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恋は戦争?

紅匂い



 膠着状態に耐えきれなくなったのか。先に動いたのは連中の方だった。
「……まぁ、こっちにいる連中がいなくならないと言うことは、それだけコーネリア殿下が自由に動けると言うことだよな」
 敵がどれだけの数を用意しているのかは知らないけど、と呟く。それでも、内密に搬送してきたのだ。ブリタニア軍以上のナイトメアフレームを用意できているとは思えな。
『あまり気を抜くな』
 即座にジェレミアから注意の言葉が飛んでくる。
「わかっています」
 それでも、とスザクは言葉を返す。
「コーネリア殿下が敵の本拠地を叩いてくだされば、こちらにはこれ以上増援がないと言うことですよ」
 そうなれば、後は殲滅するだけだ。スザクはそう続ける。
「そろそろ、皆、焦れているようですし」
 さらにそう付け加えればジェレミアも納得したらしい。
『確かにな』
 ルルーシュがいないからと言うだけではないが、待機を命じられている。それなのに、コーネリアの部下達は次々と武勲を上げているのだ。
 いくら作戦とは言え、割り切れないものがあるだろう。
『状況次第で考えておこう』
 それがわかっているからか。ジェレミアはこう言った。
「……ルルーシュが帰ってきてくれれば話は別なんだろうけど」
 彼がここにいれば、待機だと言われても皆が納得する。
 それは、彼が絶対に無意味なことをさせないと知っているからだ。
『そろそろ戻られてもおかしくはないのだろうが……一緒にいるのがロイドだからな』
 どこまでジェレミアはロイドを信用していないのか。
 なにやら、パブリックスールで寮生活をしていたときにあったらしいが、詳しいことは聞いていない。ジェレミアは話したがらないし、ロイドはだんだん話がずれていくのだ。
 つまり、聞かない方がいいことなのだろう。
 自分がそう判断したのは賢明なことなのだろう、とスザクは判断している。
「セシルさんに期待しましょう!」
 彼女であれば適切な対処を採ってくれるはずだ。だから、きっとルルーシュは間に合うに決まっている。スザクは言外にそう続けた。
『あまり女性に負担を押しつけたくないが……仕方がないか』
 さすがはジェレミア。女性には優しい、と心の中でスザクは笑う。
「大丈夫ですよ。セシルさんはマリアンヌさんによく似た性格をしているから」
 あそこまでは強烈ではないが、とセシルのために付け加える。
『そうか……女性も強くなったものだ』
 どこか達観したような声音でジェレミアが言葉を返してきた。
「マリアンヌさんが強いですからねぇ」
 それを見習っているだけではないか。
「ラウンズも女性が多いですし……何よりもコーネリア殿下がマリアンヌさんを見習っていますから」
 それをまねする人間がたくさんいてもおかしくはない。スザクはそう言う。
「騎士ならばそれでいいと思いますけど?」
『……騎士ならば、な』
 さらに彼は何かをぶつぶつと呟いている。
 何かあったのだろうか。
 一番高い可能性は、誰かに振られたと言うことだな。スザクはそう判断する。
 とりあえず、それについては放っておこう。そう考えて視線をセンサーに戻す。
「……あれ?」
 一見、何も変わっていないように見える。
 しかし、何故か違和感を感じたのだ。
「ジェレミアさん」
『どうした?』
「連中の動きを確認してもらえますか? 何かおかしいような気がするんですが」
『ちょっと待て』
 そう告げると、司令室で何か指示を出している声が聞こえる。
 ここの周囲は監視カメラがかなりの数設置されているはず。だから、連中が何かをしていても確認するのは難しくないのではないか。
 その考えは当たっていたらしい。
『スザク』
「何ですか?」
 だが、やはり厄介事が待っていたようだ。そう思いながらスザクは聞き返す。
『壁になっている機体の背後で移動砲台らしきものを組み立てている』
 それは盲点だった。ジェレミアはそう続ける。あるいは、最初からそのためにガン・ルゥを配置していたのかもしれない、と彼は呟いた。
