INDEX

恋は戦争?

薔薇



 落ち着いたたたずまいの室内は、ルルーシュも気に入ったようだ。もっとも、畳に直接座るのは慣れないようだが。
「ルルーシュ。これなら大丈夫?」
 昔やっていた落語番組の大喜利のように座布団を重ねながらスザクは問いかける。
「それとも、低めの椅子を借りてくる?」
 そちらの方がいいかもしれない。そう思いながら言葉を重ねた。
「いや、このままでいい」
 ルルーシュはそう言ってさっさと部屋へと上がる。靴を脱ぐのも忘れずに、だ。
「ここはこうして直接腰を下ろしてもかまわないところなのだろう?」
「寝っ転がってもいいけど……普通、ブリタニア人はいやがるよ?」
 士官学校時代、帰省した自分がラグの上に寝っ転がっただけでジェレミアは顔をしかめた。スザクはそう続ける。
「ジェレミアならそうだろうな」
 その光景が思い浮かんだのか。ルルーシュは小さな笑みを浮かべながら頷いてみせる。
「だが、母さんはそう言うのが大好きだぞ」
 言われて納得した。
「だよね……アリエスに和室を作るなんて言い出さなきゃいいけど」
「……あり得そうで怖いな」
 もっとも、その程度ならばかわいいものだろう。暇つぶしと言って、新しいエリアを増やそうとするのだ、彼女は。
「と言うわけで、一休みする? 和菓子があるよ。それとも、お風呂に入る?」
 マリンぬが何をしでかしてくれるか。考えれば考えるほど怖い結論になる。だから、とスザクは話題を変えた。
「和菓子?」
「そう。きれいだよ」
 ルルーシュの口に合うかどうかはわからないが、と言外に付け加えた。
「甘いのか?」
「もちろん。でも、ブリタニアの菓子とは違った甘さだから」
 食べるというのであれば止めない。それでも、一応、忠告をしておく。
「カロリーの摂取は必要だろうしな……これからのことを考えれば」
 それが何を指しての言葉なのかわからないほど、スザクは朴念仁ではない。
「でも、夕食は食べないと。楽しみにしていたんだし」
「……あぁ、それはそうだな。後でおいしかったもののレシピを調べないといけないし」
 そう考えるのがルルーシュだよな、とスザクは微苦笑を浮かべる。
「母さんが興味津々だからな」
「なら、ナナリーと一緒に来てもらえば? 料理に興味があるならあるなら、神楽耶に紹介してもらうし……第一、こういう所の味付けはレシピ以外の隠し味があるから。しかし、それを聞くのはマナー違反だと思う」
「なるほど。それもそうだな」
 スザクの言葉にルルーシュは頷いてくれた。
 こんなどうでもいい会話を交わしていたのは、きっと、お互いに緊張しているからだよな、とスザクは心の中で呟く。
 まぁ、二人とも初めてとはいえ、知識だけは山ほどある。だから、仕方がないのだろう。
 などと考えたのが悪かったのか。何というか、いたたまれないものを感じてしまう。そして、それがルルーシュにも伝染してしまったらしい。
「……スザク、その、だな」
 ルルーシュが頬を上気させながら声をかけてくる。
「とりあえず、お茶、入れるから」
 まずは落ち着こう。スザクのこの提案に、ルルーシュは小さく頷いてみせる。だが、彼はそのまま畳の目を数えるようにい草を指でなぞり始めてしまった。
 これは失敗したな、とスザクは心の中でため息をつく。
 同時に、いったいどうやって修復すべきか。それを必死に考え始めた。

