「……ルルが欲しがっているもの、ですか?」
 いきなり特派に押しかけてきた皇女殿下二人に詰め寄られるように問いかけられて、スザクは頬を引きつらせた。
「そうです! スザクなら知っているでしょう?」
「……昔の、お姉様にでしたら何を差し上げればいいのか想像ができたのですが……今は、お兄さまですし、八年近く離れておりましたから」
 何をプレゼントすればいいのかわからない。そう告げる皇女達の気持ちもわからなくはない。
「それに……私が覚えているお兄さまは、お姉様のお姿のままですし……」
 まして、ナナリーに関しては何とかしてやりたいような気はする。
「……お二人が一生懸命に考えられたプレゼントであれば、何でも喜ぶと思うんですが……」
 基本的に、ルルーシュは妹には甘いようだし……とスザクは口にした。
「それはわかっておりますが……やはり、不必要なものを贈るのは不本意ですもの」
 ですから、とユーフェミアが食い下がってくる。
「そう、言われましても……」
 ルルーシュが今必要としているものが何であるのか、と聞いてもすぐには堪えられない。
 自分の分であればわかっている。というよりも、二人の間の不文律があるから、想像が付いていると言うべきか。
 幸か不幸か、スザクの方が誕生月は早い。
 だから、ルルーシュが先にプレゼントを贈ってくれる。
 基本的に、彼は寂しがり屋で甘えん坊だ――もちろん、そんなことを口にすればスザクとはいえただではすまない――そして、自分と同じものをスザクに持っていて欲しいと考えているらしい。逆に言えば、彼が贈ってくれたものをスザクが買えばいいだけだ……と言うことなのである。
 しかし、それを二人に教えるわけにはいかない。
「……本か、文房具であれば……多分使うと思うんです」
 服に関しては、彼も好みがあるから……と苦し紛れに口にした。
「もしくは、お二人が手作りされた何か……そうですね。ハンカチに刺繍をするとかその程度の事でも喜ぶと思います、ルルは」
 高価なものではなくてもいい。心さえこもっていれば、と付け加える。
「……刺繍ぐらいなら、私にもできますね」
 ルルーシュのイニシャル程度であれば何とかなるだろう、とナナリーが嬉しそうに口にした。
「それに……クッキー程度なら何とか作れるようになりましたから、それも添えればよろしいでしょうか」
 どう思いますか、と彼女はユーフェミアに問いかけている。
「そうですね。今のお兄さまは民間人の学生ですもの……あまり高価なものでは逆に迷惑になってしまうかもしれませんね」
 ならば、手作りのものを贈るのがいいかもしれない……とユーフェミアも頷いてみせた。
「そういうことですので、スザク」
 にこやかな微笑みと共に彼女は視線をまたスザクへと向ける。
「当日は、お兄さまを総督府まで連れてきてくださいね。お姉様も是非お祝いをしたいといっておりましたから」
 おそらく、一番言いたかったことはそれなのではないか。スザクは即座にそう判断をする。
「……総督府、までですか?」
 他の場所ではいけないのか、とスザクは言外に問いかけた。
「私は構わないのですが……あの一件があってから、ナナリーをあまり外出させたがらないのですわ、お姉様が」
 だから、申し訳ないがルルーシュに来てもらわなければいけないのだ……とユーフェミアは言葉を返してくる。
「大丈夫ですわ。政庁にもお兄さま用の部屋を用意しましたし……スザクも一緒にいてもらえるようにベッドはキングサイズですもの」
 それはそれで問題ではないだろうか。
 しかし、自分の立場では彼女たちに逆らえない。
「……ルルに、話してみます……」
 ただし、彼が納得するかどうかは別だ……とそうも付け加える。
「それはしかたがありませんわ」
 ルルーシュにも今の生活があるのだから。口ではそう言っているものの、少しも断られるとは思っていないようだ。
 それに、ため息を吐くことしかできないスザクだった。

