恋は戦争?
鳥子重
「明後日、母さんとナナリーが来る」
ベッドに押し倒した瞬間、ルルーシュがこんなセリフを口にしてくれる。
「……跡をつけなければいい?」
しないという選択肢はないし、と心の中で呟きながら問いかけた。
「動けなくなるのは困るぞ」
「うん。
挿入れないから」
それでも十分気持ちいいし、とスザクは心の中だけで付け加える。
「……それなら、いい」
ルルーシュもしたいと思ってくれていたのか。頬を染めながら頷いて見せた。
「うん」
許可が出たならば遠慮はいらないよな、と呟きながら行為を再開した。
翌日は天気はよかった。ただし、風がものすごく強い。
「何だかなぁ」
スザクはそう言ってため息をつく。
「これって、何かの予兆?」
そう付け加えたのは無意識だ。
「ない、と言いきれないのが悲しいな」
しかし、ルルーシュにこう言い返されてしまってはどうすればいいのだろうか。
「ナナリーだけならばまだしも、母さんも来るからな」
おとなしくしていてくれないだろう。そうなれば、周囲が巻き込まれるのは目に見えている。彼はそう言ってため息をつく。
「とりあえず、お酒がおいしいという北陸の宿は抑えてあるから」
スザクは彼を慰めるようにこう言う。
「近くに流鏑馬を見せてくれる所もあるし……何なら、挑戦してもらえばいいんじゃないかな?」」
そのくらいなら自分でも教えられるし、と続ける。
「そうか」
確かに、なにかやることがあればおとなしいかもしれない。ルルーシュも頷く。
「何なら、藤堂さん引っ張り出すし」
「それは楽しそうね」
その時だ。いきなり背後から声がかけられる。それが誰のものか、確認しなくてもわかってしまった。
「マリアンヌ様……」
どうして、ひとりで……とスザクはため息をつく。
「母さん、ナナリーは?」
ルルーシュはルルーシュでこう問いかけた。
「今、来るわ」
どうかしたの? と彼女は真顔で聞き返してくる。
「一応、式典を用意していたんですよ。クロヴィス兄さんが」
と言うことは、ナナリーひとりでそれを受けているのか、とルルーシュは眉根を寄せた。
「でも、それなら呼びに来るんじゃないの?」
誰かが、とスザクは口にする。ルルーシュは実の兄だし、と付け加えた。
「なら、ナナリーはなにをしているんだ?」
ルルーシュがこう問いかけてくる。どうやら、マリアンヌの登場があまりに衝撃的で頭脳がうまく働いていないらしい。
「まさかとは思うけど……マリアンヌさんを探しているんじゃないのかな?」
断ってから来ました? とスザクはマリアンヌを見つめる。
「言ってこなかったかもしれないわね、そういえば」
やはりか、と思ったのはスザクだけではないだろう。
「……スザク、悪いが……」
「わかった。マリアンヌさんがここにいると連絡してくる」
「そうしてくれ。母さんは俺が見張っている」
これから親子喧嘩が始まるのだろうか。でも、勝敗は見えているよな、と思わずにいられない。
「じゃ、行ってくる」
しかし、それを口に出してルルーシュの機嫌を損ねるのはまずい。だからこれだけを言って部屋を出る。
「ジェレミアさんを探せばいいんだよな」
彼が出迎え役だから、と呟きながら歩き出す。
「いるとすればデッキかな? それとも、まだナナリーは機内だろうか」
どちらにしろ、デッキ方面で待機している兵士を捕まえればわかるだろう。そう考えてスザクは少しだけ足を速めた。
スザクが迎えに行ったときは、ナナリーはまだ機内にいた。
「……お母様ならやりますね、確かに」
ため息とともに彼女はそう言う。
「申し訳ありません、クロヴィスお兄様」
そのまま視線を移動すると、ナナリーはそう口にした。
「いや。どうやら、私の親衛隊のものにも責任はあるようでね」
それにクロヴィスは言葉を返す。
「マリアンヌ様にルルーシュの控え室を聞かれたのだそうだよ。すぐに連絡をくれればここまで大騒ぎにならなかったのだが」
「騒ぎが大きくなって言い出せなくなったのですね」
スザクがため息混じりにそうぼやく。
「困ったものだよ」
後できちんとお仕置きをしておこう。クロヴィスはそう言って笑う。
「ロイドに差し出せばいいようにしてくれるだろうからね」
「いらないと言われません?」
思わずスザクはこう問いかけてしまった。
もっとも、根拠がないわけではない。ロイドはランスロット以外どうでもいいと考えている。ランスロットを動かせない騎士――さすがに皇族は除くようだが――は必要ないらしい。
「今回はルルーシュとマリアンヌ様とナナリーが巻き込まれているからね。大丈夫だろう」
彼もヴィ家の三人は大好きだから、とクロヴィスは続ける。
「まぁ、彼がやりたがらなくても兄上が口を出すのはわかっているからね」
研究費を盾に取られてはロイドも勝てはしない。それはスザクもよくわかっている。
「そうですね」
そういえば、スザクも今までに何度か『研究費を減らされた』と言って地団駄を踏んでいるロイドの姿を見たことがある。その多くがシュナイゼルを怒らせたときだと言うことも知っていた。
「なら、大丈夫ですか」
ロイドが動くなら、とスザクは頷く。
「そういうことだよ」
後は、とクロヴィスはため息をついた。
「お母様のことですわね?」
ナナリーが不意にそう告げる。
「……ルルーシュがどこまでがんばっているか、だよね」
苦笑とともにスザクはそう言い返す。
「まぁ、望み薄だけど」
相手がマリアンヌだから、と続けた。
「そうですね。相手がお母様ですもの」
ナナリーもそう言ってため息をつく。
「とりあえず、ルルーシュの応援に行こうか」
どれだけ援護できるかわからないが。クロヴィスはそう言って肩をすくめる。
「式典はよろしいんですの?」
「マリアンヌ様が出ていただけないのであれば、意味がないからね」
その分、政庁での式典を派手にすることにしたよ。クロヴィスはそう続けた。
「……すみません、お手数をおかけして」
「皆、わかっているからね」
マリアンヌの言動がどのようなものかは、とクロヴィスが言外に続ける。それがいいのか悪いのか。
そんなことを考えながら、全員でルルーシュたちがいる控え室へと向かう。
「スザク君! ルルーシュを食べちゃったって?」
しかし、部屋の中に入った瞬間、わくわく顔でこう言われるとは思っていなかった。
「はぁ?」
「ルルーシュったら、お肌つやつやじゃないの!」
そのまま詰め寄られる。
逃げ出していいですか、と本気で考えてしまうスザクだった。
13.11.08 up