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恋は戦争?

海松色



 その日、ルルーシュはクロヴィスとともに視察に出ていた。しかし、スザクはジェレミアがついていくのとロイドのわがままのせいで居残りになってしまった。思わず彼に奇襲をかけようかと思ったのは内緒である。
『お兄様はあきれていました?』
 その代わり、こうしてナナリーからの連絡を受けることになったのだが。
「あきれているというか何というか……とりあえず、びっくりしていたよ」
 スザクは素直にそう告げる。
『やっぱり』
 苦笑とともにナナリーが言い返して来た。そう言う表情をすると、どこかルルーシュに似ている。やはり兄妹なのだと思わせる表情だ。
 でも、できればナナリーにはもっとかわいい表情をしていて欲しいと思う。
『皆様、寝耳に水で……特に宰相府はてんやわんやらしいですわ』
「マルディーニ卿はそう見えなかったけど……あぁ、その下の人たちか」
『えぇ。いろいろとお馬鹿な動きをしている方がいらっしゃるとコーネリアお姉様が』
 これを好機、とそう言う人間達をあぶり出しているのだろう。
「ひょっとして、こっちに来ているバカもいるとか?」
『大当たりですわ。それを知ったお姉様が追いかけていく程度には厄介な者達です』
 つまり、ナナリーはそれを伝えたかったのだろう。
「了解。捕まえたら遊んでいいよね?」
『殺さなければ』
 さらりとそう言い返してくるあたり、さすがはマリアンヌの娘だ。
「大丈夫だよ。ロイドさんのおもちゃになってもらうだけだし」
 何か、とんでもない装置を完成させたらしいと聞いている。それの実証実験に付き合ってもらえばいいだろう。
『それならばいいですね。ものすごく楽しそうです』
「やっぱ、そう思う?」
『もちろんです』
 にっこりと微笑む表情は愛らしい。でも、内心は真っ黒なんだろうな、と思わずにいられない。しかし、自分も同じような表情を浮かべているだろうことは否定できない事実だ。
 第一、ルルーシュに危害を加えようとするような相手に容赦なんて無用だ。
「じゃ、こっちはこっちで警戒するけど……資料あるかな?」
 顔がわかれば捕縛しやすいから。言外にそう付け加えながらナナリーを見つめる。
『任せておいてください。すぐに送りますね』
 にこやかにそう言い返される。
「さすがはルルーシュの妹」
 そう言うところはしっかりとしている、と言外に付け加えた。
『一番の賛辞ですわ』
 ナナリーが嬉しそうに言う。
『スザクさん。ですから、お兄様をよろしく』
 さらに彼女はそう付け加えた。
「もちろん。ルルーシュを守るのは僕の義務で権利だから。これだけは他の誰にも譲らない」
 ついでに、ルルーシュの恋人の座も、と心の中だけで呟く。
『では、私はユフィ姉様と一緒にお馬鹿さんの実家をしめておきます』
 徹底的にやります、とナナリーは微笑む。
『お母様やお兄様方にいろいろと教えていただきましたから』
 それはかなりえぐい手段ではないだろうか。
「ルルーシュにだけはばれないようにね。僕は聞かなかったことにしておく」
『そうしてくださいませ』
 ナナリーは即座にそう言い返してくる。
『お兄様には、はしたないと思われたくないですから』
「大丈夫だよ。マリアンヌさんほどすごいことしなければ、ルルーシュは『かわいい』の一言で済ませるから」  彼の基準はどうしても親しい者達になる。だから、マリアンヌ以上のことをしなければ身内補正をしてくれるはず。
「僕もフォローするし」
 スザクはそう言って笑った。
『いざというときはお願いしますね』
「わかってる。だから、僕のときもお願いね」
『もちろんですわ』
 二人は画面越しに目を合わせると微笑みあう。実際、ナナリーが味方でいてくれるのでスザクとしてはいろいろと助かっているのだ。
『では、必要なデーターはすぐに送りますね』
「うん。ルルーシュのことは任せておいて」
 じゃ、また。そう言うと同時に通話が終わる。
「さて、と……害虫たたきの準備をしないとね」
 こう呟くと、スザクは席を立った。

 戻って来たルルーシュにナナリーからの連絡があったことを報告する。
「ナナリーから?」
 その瞬間、彼がどのような表情を作ったのかは言うまでもないだろう。
「また後で連絡くれるって。それと……ちょっと厄介事」
 スザクのこの言葉にルルーシュはかすかに目をすがめる。
「どんな、だ?」
「あっちからバカが数人、こっちに来るらしい。で、それを追いかけてコーネリア殿下とその部下が来るって」
 ナナリーの用件はそれだった、と言外に続けた。
「バカは予想していたが……コゥ姉上だと?」
 それは、とルルーシュは眉根を寄せる。
「まずい?」
「……事前に相談すれば何とかなるとは思うが……」
 その時間が惜しい、とルルーシュは呟いた。
「今なら連絡が取れるのではないですか?」
 ジェレミアが口を挟んでくる。
「そうだな」
 確かにそれが一番確実で無難な方法だろう、とスザクも思う。
「ジェレミア」
「準備をしてまいります」
 言葉とともに彼は部屋を出て行く。こういうときに自分の名が呼ばれないのはいつものことだからスザクは気にしない。だが、ルルーシュは申し訳なさそうな表情を作っている。
「ルルーシュ。これがナナリーがくれたバカのデーター。一応、情報担当には回してあるから」
 正規に入国してくる分には100%確保できるだろう。問題は非正規の手段で入国してくる連中だ。いくら島国でも、海岸線全部を確認することなんてできるはずがない。
 後は、ルルーシュ本人の周囲を固めることだ。もちろん、クロヴィスも同様にしなければいけない。
 それに関してはすでにバトレー将軍に相談してある。
「……ずいぶんと手際がいいな」
 ルルーシュが呟くようにこう言った。
「僕たちはルルーシュのそばにいたからね。当然だよ」
 ルルーシュの言動を見ていたから、それが当然だと思っていた。違うとわかったのは士官学校に入ってからだ、とスザクは続ける。
「ナナリーなんて、ルルーシュ以外だとマリアンヌさんとかシュナイゼル殿下とかだけしか知らないから余計じゃないかな?」
 みんな優秀な人たちばかりだ。自分もあほな貴族の息子とかがいなければきっと今でも知らなかったのではないかと思う。
「そういうことにしておくか」
 ルルーシュはため息とともにそう告げる。
「それよりも厄介なことが待っていそうだからな」
 彼はさらにそう付け加えた。
「そう、だね」
 まずはコーネリア達をどう落ち着かせるか、だろう。
「ルルーシュさま。準備が出来ました」
 そこにジェレミアが戻ってくる。
「さて、行くか」
 疲れたような表情でルルーシュがそう言った。
「二人とも、ついてこい」
 だが、すぐにこう告げる。
「Yes.Your Highness」
 その言葉に二人はすぐに言葉を返した。



14.02.07 up
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