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恋は戦争?

比金襖



「そういえばルルーシュの誕生日だね」
 カレンダーを見ながらスザクはそう呟く。
「今年は何を贈ろうかな」
 今まではあれこれと実用的なものを贈ってきた。しかし、今年はもっと別なものを贈りたい。
「せっかく恋人になれたんだし」
 記念になるようなものを、と呟く。
「でも、指輪じゃないよな」
 そんなあからさまなものは彼がいやがるに決まっている。それならば何がいいだろうか。
「恋人に贈るもの……時代劇だとかんざしとかだけどな」
 ルルーシュは髪を結わないし、とため息をつく。
「リボンをつけて『プレゼントは僕』というのもやってみたい気はするけど……寒いよな?」
 むしろ、それはルルーシュにやって欲しい。ある意味、男のロマンだし、と呟く。
 そのまま周囲に視線を彷徨わせる。そうすれば、棚においている日本刀の上で目がとまった。
「懐剣ならどうだろう」
 蒔絵が施してあるものならばきれいだし、指輪ほどは込められている意味がばれないはずだ。
 問題は、と続ける。
「今でも作っているかどうかだよな」
 土産用のおもちゃなら売っているのを見たことがある。でも、それはルルーシュにふさわしくない。
「やっぱり、桐原のじいさんに相談かな」
 こういうことは、と呟く。
「あの人に借りを作るのはいやなんだけど、仕方がないか」
 未だに六家の名はそちら方面で大きな影響力を持っているのだ。そして、彼が見つけてくるものはどれも一級品だと言っていい。
 何よりも、こういうときに相談しないと桐原がすねる。
「仕方がない。連絡するか」
 絶対、理由がばれる。その後で何を言われるかと考えれば気が重い。
 それでも、ルルーシュのためだ。
 心の中でそう呟くと、桐原に連絡を取るために行動を開始した。


 桐原には簡単に連絡が付いた。それはきっと、ブリタニア側には今の立場が、キョウト側には元の家柄が関係しているのだろう。
『懐剣か。よかろう、探してみよう』
 予想以上にあっさりと桐原は頷いて見せた。
「……あっさり過ぎて別の意味で怖いよな……」
 思わずこう呟いてしまう。
『何かゆうたか?』
 それが耳に届いたのだろうか。桐原が聞き返してくる。
「この前といい今回といい、何か裏がありそうだと思っただけだよ」
 自分の性格を知っているであろう相手にあれこれと言い訳をしても無駄だ。そう考えてスザクは素直にそう言う。
『何。殿下にはいろいろとお世話になっておるからの』
 それに、と桐原は続けた。
『殿下がお使いになっていれば、他の皇族方や貴族の目にもとまるであろう。そうすれば、好事家が入手しようと考えるかもしれんからな』
 それが本音だろう。心の中でそう呟く。
「まぁ、クロヴィス殿下は気になるんじゃないかな?」
 彼はそう言った工芸品も好きだから、と付け加える。
「でも、あまり期待しすぎて捕らぬ狸の何とやらにならないようにした方がいいんじゃないですか?」
 とりあえず、とイヤミ半分に言ってみた。
「現状、保護されているようなものだし。欲をかきすぎると失敗しますよ」
 さらに付け加える。
『そうかもしれんの』
 珍しく桐原が素直に引き下がった。
『まぁよい。マリアンヌ皇妃に気に入ってもらえそうなものを探すだけよ』
 のではなく、どうやらターゲットを変えただけのようだ。
「……マリアンヌさんなら太刀の方がいいと思うけどね。それも、実戦で使える奴」
 自分が持っているようなとため息をつく。
「でも、いくつか業物を渡してあるけどね」
 あるいは、それなりの実力を持った女性をセットで送りつければ喜ぶかもしれない。男性ではシャルルを怒らせかねないし、と続けた。
『考慮しておこう』
 用意できたら連絡をする。その言葉とともに桐原は通話を終わらせた。
「後は、ルルーシュにばれないようにしないと」
 それが可能なのかどうかはわからない。自分がいくら隠そうとしても、気がつけばばれていることが多いのだ。
「その時はその時だよな」
 秘密にしていた理由が理由だから、彼が怒ることはないはずだ。
「ケーキの手配もしておこう」
 こちらはジェレミアに相談してみてもいいだろう。ついでに巻き込めば、怒られるのは自分だけでなくなる。
 そう考えるとスザクは即座に行動を開始した。

