外部との接触は気にしていても、人質同士でのそれはどうでもいいらしい。 もっとも、その方がありがたいが……とルルーシュは心の中で呟く。 その方がこちらとしては動きやすい。 「……ミレイなら、うまくやってくれると思うが……」 それに、あちらも見た目だけならばテロリストに警戒心を抱かせないはずだ。 「後は……あいつが彼女をコントロールしてくれれば……」 そう口にするものの、かなり難しいのではないかと思う。 だが、彼等が自分に協力をしてくれれば何とかなるのではないか。少なくとも、あの人に怒られるようなことはないと思いたい。 ルルーシュがそんなことを考えている間にも、人質達は次々と戻ってくる。その中にミレイ達の姿もあった。ようやくほっとしたような表情を浮かべているニーナに、とりあえず安心をする。 「顔色がよくなったな」 ルルーシュはそう言って微笑みかけた。 「うん、ありがとう」 ルルーシュが彼等に交渉してくれたからだ。そう言ってニーナは淡い笑みを浮かべる。しかし、その表情はどこか硬い。 「大丈夫よ、ニーナ。彼等も、とりあえず紳士的な行動を取ろうとしているようだもの。ね?」 明るい口調を作ってシャーリーが彼女に声をかけた。 「それでも我慢できないなら、後でリヴァルに八つ当たりできるマシンでも考えていなさい」 さらにミレイがこう言って微笑む。 「それと、ルルちゃん」 作戦終了、と彼女はそっと付け加えた。 「あちらも『了解』だそうよ」 その言葉に、ルルーシュは頷き返す。 「後はタイミングだけ、ですが……」 さて、どうしようか。そう思ったときだ。今までの見張りとは違うテロリストが室内へと踏み込んでくる。 「何かあったのか?」 眉根を寄せて、ルルーシュはこう呟く。 「誰でもかまわん! 人質を一人、連れてこい!!」 見せしめに屋上から突き落としてやる! とそいつはわめく。どうやら、ここにいる者達よりも別室にいる者達の方が先に、この膠着状態に耐えきれなくなったようだ。 しかし、それは最悪の決断だ。そうとしか言いようがない。 「……だが……」 「かまわん。どうせ、ブリキだ」 コーネリアに目に物を見せてやろう、と高揚した口調で男はさらに告げる。 いったいどうすればこの状況を乗り切れるか。ルルーシュがそれを考えようとしたときだ。 「こいつでいいか!」 そう言いながら、彼が手を伸ばした相手はニーナだ。とっさにルルーシュは彼女の体を男の手の下から遠ざけるように、己の方へと引き寄せた。 「何をする!」 それが気に入らなかったのだろう。相手はルルーシュを殴りつけようとするかのように持っていた銃を振り上げた。 「おやめなさい!」 その行為をとがめるような声が周囲に響く。 「人質なら、わたくしがなります! わたくしは、ユーフェミア・リ・ブリタニアです!!」 さらに続けられた言葉に、周囲にどよめきが走った。しかし、彼女の身分を考えれば、最後まで名乗り出てはいけなかったのだ。彼女が人質になっていることで、どれだけコーネリアの選択を狭めているのか、わからないのか……と怒鳴りつけたい。 「だから、口を塞いでおけと伝えただろうが」 ため息とともにルルーシュはこう呟いた。 「仕方がない。こうなったら、腹をくくるか」 何を言われてもマリアンヌのおしおきよりはましだ。 意を決すると、ルルーシュは立ち上がった。 ドアが開かれる。同時に、ユーフェミアをかばうようにしてルルーシュが姿を現した。 「あらあら」 その光景に、マリアンヌは仮面の下で笑みを浮かべる。 性格を考えれば、きっと、ユーフェミアはここに来るだろう。そう考えていた。しかし、それにルルーシュが付き添ってくるとは思ってもいなかったのだ。 だが、と直ぐに思い直す。 昔から、自分とコーネリアが中心になって『妹は可愛がって大切にしなさい』と教え込んできた。それが完全に染みついていると言うことか。問題があるとすれば、その意欲に実技が伴わないと言うことかもしれない。 まぁ、そのあたりは自分たちがフォローをすればいいだけのことだ。そのためにスザクが彼の傍にいられるように――それに関しては、約一名、未だに文句を言っているが――手配したのだ。 「……ゼロ?」 二人を連れてきたテロリストが驚いたようにそう口にする。 「ご存じとは恐悦至極」 変声器を通した自分の声にも、ようやく慣れてきた。もっとも、ルルーシュは嫌そうに顔をしかめているが、まぁ、それはご愛敬というものだろう。 「何故、貴様がここに!」 「平穏に自体を解決するために相談に、ね」 もっとも、それは受け入れてもらえなかったようだが。そう言いながら、ゆっくりと彼等の方に歩み寄る。その途中で、連中の指揮官らしき男をわざと踏んでしまったが、気にしないでおこう。 「既に、君達の計画は破綻している。諦めて、人質を解放するのだな」 それとも、拒んでたたきのめされるか。好きな方を選べ。そう続ける彼女にルルーシュがため息をついた。本人は嫌がるかもしれないが、そう言うところはシャルルそっくりだと笑みが深まる。 もっとも、テロリストにしてみればそんなことはどうでもいいらしい。 「その前に、こいつらをぶち殺してやる!」 こう叫びながらルルーシュへと銃口を向けようとした。 