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恋は戦争?

氷重



 ゆっくりと露天風呂につかる。
 それも、ルルーシュと二人でだ。
「静かだな」
 ルルーシュがそう呟く。
「静かだね」
 さすがに、ここまではマリアンヌやナナリーも押しかけては来られないらしい。その事実に、少しだけほっとしている自分がいるとスザクも自覚していた。
「二人だけ、と言うのもいいものだな」
 苦笑とともにルルーシュはさらに言葉を重ねる。
「母さん達に会いたいと思っていたのに、な」
 実際に会うとこれか、と苦笑を深めた。
「僕も同じだけど……マリアンヌさんもいつもよりテンションが高いと思う」
 あそこまで飛ばす人だったっけ? と首をかしげてみせる。
「お前の前ではそうだったか。昔の母さんはあんな感じだったぞ」
 いや、もっとすごかった。特に戦場では、とルルーシュは言った。
「……ここは戦場じゃないよね?」
「とりあえずは、な」
 スザクの問いかけにルルーシュはすぐにうなずき返してくる。
「これから戦場になる予定は?」
 マリアンヌがあんな風だと言うことは、何かあるのかもしれない。そう思ってさらに問いかける。
「俺は知らないぞ」
 少し考えた後でルルーシュはこう言い返してきた。
「だが、ないわけではないな。後で兄上に確認しておこう」
 知っているとすればシュナイゼルだろうか。それとも、とルルーシュは口の中だけで呟いている。
「まぁ、それも後でだ」
 せっかくの休暇だしな、と彼は気分を変えるかのように小さく頭を振った。
「スザク」
 そして、隣にいる彼を手招く。
「何、ルルーシュ」
 言葉とともに顔を寄せる。
「誰もいない時間は貴重だと思わないか?」
 それを無駄にする気か、と彼はささやいてきた。
「……してもいいの?」
 声が響くから遠慮していたのに、とスザクは言い返す。
「キスぐらいならばかまわないだろう」
 ルルーシュの誘いに逆らう理由なんてない。
「うん。じゃ、遠慮なく」
 そのままさらに顔を寄せる。そして、そのまま唇を重ねようとしたときだ。脱衣所の方から音が響いてくる。
「……誰だ?」
 反射的にスザクはルルーシュから身を離す。そして、湯船の縁においてあった木刀を手にした。普通の刀では後々の手入れが大変だがこれならば心配はいらない。そして、相手を捕縛するだけならば十分な威力を持っている、と言うので持ち込んだものだ。
 それを手に立ち上がる。
「スザク?」
「念のためだよ。ルルーシュに何かあったら困るから」
 何もないなら放っておいていいけど、と続けた。
「せめて、タオルを巻け」
「万が一のときに邪魔になるから」
 隠したいのは山々だけど、と苦笑を返す。
「それよりも、問題は音の方だよ」
 何をされているのかわからないのがいやだ。そう主張すれば、ルルーシュは仕方がないというようにため息を付く。
「誰かいるのか?」
 そして、引き戸の向こうに向かってこう呼びかけた。しかし、返事は戻ってこない。確かに気配が伝わってきているのに、だ。
「……ルルーシュ?」
 どうする、と言外に問いかける。
「行くなら、腰にタオルを巻いていけ。これだけは譲れない」
 他の人間に見せるな、と彼は言う。
「Yes.Your Highness」
 そう言われたら仕方がない。そう判断をして、スザクは床からタオルを拾い上げる。そのまま腰に巻き付けた。
 スザクのその行動を見て、ルルーシュは頷いて見せる。それを確認して、スザクは引き戸へと歩み寄った。
 そのまま、勢いよく開ける。
「あら、熱烈歓迎ね」
 そこにはバスタオルを巻いたマリアンヌが立っていた。
「マリアンヌさん!」
 予想外の相手の姿に、スザクは声が裏返る。
「ここ、男湯ですよ」
 間違えたのだろう。そう考えながら、とりあえず言葉を口にした。同時に、さりげなく視線をそらす。
「だって、こちらの方が景観がいいんでしょ?」
 それに、と彼女は笑う。
「ここに入っているのはルルーシュとあなただけでしょう? だから、かまわないわ」
「十分かまいます!」
 即座にルルーシュの声が響いてくる。
「母さんは俺たちが男だと言うことを忘れていませんか?」
 さらに彼はこう続けた。
「知っているわよ。でも、ルルーシュはおしめを替えたことがあるし、スザク君はそんなルルーシュ意外興味ないでしょう?」
 それはそうなのだが、とスザクはため息をつく。
「陛下にばれたら、僕が殺されます」
 あるいは、去勢だろうか。
 どちらにしろ願い下げだ。
「あのロールケーキに嫉妬させようとしても、逆効果ですよ」
 落ち込んだあげく斜め上の行動に出るのがシャルルだ。最悪、エリア11が消滅しかねない。
 それ以上に、だ。
「ナナリーがまねをしたらどうするんですか!」
 一番の問題はそれだ、とルルーシュは言う。
「母さんのその主張を聞いたら、あいつは当然のようにまねしますよ?」
 嫁入り前の娘なのに、とさらに言葉を重ねる。
「あなたとスザク君限定、と言い聞かせれば大丈夫でしょう?」
 それよりも体が冷えちゃった、とマリアンヌが言う。このままでは押し切られそうだ。
「ルルーシュ……」
 どうするのか、と言外に問いかける。
「……上がるぞ」
 こうなれば逃げるが勝ちだ。そう判断したのだろう。
 後は部屋の風呂でいちゃつけばいいか。狭いが、その方が邪魔が入らないような気がする。
「了解」
 そう言うと、一度彼のそばに戻った。そして、まだ湯船の中にいる彼へとタオルを差し出す。
「母さんを無視するとはどういうことかしら?」
 マリアンヌが声をかけてくる。
「母さんはあのロールケーキとでも入ってください」
 それにルルーシュはこう言い返す。同時にスザクは彼の体を抱き上げた。
「このまま部屋まで走るけど?」
「仕方がないな。服の回収だけは忘れるな」
 マリアンヌの手に渡るのはいい。だが、万が一、それがシャルルの手に渡ったらと考えるだけで気持ち悪い。ルルーシュはそう主張する。
「Yes.Your Highness」
 言葉とともにスザクは駆け出した。

 翌朝、朝食の席でナナリーが『一緒に入りたかった』と言ってきたときにはどうしようかと本気で悩んでしまう二人だった。



13.11.22 up
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