恋は戦争?
柳襲
とりあえずほっとできたのは夜半過ぎだ。
「お前は少し休んでおけ」
ルルーシュにそう言われて自室に戻ったものの、眠気は訪れない。もちろん、その理由もわかっていた。
「……やっぱ、もう一回抜いといた方がいいのかな」
シャワーを浴びるついでに抜いたけど、とスザクは呟く。
「右手が恋人だなんて言いたくないけどさ……ルルーシュが付き合ってくれない以上、仕方がないよな」
浮気なんてする気もないし、第一、他の相手ではそう言う気持ちにならない。かといって、年長の独身兵士達のようにおもちゃを使うのは馬鹿馬鹿しいよな。そう口の中だけで呟く。
かといって、ルルーシュの部屋に忍んでいって寝顔を見ながらと言うのもだめだろう。
「ばれたら、絶対に変質者と言われそうだし……かといって、疲れているだろうし」
付き合わせるのは申し訳ない。スザクはそう呟く。
「それならば、お前の方だろう?」
「大丈夫。むしろ、興奮してまずい……って、ルルーシュ、何でここにいるの?」
そして、自分は何故、彼の接近に気がつかなかったのだろうか。
「ちゃんとノックしたぞ、俺は」
ルルーシュはそう言い返してくる。
「……集中していたから、気づかなかった……」
でも、最中でなくてよかった。本気でそう思う。
「お前にしては珍しいな」
苦笑とともにルルーシュはそう告げる。そして、そのままスザクの方に歩み寄ってきた。
「ちょっと待って!」
それ以上近寄られるとまずい。スザクはとっさにそう告げる。
「何故だ?」
「それ以上近寄られると、襲いかねないから」
さすがにそれはまずいだろう、とスザクは続けた。
「今日は途中で止められる自信がないし」
さらに言葉をそう重ねる。
「……それはさすがにまずいかな」
一瞬、目を丸くした後で、ルルーシュはこう言う。
「でも、約束もあるしな」
終わったらキスしてやると言っただろう? と彼は笑った。
「……そんな話しもあったね」
確かにそんな約束もした。それをエネルギーにがんばっていたことも否定しない。
しかし、今の精神状態でキスなんかしたら、そのまま押し倒してしまう可能性百パーセントだ。そのまま、ぺろりと残さず食べてしまうに決まっている。
「でも、本当に今はまずいんだ。どうして持って言うなら、あと三十分、時間くれる?」
その間に水を浴びながら一発抜けば、きっと落ち着くだろう。そうすればルルーシュを傷つけることはないはずだ。
「……却下だ」
それなのに、何故か彼はこう口にしてくれる。
「何で!」
頼むから言うことを聞いて欲しい。本気でそう告げる。
「お前だけに我慢させるのっは不本意だからだ」
「それは嬉しいけど、そう言う状況じゃないから!」
後始末ができなくなる可能性がある、とスザクは主張した。それはまずいだろう。
「コーネリア殿下がいるんだし……」
へたれと言われようが何と言われようが、彼女も敵に回したくないのだ。
「……全く、わがままだな」
「こう言う衝動は、さすがに抑えきれません……」
初心者だから、と小さな声で付け加える。
「そう言うものか?」
「ソウイウモノデス」
恥ずかしいから聞くな、と泣きそうになりながら言い返した。
「仕方がない。後で、だな」
確かに後始末が残っているか、とルルーシュはため息をつく。
「そうしてください……どっちも初心者だと、たぶん、ルルーシュは一日寝込むから」
いくら自分ががんばっても、とそれだけはどうしようもない。
「……わかった」
どうやら、ルルーシュもそれなりに知識は入手していたのだろう。微妙に頬が引きつっている。
「間違ってもロイドさんが用意してくれたものは使いたくないし」
「それは……俺もいやだな……」
ロイドの手に渡った時点でプリン以外のものはヤバイものに変わっていそうだ。そう付け加える彼にスザクも大きく首を縦に振ってみせる。
「でしょう?」
まぁ、必要と思われるものはこっそりと準備はしてきたつもりだが。それでも、翌日にのんびりとできる日でなければ難しいだろう。
「問題は……ルルーシュに午前中休める日があるかどうかだよね」
そんな会話を交わしている間に、幾分衝動が落ち着いてきた。でも、触れたら最後だよなという自覚はある。
「安心しろ。ちゃんと作る」
胸を張って言うセリフだろうか。
「って言うか、何でいきなり積極的になったの?」
いつもは誘ってもあれこれと言い訳をして逃げ出すのに、とスザクは首をかしげる。
「ナナリーに言われたからな。いい加減覚悟を決めないと嫌いになると」
その答えはあっさりと明かされた。
「……ナナリーか」
なるほど。彼女ならばそう言うだろう。なにやら、その手の薄い本を集めているらしいという噂も耳にしたし。しかし、それを目の前の相手に告げたらどうなるのだろうか。
きっとショックを受けただけでは終わらない。
最悪、全てを投げ出して引きこもりかねないな。そう判断する。
「応援してくれるのは嬉しいけど……ちょっと複雑」
代わりにそう呟く。
「何故だ?」
真顔で聞き返されるのもショックだ。でも、本当にわかってないのだろうな、彼は。
「僕が言っても受け流されるだけだったのに、ナナリーが言うとちゃんと考えてるじゃん」
その差がちょっとショックだ。そう続ける。
「ルルーシュがシスコンなのは知っていたけどさ」
「シスコンって……」
そんなつもりはなかった。ルルーシュはそう言う。
「それに、ナナリーに言われたから、と言うのは少し違うな。何というか、背中を蹴飛ばされたというのが正しいのか……」
スザクが好きならばちゃんとしろ。そうでないなら今からでも彼を手放せ、と言われた。ルルーシュはそう続ける。
「いい加減、腹をくくらないなら自分がもらう、とナナリーがな」
「……はぁ?」
それは予想外と言えるセリフだった。
「何を考えているんだよ、ナナリー……」
思わずこう言ってしまう。
「しかし、予想以上にお前は俺のことを優先してくれていたんだな」
感心したようにルルーシュは言う。
「当然のことだよ。好きな人は傷つけたくないだろう?」
だから、大切にしたい。操作らに言葉を重ねた。
「俺も好きだぞ」
ルルーシュはそう言って笑う。
「と言うことで、さっさと終わらせるぞ」
そうしたら、今度こそ仕事は全部クロヴィスに押しつけてやる。彼はさらにそう言う。
「あまり期待しないで待ってる」
スザクは苦笑とともに言い返す。
「きっと仕事があってもできない状況になるだろうしね」
次は我慢しないから、と宣言しておく。
「あぁ。我慢しなくていい」
ルルーシュのこの言葉に、スザクはしっかりと頷いて見せた。
もっとも、ルルーシュの仕事はさほどなかった。
軍事的にはコーネリアが中心になってやっていたし、外交関係はシュナイゼルがしっかりと中華連邦を叩きつぶしていた。
ただし、クロヴィスはしっかりと仕事をさせられていたらしい。もっとも、それは自業自得だろうと思うスザクだった。
13.10.14 up