歪んだ王国「くそっ!」 こうはきだしながら、ルルーシュは反動と腹筋の力で何とか体を起こした。しかし、倒れてしまったいすを直すことは今の自分にはできない。 それが忌々しい。 同時に、ナナリーもこんな気持ちだったのか……とそんな風に思う。 だが、自分とナナリーの間には大きな差があることも認識していた。 「何で、俺が……」 こんな目に遭わなければいけないのか。そう呟いたときだ。 「ルル!」 おそらく倒れたときの音が耳に届いて、すぐに駆けつけてきたのだろう。軽く息を弾ませながらスザクが飛び込んできた。 「大丈夫? ケガは、ないね?」 真っ直ぐにルルーシュの側に来たスザクは彼の体を確認しながらこう問いかけてくる。だが、服の上からでは安心できないのだろう。触れようと手を伸ばして来た。 「触るな!」 そんな彼の行為をルルーシュは拒む。 「……ルル……」 そんな風に言われると思っていなかったのだろう。スザクは信じられないというように目を丸くしている。 「俺に触るな、裏切り者!」 スザクをさらに追いつめようとするかのように、ルルーシュはこう叫ぶ。 自分の手は拒んだくせに、ユーフェミアの手は取った。 それだけであればまだ我慢できた。彼がブリタニアの軍人である以上、皇女に忠誠を誓うのは当然のことだと言える。そして、名誉ブリタニア人でしかないスザクを保護するものとして彼女が最適だ、ということもわかっていた。 だから、それに関しては我慢したのだ。 スザクの身の安全のためには、それが最善だ、と自分に言い聞かせていた。 しかし、そのしっぺ返しがこんな形でくるとは思っていなかったのだ。 「裏切ってなんかいない」 ルルーシュの言葉に対して、スザクがこう言い返してくる。 「なら、俺をさっさと解放しろ!」 ここから! とルルーシュは怒鳴り返す。 「それも……できない」 スザクは、そんなルルーシュの言葉に対して、小さく首を横に振って見せた。 「そうしたら、ルルは、二度と僕の手の届かないところに言ってしまう。そんな気がするから」 だから、ユーフェミアの言葉に従ったのだ。彼はそう付け加える。 「スザク!」 そんなこと、最初からわかっていたことだろう……とルルーシュは心の中で呟く。自分がブリタニア皇家を壊す、と誓ったあの日から、彼の主とは相容れない存在になったのだ。 どうしてそうなったかは、彼もその場にいたから知っているだろう、とも。 「僕は……ルルを失いたくない」 ぽつり、とスザクが呟くように口にする。 彼はまだ、自分が《ゼロ》だと知らないはずなのだ。知っていれば、いくら彼女でも、こんな甘い処遇ですますはずはない。 だが……とルルーシュは心の中で呟く。 スザクであれば、気付いているかもしれない。彼と《ゼロ》は今までに何度か顔を合わせている。一度はお互いのぬくもりをすぐ側で感じるところまで近づいたのだ。 その時、彼を抱きしめた《ゼロ》の体格を、彼が覚えていたとしたら……ルルーシュはそう考えて微かに眉を寄せる。 「……ルル?」 しかし、彼の口調からは真実を判断することができない。 「それはお前の勝手だろう、スザク……俺の意志はどうなる!」 自分にはやりたいことがあるのだ、とルルーシュは本音の代わりに口にした。 「……なら、僕の気持ちはどうなるの?」 こう言いながら、スザクは何かを確かめるようにルルーシュの頬に触れてくる。 「スザク……」 「もう、大切な人のぬくもりが消えていく瞬間を感じるのは、いやなんだ」 それは、彼の父のことを思いだしてのセリフなのだろうか。それとも、別の理由からなのか。それも、ルルーシュにはわからない。 あのころは、お互いの気持ちもすぐに理解できたのに。 「大好きだよ、ルルーシュ……愛しているから……」 だから、僕を置いていかないで……とスザクは囁きながらルルーシュの体を抱きしめてくる。 「スザク……」 「だから、僕だけのものになって……」 君の願いは、僕が必ず叶えてみせるから……と言う彼にルルーシュは小さく首を横に振ってみせた。 「ルル!」 どうして、とスザクは叫ぶ。 「……お前の道と、俺の道は……既に分かれているんだよ、スザク」 たとえ、どれだけ相手の存在を欲していても再び手を取ることはかなわない。ルルーシュは心の中でそう付け加える。 「そんなこと、認めない……」 自分から離れていくなんて許さない! とスザクは口にした。そして、そのままルルーシュを抱き上げる。 「スザク、何をする!」 「ルルが……ルルが、もう二度と僕から離れていかないように……僕に、縛り付ける!」 それで恨まれてもかまわない。スザクはきっぱりとそういいきった。 半ば投げるように、ルルーシュの体をベッドに下ろす。 その衝撃に、ルルーシュは一瞬、呼吸をつまらせる。 まるでそれをねらっていたかのように、スザクが覆い被さってきた。 「スザク!」 「もう、何も言わない。でも、やめないから……」 ルルーシュが何を言っても、ここから出さない。言葉とともにスザクはルルーシュの衣服をはぎ取り始める。 そんな彼の方が、よほど傷ついているような表情をしているのではないか。そう心の中で呟いたのが、その時、最後のまともな思考だったのかもしれない。 それでも、自分がこの手で行わなければいけないのだ。 誰を悲しませても、だ。 ルルーシュの体をきつく抱きしめながら、スザクは眠っている。しかし、ルルーシュは眠ることができなかった。 「……お前は……馬鹿だ」 自らの手を血に染めるのは自分だけでいい。 そして、幸せに生きていて欲しかったのに。それなのに、スザクは自分と逆のことを願うという。 それが嬉しくないと言えば嘘だ。 だが、それ以上に悲しいと思う。 「……お前は、馬鹿だよ、スザク……」 ルルーシュの夕闇の瞳から、涙がひとしずく、こぼれ落ちた。 終 |