから、大丈夫です、お兄様。スザクさんも」
 次に顔を上げたとき、ナナリーは柔らかな笑みを浮かべていた。
「約束しましたからね。遊びに行ったらたくさんかまってください」
 さらにそう続ける。
「もちろんだ、ナナリー」
「不安だけど、従妹も紹介するよ」
 仲良くなってくれれば、それはそれで嬉しい。しかし、ナナリーに悪影響があるのではないか、と言う一点だけが不安だ。
「楽しみですわ」
 ナナリーはそう言って笑みを深める。
「その時には俺がナナリーの好きなお菓子を作ってあげるよ」
 ルルーシュのこの言葉にナナリーは頷く。
「気を付けていっていらっしゃい」
 マリアンヌが空気を変えるようにそう告げる。
「わかっています。母さんもあのロールケーキの暴走を止めていください」
 彼が横やりを入れてくると後々厄介なことになるから、とルルーシュは言外に続けた。
「任せておきなさい。ちゃんと玉座に縛り付けておくわ」
 だから、とマリアンヌは続ける。
「おいしいお酒を探してきなさい」
 この言葉は本当に彼女らしいと思う。
「わかりました」
 この言葉とともにルルーシュは軽く礼をする。
「スザク」
 そのまま視線を向けると彼の名を呼んだ。
「うん、ルルーシュ」
 即座に彼の元に駆け寄る。
「行くぞ」
 彼の体温が感じられる距離は本当に心地よい。だから、絶対に守る。そう考えながら、スザクは彼の後を追った。

 彼らが向かったのは、シュナイゼルのいる宰相府だった。
 事前に命じられていたのだろう。二人はすぐに奥まで案内された。
「すまなかったね、ルルーシュ。夕食中だったのだろう?」
 シュナイゼルがそう言いながら振り向く。
『ナナリーに怒られるか』
 こう言ってきたのはコーネリアだ。相変わらず彼女は《妹》に甘い。もっとも、ルルーシュも妹枠に入っているらしいのは公然の秘密だ。
「とりあえず、スザクがうまく取りなしてくれましたから……もっとも、姉上もこちらに戻られましたら、あの子を連れ出してやってください」
 それよりも、とルルーシュはコーネリアを見つめる。
「クロヴィス兄さんから連絡が?」
『あぁ。とりあえずゲットー内で暴れている者達がいるらしい。もっとも、テロリストグループと言われている者達の大半が静観しているようだが』
 おそらく、桐原の指示だろう。スザクはそう判断する。
「おそらく陽動でしょうね」
 ルルーシュは冷静にそう告げた。
「姉上。申し訳ありませんが、俺がつくまでよろしくおねがいします」
 特に危ないのはクロヴィスと六家の人間達だろう。
『わかっている。任せておけ』
 弱者を守るのは当然のことだ。彼女はそう言って笑う。
「指示は兄さんを飛ばして直接ジェレミアかエニアグラム卿に」
『もちろんだ。残念だが、クロヴィスにはこちらの才能はないからな』
 いや、政治の才能もないですから。もっとも、仕事から逃げ出す才能はたいしたものだが、とスザクは心の中で突っ込みを入れておく。
 それでも、ルルーシュの上にいられる人間という意味では及第点なのだろう。
 少なくとも、ルルーシュが立てる作戦に異論を挟んだ姿は見たことがない。だから今まで厄介事を無難に片付けられたのではないか。
「兄さんには別方面の才能がありますからね」
 ルルーシュは無難なセリフを口にした。
「俺にここまで好き勝手させてくれる、と言う度量の広さもありますし」
 オデュッセウスやシュナイゼルであれば話は別だろうが、そのほかの兄弟では難しいのではないか。彼はそう続ける。
『私もか?』
「姉上とは大げんかするでしょうね」
 作戦の詳細について、とルルーシュは苦笑を浮かべた。
『そうだな。私もそう思う』
 コーネリアもそう言って頷く。
『だが、その結果、被害を最低限にできるのは事実だからな。私はかまわない』
 好き勝手はさせられないが、と彼女は続ける。
『なるほど。そう言う意味ならば、納得できる』
「決して度量がないと申し上げているわけではありません」
 その言葉に、彼女は『わかった』と頷いて見せた。
『それで、お前がこちらに来るまでにどれだけかかる?』
 この問いにルルーシュは軽く首をかしげる。
「六時間ほど、ですか?」
 そのままシュナイゼルに問いかけた。
「そのくらいだろうね。もっとも、計画通りの性能が出せれば、だがね」
 試作だからまだまだ不安定なところがある。それでも、実践には十分使える。シュナイゼルはそう言い返す。
「不具合が出たらロイドに対策させます」
 ルルーシュはそう言って笑う。
「その方がおとなしくていい」
「……否定はできないね」
 それに関しては、とシュナイゼルも頷く。
『相変わらずですか、あの男は』
 コーネリアはため息をついた。
「それでも、あれは間違いなく優秀だよ」
「否定できません」
 不本意だが、と異母兄妹きょうだい三人は頷きあう。
『とりあえず、十二時間とみておこう。それまでは私がきちんと責任を持つ』
「おねがいします。俺もできるだけ早く戻ります」
 コーネリアの言葉にルルーシュも言い返す。
「でも、あまり無理はしないようにね、二人とも」
 そのくらいなら自分が出て行く、とシュナイゼルが言う。
 ある意味似たもの兄妹だよな、とスザクは心の中で呟いていた。



13.09.06 up
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