 もっとも、旅館側がそれ以上にルルーシュの羞恥をあおってくれたことで、それまでの空気はあっさりと吹き飛んだが。

「……スザク……」
 一つの布団に二つの枕が並べられているのを見て、ルルーシュが凍り付いている。
「桐原のじいさん、旅館に何を言ったんだよ」
 彼がきっと何か余計な事を言ったのだろう。だから、旅館側が気を利かせたに決まっている。そうでなければ、男同士が同室でこんな新婚夫婦みたいな布団の敷き方をする訳がない。
「とりあえず、もう一組、布団をもらって来るから」
 ここまで緊張されては手を出すのははばかられる。機会はまたあるだろう、とスザクは体の向きを変えた。
 そのまま踏み出そうとした彼を止める手がある。
「ルルーシュ?」
 この部屋にいるのは自分以外彼しかいない。つまり、この手は彼のものと言うことになる。
「かまわない」
 蚊の鳴くような声で彼はそう告げた。
「ルルーシュ?」
 何? とスザクは聞き返す。
「布団は一つでいい」
 そうすれば、小さな声ながらもはっきりと彼はこう言った。
「単に……恥ずかしいだけだ」
 まさか、ここまでお膳立てされるのが恥ずかしいものだとは思わなかった。ルルーシュはさらにそう付け加える。
「いやじゃないの?」
 スザクはそれに、思わずこう聞き返してしまう。
「いやだったら、ここに来ていない」
 ルルーシュのこの言葉に、スザクのなけなしの理性は完全に吹き飛んだ。
「スザク?」
 反射的にルルーシュの体を抱き上げる。そんなスザクの行動に、ルルーシュが不審そうに呼びかけてきた。
「ルルーシュが悪いんだからね」
 それにこう言い返す。
「人が必死に我慢してたのに。もう、止まらないから」
 言葉とともに彼の体を布団の上に下ろした。そのまま、のしかかるように彼の体の上に覆い被さる。
「……止まらなくていい」
 その方が恥ずかしさを忘れられる。ルルーシュは顔を真っ赤に染めながらそう言った。
「何を言っても、気にするな」
 視線を横にそらしながら彼はさらに言葉を重ねる。
「わかった」
 ルルーシュがそこまで言うなら遠慮はいらないよな。
「では、いただきます」
 少しでも気分を和らげようとこんなセリフを口にする。
「残すなよ?」
 それで少しでも気が緩んだのか。ルルーシュはこう言い返してくる。
「もちろん」
 即座に頷くと、スザクは彼の唇を自分のそれで塞いだ。

 指で十分ならしたつもりでも、かなりきつい。
 自分がそうなのだから、ルルーシュの方はもっと辛いのではないか。
「ルルーシュ、大丈夫?」
 そう考えて声をかけてみる。後から考えればものすごくばからしいと思える行為も、この時は当然のように思えたのだ。
「きく、な……バカ」
 息も絶え絶えなのに、最後の一言だけは力一杯口にしくれる。
 別にそれはいいのだ。
「頼むから、笑わないで……」
 響く、と呟く。その刺激だけで欲望がふくれあがってしまう。
「なっ!」
「だから、我慢してるんだよ! それなのに、何で人の努力を邪魔してくれるのかな」
 今にも動きたくてたまらないのに、と続けた。
「……なら、動け」
 人を煽るなと言ったばかりなのに、とスザクは奥歯をかみしめる。
「でも、まだ辛いと思うよ?」
もう少し慣れてからでないと、と続けた。
「いいから」
 ルルーシュは一歩も引かない。
「知らないからね、もう」
 言葉とともにスザクはゆっくりと体を揺らす。
「っ!」
 ルルーシュの背筋が大きくのけぞる。その背筋を、汗が一筋、伝い落ちていった。

 翌朝、ルルーシュが布団から出られなかったのは言うまでもない。
「だから、もう少し待てって言ったのに」
 ため息混じりにスザクは彼の体を抱き上げる。
「お前が言うことか?」
 即座にルルーシュが言い返して来た。
「はいはい。全部、僕が悪いですよ」
 ねだったのは誰なのか、と言いたい。
「と言うわけで、お風呂に入ろうね。一応、あれこれと後始末はしたけど、やっぱりお風呂に入るのと入ってないのでは違うから」
 笑いながらそう言う。
「恥ずかしいことを言うな!」
 ルルーシュの声が周囲に響き渡った。



13.10.28 up
INDEX
Copyright (c) 2013 All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-