 ルルーシュにばれたらしいのは十二月に入ってすぐのことだった。
「……スザク」
 低い声で彼がスザクの名を呼ぶ。
「何?」
 だが、この時はまだ、ばれたとは思っていなかった。だから自分が何かを失敗したのかと焦る。
「最近、何かこそこそとしていないか?」
 ルルーシュはさらにこう言った。
「してるよ。でも、理由は言えない」
 ナナリーとの約束だから、とスザクは平然と言い返す。
「ナナリーと?」
「そう。だから言わない」
 彼女の許可が出るまで、と続けた。そうすれば、ルルーシュは微妙な表情を作りながら口をぱくぱくしている。
 やはりナナリーを巻き込んでおいて正解だった。心の中でそう呟く。
「と言うことで、いい?」
 逆にこう聞き返す。
「ナナリーとの約束……」
 ぶつぶつとルルーシュは呟いている。
「ルルーシュを裏切ったわけじゃないから」
 とりあえず、と続けた。
「……それは疑っていない。お前とナナリーは兄妹のようなものだし、恋愛感情はないと知っている」
 でも、と彼はため息をつく。
「だが、疎外感を感じるのも事実だ」
 自分は年上だから、と言われて、とっさにスザクはルルーシュを抱きしめる。
「疎外しているわけじゃないから」
 ただ、とスザクは続けた。
「今はまだ知られたくないから。たまにはルルーシュを驚かせたいもん」
「驚かせたい?」
「そう。だから、今は我慢してよ。お願いだから」
 危ないことをしているわけではない。そういえばルルーシュの体から力が抜けた。
「……わかった。お前の言葉を信じておく」
 そして、彼はこうささやいてくる。
「うん、ありがとう」
 スザクはそう言うととっておきの笑顔を作った。

 桐原から『見つかった』という連絡があったのは、ルルーシュの誕生日の前日だった。
「間に合わないかと思っていましたよ」
 最悪のパターンを考えて笑いをとれそうなものを用意しておいたが。スザクは目の前にある風呂敷包みを見つめながらそう告げる。
「そう言うな。職人達が力を入れておったのだよ」
「……はぁ?」
 何故ここで職人達がかかわってくるのだろうか。
「できているものを頼んだのに?」
「よいものが見つからなくての。ならばいっそ、作らせるか、と神楽耶が言い出しおってな」
 その上、さっさと発注までしたらしい。
「後で何を要求されるんだか」
 だが、そこまでしてもらった以上、あきらめるしかないのだろう。そう考えると小さなため息をついた。
「中を確認しても?」
 だが、すぐに意識を切り替えると桐原に問いかける。
「もちろんじゃとも」
 許可を得て、スザクは風呂敷をといた。そこには真新しい桐箱がある。そのふたを開けて、彼は目を丸くした。
「……よく間に合いましたね」
 真新しい螺鈿で飾られた鞘を見てそう呟く。
「たまたま地塗りまで終わったものがあったらしくての。後は、職人達が不眠不休でがんばったまで」
「代金の他に樽酒でも持って行かないとだめか」
 そのくらいならすぐに手配できるが、と続ける。
「そうじゃの。そうすれば連中も喜ぶか。だが、若い娘もおるぞ」
「そっちはそれこそ焼き菓子でいいでしょう」
「確かにな」
 桐原も苦笑とともに頷く。
「おかしなものよ。ルルーシュ殿下は和菓子も好まれるというのになぁ」
「そうですね」
 ルルーシュの場合、あまりにおいしいものを食べすぎているからだろう。もっとも、純粋に脳みそを使うから当分が必要なのかもしれないが。
 しかし、と思いながら改めて懐剣に視線を落とす。
 黒漆の上に螺鈿と金泥でブリタニアの紋章が描かれている。これならば、部屋に置いておいても何も言われないだろう。
「お礼の方はすぐに手配します。とりあえず、請求書を回してください」
「品物は儂に回してくればよいぞ」
 それにしても、と桐原は破顔する。
「お前もそのようなことを考えられるようになったのだの。本に成長したものよ」
 ほめられているのだろうか、これは。わからないまま、曖昧な笑みを返す。
「お手数をおかけしました。ご助力、ありがとうございます」
 そして、こう告げた。