その瞬間、床が大きく揺らめく。 予期していなかったのだろう。テロリストがバランスを崩した。 「バカが」 言葉とともに床を蹴る。そしてそのまま遠慮なくテロリストの脳天へと蹴りを入れる。 「……何故、ここにいらっしゃるのですか?」 男が倒れるのも待たずにルルーシュがこう問いかけてきた。 「正義の味方、だからかな?」 困っている人間がいれば助けに行くのは当然のこと。もっとも、今回は私情が入りまくっているが……とマリアンヌは笑う。 「……わたくしたちのせい、でしょうか」 おずおずとユーフェミアが問いかけてくる。 「子供達を守るのは大人の役目だからね」 さて、あちらはどうなっているだろうか……と付け加えた。 「ジノとアーニャがいましたから……何か、見張りの意識をそらすことが起きれば、大丈夫でしょう」 ため息マリじりにルルーシュがこう告げる。 「本当は、もっと穏便に人質を解放させる予定だったのですが……誰かさんが突っ走ってくれたので、ね」 まったく、と続けながら、彼は視線をユーフェミアへと向けた。 「わたくしが、どうしたのですか?」 「わからないならわからないでいい。後でコーネリア姉上にしっかりと怒られるんだな」 ついでに、皇族の義務をしっかりと教えてもらえ。そう続ける。 「なら、ルルーシュはどうなのよ!」 皇族として義務を放棄しているのではないか。そうユーフェミアはつっこんでくる。 「そんなことはないよ。ちゃんとオデュッセウス兄上やシュナイゼル兄上の相談には乗っている」 それで十分ではないのか。ルルーシュはそう言い返した。 「そんなことをするよりも、さっさとブリタニアに戻ってくればいいのに!」 「俺に言われても、それは困る」 文句はマリアンヌに言え、と彼は続ける。 「……それは無理」 あっさりと彼女は言い返す。 「ルルーシュに説得できないのに、どうしてわたくしができると思いますの?」 だから無理です、というユーフェミアにマリアンヌは仮面の下で苦笑を浮かべる。 「そうそう。そろそろ逃げ出さないとビルが倒れるかもしれないよ」 その表情のまま、こう告げた。 「それを先に言ってください!」 「とりあえず、みなを非難させなくては……」 それまでの険悪な――というには可愛いものだったが――雰囲気を吹き飛ばしつつ、二人は頷きあう。 「大丈夫。あちらは藤堂達がうまく誘導しているはず」 だから、自分たちのことを考えなさい。この言葉とともにマリアンヌは二人を気絶させた。 「……それで?」 こう言いながら、コーネリアは目の前にいるスザクやユーフェミアをにらみつけてくる。 「あの方はともかく、ルルーシュは何故ここにいないのだ?」 あぁ、本気で怒っている……とスザクは心の中で呟く。あるいは、マリアンヌに向けられない怒りを彼にぶつけようとしているのか。 「ナナリーが心配しているだろうから、先に帰る。マスコミに見つかるのもいやだから……と言っておりましたわ」 ユーフェミアが静かな口調でこう告げる。 「でも、落ち着いたらこっそりと差し入れに来てくれるそうですけど」 どこまで本気かはわからない。彼女はそう締めくくった。 「……ナナリーか……」 確かに、彼女が心配しているだろうことは否定できない。自分の目で確認できないから、なおさらだろう。そして、そんな彼女を安心させる一番の方法は、本人が側に行って抱きしめてやることではないか。 「それはわかっているが……逃げたな」 ルルーシュは、とコーネリアは吐き捨てる。 そんな彼女に、これを手渡すのは、火に油を注ぐようなものではないか。そう思うのだが、ルルーシュのお願いを無視することも出来ない。 「……あの、総督閣下……」 聞こえなければいいなぁ、と思いつつ、スザクは呼びかける。 「何だ、クルルギ」 しかし、しっかりと彼女の耳には届いてしまったらしい。 「ルルーシュからの預かりものがあるのですが……」 お受け取りになって頂けますか? と頬を引きつらせながら口にする。 「あの子から?」 何だ? といいながらコーネリアは手を差し出してきた。しかし、自分が直接彼女に手渡すのは無礼に当たるだろう。だから、と救いを求めるようにダールトン達へと視線を向ける。 「姫様、私が」 言葉ととも握るフォードが進み手出来た。その彼の手に、スザクは頼まれたものを落とす。 それを確認した瞬間、ギルフォードは表情を強ばらせた。それも無理はないだろう、とスザクは小さなため息をつく。 「どうした?」 ルルーシュは何を寄越したのか、とコーネリアが問いかけてくる。 仕方がない、というようにギルフォードは彼女経ての中のものを差し出した。 「……胃薬……」 次の瞬間、コーネリアは呆然と呟く。 「どうして?」 理由を知っているか、とユーフェミアが問いかけてきた。 「今か将来かはわからないけれど、必ず必要になるだろうから、と……」 それはよく効くが、体への負担は少ないものだ。そうも付け加える。 「あの子の気遣いは、どこかずれている……」 心配してくれるのは嬉しいが、と深いため息とともにコーネリアは言葉をはき出した。 終
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