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恋は戦争?

松重



『スザク。フロートシステムに不調を感じたら、遠慮なく捨てろ』
 ルルーシュがこう指示してくる。その背後でロイドが何か騒いでいたが、それに関しては聞かなかったことにした方がいいのだろう。
「わかっているよ、ルルーシュ」
 死にたいわけではない。だから、とスザクは言い返す。
『わかっているならばいい。とりあえず、姉上と合流しろ。俺がつくまでは姉上の指示に従うように』
 すでに話はついている。ルルーシュはそう続けた。
「了解」
 彼女の指示ならば従うのに意義はない。自分の見栄だけで部下を死地に送り込むようなことをする人ではないと知っているからだ。
『それにしても、ここで不調とは……お前の設計が悪いからではないのか、ロイド!』
 ため息とともにルルーシュは怒りの矛先を彼へと向けたらしい。
『僕せいじゃないですよぉ!』
 通信機越しにロイドの声が耳に届く。
『文句は僕がいない間にこれを建造させたシュナイゼル殿下に言ってくださぁい!』
 自分がそばにいてきちんとチェックできていればもっとちゃんとしたものができていた。そう主張している。
 それはどうだろうか。
『言い訳よりも、さっさと動くようにしてこい!』
 これは本気で怒っているな。そう思わせるルルーシュの声に、スザクは少しだけ肩をすくめた。
「ランスロット、出撃します」
 だが、すぐに自分の為すべきことをするだけだと思い直す。
『了解。気を付けてね』
 セシルがすぐに言葉を返してくれる。
『ロイドがこれを直し次第、俺たちも追いかける。本当はお前一人行かせたくはないんだが……』
「大丈夫。ちゃんと待ってるから」
 その言葉とともにスザクはランスロットを発進させた。
「……本当に飛んでるや」
 信じられない、と呟く。
 しかし、と表情を引き締める。いつ、これが停止するかわからない。アヴァロンですらああなのだし、と口にする。
「早々にコーネリア殿下と合流すべきなんだろうな」
 そこでフロートユニットを切り離してもいい。
 どちらにしろ、今回は緊急処置だとわかっている。そうでなければ、ルルーシュだってこんな賭のようなことはしなかっただろう。
 彼が自分のことをどれだけ大切に思ってくれているか。その気持ちを疑ったことは、一度もない。
 だから、いつだって彼の所に戻れるのだ。
「一緒に来てくれるのが一番安心なんだけどね」
 一番近くで守れるから、と呟く。
 だが、騎士である以上、主の命令に従わなければいけないことも事実。
「……まぁ、進めなくなっただけで落ちているわけじゃないし、武装は生きているから大丈夫だよな」
 あれに乗り込んでいる者達はロイドとセシルを除いてシュナイゼルが信頼している者達らしい。しかも、マリアンヌの熱烈な信者達だとか。だから、何が何でもルルーシュのことは守ってくれるだろう。
「後は、僕がさっさと終わらせればいいだけか」
 ナナリーとの約束もあるし、とそう呟く。
「だから、少し急ぐか」
 そう呟くと、スザクはランスロットのスピードを上げた。
 壊れなければいいが、と一瞬、脳裏をかすめる。
 しかし、その時はその時で何とかなるだろう。そう考えると同時に、その不安は箱に押し込んで鍵をかける。
「クロヴィス殿下はご無事だろうけど、神楽耶達はどうかな」
 人質になっている可能性がある。それだけが不安だ。
 もっとも、おとなしく捕まっているかどうかはわからないが。
「自力で何とかしていてくれよ」
 半ば祈るようにそう告げると、微妙に不調を伝え始めたフロートユニットの操作に集中することにした。

 コーネリアたちと合流したのは、ハルミあたりの埠頭だ。
「……まさか、空を飛んでくるとは……」
 あきれているのか、それとも驚いているのか。今ひとつ判断がつきかねる声音でコーネリアがこう言ってくる。
「テストも兼ねていましたので。もっとも、最後の方は墜落しそうになりましたが……」
 予想以上にエナジー・フィラーの消費が大きい。これに関しては後で何とかしてもらわないと使い物にならないのではないか。
「そうか……実戦で使えるようになれば、作戦の幅が広がるな」
 やはり目の付け所がルルーシュとそっくりだ。
 そう思いながら次の指示を待つ。
「とりあえず、お前はクロヴィスの元に行け。ジェレミアがそばにいるらしいが、あれだけでは不安だ」
 コーネリアはそう続ける。
「はい」
 ジェレミアならば例えひとりでも大丈夫だろう。もっとも、他に足手まといがいるならば話は別だ。
 そして、状況から考えて足手まといがいるんだろうな、とスザクは判断する。
「ダールトン」
「三人つけます。当面は、それでしのいでもらうしかないかと」
 コーネリアの言葉にダールトンがこう言い返してきた。
「大丈夫だな?」
 ダールトンがこう言ってきたのは連携のことだろうか。
「フォローしていただけるなら」
 自分がそちらの連携に加わるのは難しいだろう。だから、自分は自由に動いてそちらに連携してもらえればいい。そう判断して言葉を口にする。
「クルルギは自由に動かせた方がいいな」
「息子達にはそう言っておきましょう」
 二人がこう言ってくれたことにとりあえずほっとしておく。
「後はバカどもだが……こちらは我々が対処する。あちらに合流してからはルルーシュを待て」
「はい」
 スザクはすぐに頷く。
「しかし、これであれを本気でたたきつぶせるな」
 楽しみだ。そう言って笑う彼女にスザクは曖昧な笑みを返す。
「エナジー・フィラーの交換が終わり次第、動け。できるだけ派手にな」
「それは得意です」
 反射的にこう口にする。
「さすがはマリアンヌ様の弟子と言うだけはある」
 即座にダールトンがこう言ってきた。これはほめられているのか。それとも、とスザクは悩む。
「そう言うことですから、息子達の中でも年長者をつけましょう。あれらはマリアンヌ様の戦いぶりを知っております故」
 スザクがどのような動きをしようとも冷静にフォローできるだろう。ダールトンは言外にそう付け加える。
「そうか」
 それは楽しみだ、とコーネリアは笑む。
「ならばクルルギ。遠慮はいらぬ。好きなだけ暴れろ」
「はい」
 手加減をしなくていいならばその方が楽だ。
「それと」
「何でしょうか」
「クロヴィスを頼む」
 小さな声で彼女はそう告げる。
「もちろんです。ルルーシュとナナリーの次に守りたい方ですから」
 本来ならばここにマリアンヌの名前も入れるべきなのかもしれない。だが、どう考えても自分の方が守られてしまうような気がしてならないのだ。そして、それは間違っていないだろう。
「そうか。それならば任せよう」
 頼んだぞ。改めてそう告げるコーネリアにスザクは頷いて見せた。

「では、行ってきます」
 そう言うと立ち上がる。
「ルルーシュが来たときにはそちらに合流するように行っておく。クロヴィスでは今ひとつ不安だからな」
「はい」
「その後は、あれの指示に従え」
 ルルーシュならば的確な援護をしてくれるはずだ。そう言う彼女にスザクは同意をするように頭を下げた。



13.09.15 up
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