 ジェレミアがさりげなく近づいてくる。
「到着されたぞ」
 そして、こうささやいてきた。
「了解です」
 これで準備は整ったな、と心の中で呟く。
「では、クロヴィス殿下に合図を送りましょう」
 後は彼がうまく誘導してくれるのを期待するだけだ。そう思いながら、視線を向ける。その瞬間、クロヴィスのそれとぶつかったのは偶然ではないだろう。
「ルルーシュ。切りのよいところで今日は終わろう。急ぎの仕事は終わらせたしね」
 そしてこう口にしてくれた。
「兄さん?」
 最初はいぶかしんだ表情を作ったルルーシュだったが、すぐにため息をつく。
「珍しく朝からがんばっておられましたからね。今日ぐらいはいいでしょう」
 毎日こうだといいのに、と忘れずに付け加えるのはさすがルルーシュだ。
「わかっているよ。努力はしよう」
 無理だと思うが、というつぶやきが副音声で聞こえてきたのは錯覚ではないだろう。実際、ルルーシュはすでに眉間を指でもんでいる。
「それよりも食事にしよう。皆も一緒にね」
 それに気づいていないのか。クロヴィスはストレート過ぎるセリフを口にしてくれた。
「兄さん?」
 ここでルルーシュは違和感を感じたのだろう。目をすがめると彼をにらみつける。
「もうじき本国に戻らないといけないだろう? だから、たまにはいいかなと思ったのだが……」
 しどろもどろになりながらもそう言えるだけクロヴィスも成長したのだろうか。
「今ひとつ納得できませんが、今日は兄さんの言うとおりにしましょう」
 スザクが期待しているようだから、と言うのはなんなのか。そう言いたいが、今日はありがたい。
「では、移動しよう」
 そのまま彼が逃げ出すように歩き出す。
「ったく……」
 そう呟きながらも彼に付き合うルルーシュの後をスザクとジェレミアも追いかけた。
「スザク……」
 その気配に気づいたのだろう。彼が声をかけてくる。
「着けばわかるよ」
にっこりと笑ってこう言い返した。
「全く……兄さんもぐるだったのか?」
 いや、クロヴィスだけではないから。スザクはそう心の中だけで言い返す。
「お前もそうだったとはな、ジェレミア」
「申し訳ありません」
「いい。お前も絡んでいると言うことは悪事ではないと言うことだ」
 ジェレミア相手には当たりが柔らかい。しかし、このあたりの信頼の差は仕方がないか、とスザクは自分に言い聞かせる。
「そちらではなくこちらだよ」
 いつもの食堂に向かおうとしたルルーシュをクロヴィスは引き留めた。そして、普段は使われることのない大食堂のドアを開けさせた。
「兄さん?」
 何を、とルルーシュが問いかける前に中から人影が飛び出してくる。
「お誕生日おめでとうございます、お兄様!」
「ナナリー?」
 まさか彼女がここにいるとは思っていなかったのだろう。ルルーシュは見事に凍り付いている。
「誕生日おめでとう、ルルーシュ。中にプレゼントがあるよ」
 そんな彼にスザクは声をかけた。
「驚いた?」
 さらにこう問いかける。
「全く……お前たちは……」
 なにをしていたのかと思えば、と彼は続けた。
「だって、ねぇ」
「驚かせたかったのですもの」
 顔を見合わせるとこう口にするスザクとナナリーにルルーシュは苦笑を浮かべる。
「嬉しいよ。ありがとう」
 そして、言葉とともに二人の頬にキスを贈ってくれた。



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