「まぁ、しかたがないだろうな」
 スザクの話を聞き終わった後で、ルルーシュはため息とともに言葉をはき出す。
「特に今年は、全てがばれたばかりだしな」
 それに、クロヴィスが死んで悲しんでいるところに自分の生存が伝わったから余計に構いたいのだろう、と彼は告げる。
「なら、いくの?」
「しかたがないだろう。ナナリーが来て欲しいというのであればな」
 結局、彼は妹には甘いと言うことか。それはしかたがないことかもしれないが、とスザクは少しだけ寂しい気持ちになる。
「でも、泊まらないぞ。当然、ここに帰ってくるからな」
 そんな彼の耳に、ルルーシュの言葉がさらに届いた。
「ルル?」
「お前のことだ。そういうことをした朝にナナリー達の顔を見られるとは思えないからな」
 しかし、側にいるだけならばともかく同じベッドにいて我慢することは自分ができない、とルルーシュは笑う。
「お前が我慢できるというのであれば、話は別だがな」
「できるわけないでしょ!」
 ルルーシュの言葉にスザクは反射的にこう叫び返した。この言葉を耳にした瞬間、彼の笑みがさらに深くなる。
「よくできました」
 この言葉とともにルルーシュがスザクを手招きした。それに素直に従うと、彼の腕がスザクの首に巻き付く。そのままひかれるままにそっと唇を重ねた。

 そして、ルルーシュの誕生日当日、二人はロイド達と共に総督府を訪れていた。二人だけでなかったのは、そのことを悟られてあれこれ煩わしいことになることを警戒したのだ。
「すまなかったな、ルルーシュ。本来であれば、私たちの方が出向くべきであったものを」
 ルルーシュの顔を見た瞬間、コーネリアがこう言ってくる。
「いえ。姉上がお忙しいことはよくわかっておりますから」
 そういって微笑むルルーシュがとても綺麗だ、とスザクは思う。しかし、それだけではなかったようだ。
「お兄さまは、本当にマリアンヌ様によくにていらっしゃいますわ」
 感心したようにユーフェミアがこう呟いた。
「お母様に、ですか?」
「えぇ、ナナリー。笑顔なんてそっくりです。元々、お兄さまはマリアンヌ様によく似ていましたけど」
 今の微笑みはそっくりですわ、とどこか陶酔したように告げるユーフェミアにルルーシュは苦笑を浮かべるしかないようだ。
「お前達……ルルーシュが困っているだろう」
 それを察したのだろうか。コーネリアもまた苦笑混じりにこう声をかけている。
「ナナリーだってマリアンヌ様によく似ている。あの方の血をひいているのだから、当然のことだ」
 それに、外見だけが似ていてもしかたがないだろう……というのはそうなのかもしれない。それに、ルルーシュのすばらしさは外見よりも内面だろう、とスザクは考えていた。
「第一、そんなことで時間を潰していていいのか?」
 せっかくの料理が冷めるぞ、という言葉で現実に戻るのはどうしてなのだろう。
「お兄さま、こちらですわ」
「早くいきましょう!」
 言葉とともに二人がルルーシュの手を取る。そのまま移動を開始した。
「すまんな、クルルギ」
 そんな三人の背中を見送っていたスザクの耳に、コーネリアの声が届く。
「いえ。この程度ならば、まだ許容範囲内です」
 自分たちを引き離そうとしていないから……と言う言葉をスザクは飲み込む。それでも、コーネリアにはわかったのではないだろうか。
「ルルーシュが幸せそうだしな。こうして、顔を合わすこともできる。それで十分だよ、私も」
 だから、時々でいい。ルルーシュを貸してくれ。こう言われて、スザクは静かに頭を下げた。

 小さなろうそくの明かりが予想以上に暖かく感じられる。
「そんなことを言っておられたのか」
 姉上は……と口にしたルルーシュの体を、そうっと背後から抱きしめた。
「そのくらいは、しかたがないよね」
 彼女たちがどれだけルルーシュを好きなのか、わかっているから。スザクはそう口にする。
「でも、返して上げられない」
「俺も、返されたら困るな」
 即座に言い返してくれた言葉が嬉しくて、抱きしめる腕に力をこめた。
「返さないよ。来年も再来年も、誕生日はずっと一緒に過ごすんだ」
「そうだな」
 言葉とともにルルーシュがそうっとスザクに体重を預けてくる。
「大好きだよ、ルルーシュ」
 そんな彼の唇に、スザクは自分のそれを重ねた。











07.12.03 up