ぬいぐるみ


「ルルちゃん、ルルちゃん」
 言葉とともにミレイが手招きをしている。それにいやな予感を覚えつつも、ルルーシュは彼女のそばへと歩み寄っていった。
「なんですか?」
 期末テストまで後一週間もない。他の者達のために何が何でも祭りだけは阻止しなければ。そう思いながら問いかける。
「はい、これ」
 言葉とともに渡されたのはぬいぐるみだろうか。
 しかし、どこか見覚えがあるような気がする。
 心の中でそう呟きながら、渡されたものを改めて確認をする。
 くるくるの茶色の髪の毛。緑色の瞳。そして、自分が着ているのと同じ制服。かなりデフォルメされているが、これは間違いなく彼だろう。
「……スザク?」
 しかし、何故、これを自分に渡すのだろうか。
「そうよ。かわいいでしょう?」
 力作なんだから、とミレイは笑う。
「それをぎゅっと抱きしめて、あっちを見て笑ってくれる?」
 そのまま彼女は窓際を指さす。そこにはカメラを構えたリヴァルがいた。
「リヴァル……」
 ミレイに問いかけても意味はない。だから、と彼に説明を求める。
「明日、スザクの誕生日じゃん。だから、さ。お祝いのカード用にルルーシュの写真を使いたくて……な?」
 ルルーシュもスザクの誕生日を忘れているはずがない。しかし、それがどうしてこの状況につながるのかがわからない。
「さすがに、本人に抱きつけって言えないでしょう?」
 ミレイが笑いながらそう言う。
「……やれというなら、やりますよ?」
 スザクが、とルルーシュは言い返す。
「あいつに抱きつくなんて、いつものことです」
 何故かクラスの女性陣が喜ぶし、と付け加えた。
「それ、本当なの?」
 ミレイの追求の矛先は、何故かリヴァルへと向けられる。
「……それは、ルルーシュがよく、階段や何かでこけるからです」
 女性陣が喜ぶのもいつものことです、とリヴァルは言う。
「ルルーシュなら、女装してもしなくても違和感ないって言うのが女性陣の意見です」
「……そこまで言わなくてもいい」
 余計な事を、と思いながらルルーシュはリヴァルを制止する。だが、遅かった。
「なるほど。女装したルルちゃんにリボンをつけて、スザク君にお持ち帰りさせればいいのね」
 だから、どうしてそうなるのか。
「会長……」
「いいじゃない。スザク君が喜んでくれるのが一番でしょう?」
 確かに、それは正論だ。しかし、ミレイの口から出るととたんに正論に思えなくなるのはどうしてだろう。
「なら、別に女装しなくていいから僕とデートしてよ、ルルーシュ」
 しかし、それ以上にベランダからかけられた声に誰もが驚いてしまう。
「本当はお兄様のデートなら邪魔したいところですが、スザクさんなら妥協します」
 しかも、スザクだけではなくナナリーまでもがベランダにいたことに誰も気づかなかったというのが怖い。
「とりあえず、かわいいルルーシュの写真を自慢したいから、会長のリクエスト通りのことをしてくれる?」
 ぬいぐるみがルルーシュの手作りでないことだけは残念だけど、とスザクは笑う。
「代わりに、私たちがしっかりと愛情を込めたわよ」
 意味ありげな笑みとともにミレイが言葉を口にする。
「詳しいことは、明日ね」
 と言うことで、さくさくと写真を撮ってしまいましょうか、と彼女は続けた。
「かわいい笑顔でね?」
 さらにスザクにこう言われては逆らえるはずがない。
 仕方がなく、スザクのぬいぐるみを抱きしめるとカメラに向かって微笑んで見せた。

 ちなみにミレイ達のプレゼントは、スザクのぬいぐるみと対になっているルルーシュ自身のぬいぐるみだった。
 そして、ナナリーからのプレゼントはルルーシュの女装だというのは、ちょっと複雑なものがある。
「ルルーシュ! どうせなら、このままデートに行こうよ!」
 嬉しそうな表情でスザクはそう言う。
「……お前、俺が男だと忘れていないだろうな?」
 ルルーシュは思わずこう問いかけてしまった。
「もちろんだよ! でも、ものすごく美人だし、新鮮だもん」
 だから、デートしよう? と続ける彼に、どう反応すればいいのか。
「……で? テストの準備は?」
 ため息混じりにこういうのが精一杯だ。
「……それは……」
 相変わらず出たとこ勝負なのか。スザクは言葉に詰まっている。
「なら、終わってからにすればいいわ。みんなで服を見繕ってあげるから」
 ルルーシュの、とカレンが口を挟んできた。
「そうね。ルルなら私の服でも着られそうだし」
 さらにシャーリーもうなずいている。
「なら、みんなでルルーシュに似合いそうな服を持ち寄りましょう? ニーナはそうね……二人のデートにちょうど良さそうなお店をネットで探してくれる?」
 後は一緒にルルーシュを着せ替えて、とミレイが場を仕切り始めた。
「お前たち! 俺は人形じゃないぞ!!」
 反射的にルルーシュはそう叫ぶ。しかし、女性陣が耳を貸してくれる気配はまるでない。
「あきらめなよ、ルルーシュ。それよりも楽しんだ方が勝ちだよ」
 元はと言えば、お前が元凶だろうが。スザクの言葉にそう考えてしまう。だが、今日は彼の誕生日だから、とルルーシュは必死にこらえる。
「それよりも、みんなに自慢していいよね?」
 美人とデートをしていることを、と彼はへらりと笑う。
「いいんじゃね?」
 それにリヴァルがうなずいている。
 彼ならば八つ当たりをしてもかまわないだろう。
「リヴァル……後で覚えていろよ?」
 にっこり微笑みながらそう告げる。その瞬間、彼がどのような表情を作ったか。あえて言わなくてもいいだろう。
「ルルーシュ、だめだよ。そんな笑顔は僕にだけ向けてくれないと」
 だが、スザクの空気読めない度はそれ以上だった。
 さすがはスザク。
 改めてそう認識をさせられたルルーシュだった。



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