「破壊しますか?」
 だが、それにはランスロットを動かさなければいけない。その瞬間、総攻撃が始まるだろう。
 しかし、とスザクは操縦桿を握る指に力を込める。
 移動砲台が完成してしまえばいくら政庁の防御が厚くても破られかねない。それよりは多少危険でも現状で破壊するのがいいのではないか。そう考えて問いかける。
『それしかないだろうが……大丈夫か?』
「フォローしてもらえるならば、たぶん」
 単独でも目の前のナイトメアフレームを撃破して目標にたどり着くことは可能かもしれない。しかし、その間に敵が移動砲台を完成させてしまえば意味がないだろう。
『わかった。お前は最短距離で目標に向かえ。他のものは気にするな』
 他の騎士達に任せてしまえ、とジェレミアは言う。
「政庁の防御は?」
『まだ待機している騎士がいる。私も出るつもりだ』
 ならば大丈夫だろうか。
「わかりました」
 どのみち、ここで手をこまねいているわけにはいかない。政庁の中には民間人もたくさん避難しているのだ。
「一気に行きます」
 言葉とともにランスロットを急速発進させる。
 さすがにこれには虚を突かれたのか。相手はすぐに反応できないようだった。
 その間にスザクは距離をつめる。
 だが、相手も無能ではない。すぐに反撃を返してくる。
 もっとも、その時にはもう、味方も動き出していた。ジェレミアが指示を出しているのか。スザクが動きやすいように攻撃をしてくれている。
 だからと言って、目標にたどり着くのは難しかった。
 相手の方も必死に時間稼ぎをしている。
 このままでは相手の作戦が成功してしまうのではないか。
 焦りながらもスザクは打開策を探る。
「……あれ、使えるかな」
 連中の背後にある建物。あそこにスラッシュハーケンを打ち込めば、連中の頭上を越えて目標にたどり着けるかもしれない。
「こうなるとわかってたら、フロートユニットを置いてこなかったんだけど」
 ないものは仕方がない。最善を尽くすだけだ。すぐにそう考え直すと行動に移った。
 建物の壁にスラッシュハーケンを打ち込んで、その反動でランスロットを持ち上げる。
 そこまではうまくいった。
 ただ、想定外だったのは壁がもろかったことだ。
「うわっ!」
 そのまま連中の中央へと落下する。
 ここまで来れば開き直るしかない。手近にいた敵の機体を殴りつける。その勢いのままソードを引き抜く。
「さっさとどけ!」
 次々と相手を動作不能に追い込むと、目標に向かって進もうとする。しかし、周囲を囲まれているせいでそれは難しい。かといって、もう一度スラッシュハーケンを使って脱出するのも難しい状況だ。
 それでも、何とかするしかない。
 こんなところで死んだら、ルルーシュとする予定のあれやこれやが夢で終わってしまうじゃないか。
 この考えを口に出さない程度の理性はまだスザクにも残っていた。
 同時に、それをあきらめきれないという感情も強い。
 では、どうするか。
「……やっぱ、殲滅?」
 一番手っ取り早いよな、とそう呟く。
 ならば、ソードよりもヴァリスの方がいいのだろうか。
 それとも、と考えたときだ。
『全軍に告げる。今すぐ無駄な戦いはやめろ。さもなくば、相応の罰を受けるぞ』
 頭の上から声が降ってくる。
「ルルーシュ!」
 ナイスタイミング、と口にしながら視線を向けた。そうすれば、アヴァロンの全宝刀がこちらに向いているのが確認できる。
 もっとも、彼が自分を撃つわけがない。その確信があるからスザクには不満がなかった。
「連中の後ろにある移動砲台を破壊してしまえば終わると思うよ」
 それよりも、とこう告げる。
『わかった。任せておけ』
 この言葉にほっと肩から力を抜く。もう大丈夫だと判断したのだ。
「しかし、一番おいしいシーンで出てきたよな」
 惚れ直すだろう、と呟く。
「とりあえず、これで終わりだといいな」
 そう付け加えた。



13.09.30 up
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