手際よく材料を混ぜていく。 「お兄さま」 そして、それをクッキングシートの上に絞り出そうとしたときだ。 「何を作っておいでですの?」 言葉とともにナナリーが近づいてくる。 「午後からジノとアーニャが来る。その時のお茶に出そうと思って、シュークリームを作っているところだよ」 ナナリーも同席するだろう? と問いかければ、彼女は嬉しそうに微笑んだ。 「久々にお二人にお会いできるのですね」 懐かしいです、と付け加える。 「多分、スザクも帰ってくると思う。それまでに準備は終えるつもりだが……」 「わかっています。間に合わないときには、私がご紹介しておきますね」 さすがはナナリー、とルルーシュは微笑みを浮かべる。自分が最後まで説明しなくても言いたいことがわかってくれるようだ。 「頼む」 ひょっとしたら、とルルーシュはその表情のまま続けた。 「もう一人、増えるかもしれないが……大丈夫だな?」 誰が、とは言わない。 「もちろんですわ、お兄さま」 どなたがおいでになっても、きちんとお相手させて頂きます。ナナリーはきっぱりと言い切った。 「ですから……私の分のシュークリームはカスタードクリームだけにしてください」 今日はそんな気分なのだ、と彼女は微笑む。 「おやすいご用だよ、ナナリー」 その位なら、いくらでも……とルルーシュは口にする。 「楽しみにしています」 そう言うと、彼女は車いすの向きを変えた。そして、そのままキッチンを出て行く。 「さて……あいつらはこれでいいとして……あちらを無視するわけにはいかないだろうな」 それはそれで厄介かもしれない。だが、不幸中の幸いなのは、あちらは急がなくていいと言うことだ。 「まぁ、その時になってから考えればいいか」 こう呟くと、ルルーシュは目の前の作業を再開した。 「……大きいね、彼……」 スザクがジノを見上げながらこういう。 「僕たちより年下だって聞いたんだけど……」 「あぁ。一つ下だったな」 本当に、何を食べればこんなに伸びるのか。ルルーシュもそう言いたい。 オデュッセウスやシュナイゼルほどではないが、クロヴィスと同じくらいの身長があるのではないか。 「昔は、俺よりも小さかったのに……」 ため息とともにルルーシュはこう付け加える。 「ジノさんは、そんなに大きくなられましたの?」 自分の目で確認できないナナリーが、こう問いかけてきた。 「俺よりも、頭一つ大きい」 それが気に入らない、とルルーシュは心の中で付け加える。普段傍にいる同年代の人間がほぼ同じ身長だから、余計に気に入らないのか。 「……独活の大木……」 不意にアーニャがこう呟く。 「アーニャさん?」 「ノネット達がそう言っていた」 意味がわからないというように聞き返すナナリーにアーニャはこう告げる。 「酷いぞ、アーニャ……よりによってルルーシュ様とナナリー様にばらすなんて」 第一、自分は独活の大木なんかではない! とジノは言い返す。 「その気になれば、ルルーシュ様だって抱き上げられる!」 胸を張って言うことか、それは。ルルーシュは反射的に心の中でつっこんでしまう。 「……何で、そこでナナリーではなくてルルーシュなの?」 その代わりというように、スザクがストレートに問いかけた。 「女性は、意地でも落とさないのが礼儀だろう?」 しれっとした口調でジノが言い返している。 「ルルーシュ様を選んだのは、この中で守られるべき存在だから、かな?」 そう言われては納得しないわけにはいかない。だが、釈然としないということも事実だ。 「……勝手に言っていろ」 俺は男だぞ、とルルーシュは呟く。 「大丈夫ですよ! ルルーシュ様なら女性といっても誰も疑いません!」 満面の笑みと共にジノはこう口にした。 「……お前、それがほめ言葉だと思っているのか!」 この女顔のせいで、自分がどれだけ不利益を被ったと思っている、とルルーシュは叫ぶ。そのまま、遠慮なく彼の足を踏みつけた。 「ルルーシュ様! 酷い……」 ジノがそう言って目を潤ませる。 「……キモイ、ジノ……」 ぼそっ、とアーニャが呟く。 「確かに」 それにスザクも同意をしてみせる。 「ルルーシュなら可愛いけど……まるで、ロイドさんの言動を見ているようで気持ち悪い」 さらに彼は追い打ちをかけるようにこう続けた。 「……スザク、お前な……」 しかし、彼の言葉ではそれほど怒りを感じない。 「あの、アスプルンド伯爵と同じって……」 さらにジノのこのセリフで毒牙を抜かれたことも関係があるのだろうか。 「確かに、ロイドが瞳を潤ませながらあれこれ言ってくるのは気持ち悪いな」 それは否定できない、とルルーシュも頷く。 「ルルーシュ様までぇ!」 酷い、とジノがすがりついてこようとした。しかし、それよりも早く、スザクがルルーシュの体を自分の方へと引き寄せる。 目標を失ったジノの腕が大きく空をかく。 そのままバランスを崩して、彼は床に倒れ込んだ。 「お兄さま。そろそろお茶にしませんこと?」 さらに、ナナリーがこう言って追い打ちをかける。流石にそれはきついのではないか。 「せっかく、お兄さまがシュークリームを作ってくださったのですもの。さくさくのうちに食べたいですわ」 「シュークリーム? 僕も食べたい!」 「わたしも」 しかし、他の二人にもこう訴えられてはそんなことも言っていられない。 「わかった。スザク、手伝え」 今、準備するから……と付け加える。 「はい!」 嬉しそうにナナリーが微笑んだ。 「ナナリー様。車いすを押してあげる」 一見するとわからないが、アーニャも嬉しそうに微笑んでいる。 「ジノ。復活しないと、お前の分がなくなるぞ」 とりあえず、というように彼の傍を通りながらルルーシュは声をかけた。 「食べます!」 意地でも、とジノは起きあがる。 「なら、座っていろ」 現金な奴だな。そう思うと同時に、こう言うところは変わっていない、とルルーシュは微笑む。 そのまま、キッチンへと足を運んだ。 お茶会のことを知ったユーフェミアが、ロイド達を脅して押しかけて来たのは、それからしばらく経ってのことだった。 終
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