「これは……」 目の前に並べられた和菓子を見て、藤堂達が目を丸くしている。 「俺が作ったから、味の方は保証しないぞ」 いつもの口調でルルーシュはそう言った。 「ルル君が作ったの!」 信じられないというように朝比奈が目を丸くする。 「レシピさえあれば、何とでもなるものだろう?」 それに、ルルーシュはこう言い返す。 「あんこもルルーシュの手作りですよ」 さらにスザクが口にした言葉に、流石の藤堂も目を丸くしていた。 「さすがはルルーシュね。本当にお料理上手になって、母さん、嬉しいわ」 一人、マリアンヌだけが喜んでいる。それはいかにも彼女らしい言動だ、とルルーシュは内心苦笑した。 「そう言えば、母さん」 そんな彼女の前に、新たに煎茶を入れた茶碗を差し出しながら口を開く。 「なぁに?」 和菓子をフォークで切り分けながらマリアンヌが聞き返してきた。 「ユフィから聞いたのですが……」 この言葉とともにルルーシュは先日のお茶会の席で彼女が口にしていた内容をマリアンヌに告げる。 「ブリタニア軍の中の不満分子の中に、日本解放戦線のはぐれものと繋がりを持っているものがいるらしいと」 まだ、自分も確証を得てはいない。 しかし、とルルーシュは続ける。軍の備品の一部がどこかに横流しをされているのは事実だ。 その内容を耳にした瞬間、彼女だけではなく藤堂も眉根を寄せる。 「残念ですが、そちらまでは俺では調べきれませんので」 マリアンヌ達のほうでなんとかして欲しい、と言外に付け加えた。 「そうね。そうした方が確実そうね」 頼んで構わないかしら、とマリアンヌは視線を藤堂へと向けた。 「承知」 この一言共に、彼は目の前のお菓子を一口で飲み込む。そして、そのまま立ち上がろうとした。 「そんなに焦っても、意味はないでしょう?」 もう少し、ゆっくりとしていろ……とマリアンヌは笑う。 「そうですよ、藤堂さん」 「情報収集ぐらいは、俺たちでもできますから」 だから、と四聖剣も藤堂を押しとどめるように口にした。 「もう少し、ゆっくりとルルーシュ君やスザク君と話をしてはいかがですか?」 せっかくですし、と千葉が締めくくる。 「……そうか?」 「そうです」 しっかりと力説をされて、藤堂が気おされたように「わかった」と呟く。それにマリアンヌが小さな笑いを漏らした。 「とりあえず、ルルーシュ達ともっと頻繁に連絡を取れるようにしないとね」 この情報も、今日、顔を合わせたからこそ耳にすることが出来た。しかし、毎回、こうタイミングよく話が進むとは思えない。 「かといって、スザク君にお使いを頼むわけにはいかないものね」 一応、ブリタニアの軍人だし……と苦笑と共に付け加える。 「そうなると、誰か別の人間でお使いを頼める相手を見つけないとダメね」 誰か、いい人物がいるだろうか。そう言ってマリアンヌが首をかしげたときだ。 「ゼロ! いらっしゃいますか?」 ノックの音と共に聞き覚えのある声が耳に届く。 「ちょっと待て」 それに言葉を返したのはマリアンヌではない。藤堂だ。それはきっと、彼女が《ゼロ》の仮面をかぶっていなかったからだろう。 「……俺たちは席を外した方がいいですか?」 ブリタニア人である自分とブリタニア軍人であるスザクが同席しているとばれるとまずいのではないか。そう思って問いかける。 「気にしなくていいわ」 仮面をかぶっていたからだろう。既に《ゼロ》としての声でマリアンヌがこう言い返してくる。しかし、できれば男声で女言葉を使うのはやめて欲しい。 「それに……あの子なら大丈夫だと思うわ」 他のメンバーよりは頭が柔らかい。だから、と仮面の下で微笑む気配が伝わってきた。 「……母さんがそう言うなら……」 それでも、気付かれないならその方がいいだろう。そう判断をして、ルルーシュは仙波の陰に隠れるような位置へと移動をする。スザクも、そんな彼の行動に習うかのように隣に移動してきた。 「入っていいぞ」 二人の行動を確認してから藤堂が許可を出す。同時に、ドアのロックが外れた。 「失礼します」 少しの間をおいてドアが開く。同時に、踏み込んでくる人影が確認できた。 「ラクシャータさんから、データーを預かってきました」 そう口にした相手に見覚えがあるような気がするのは錯覚だろうか。そう思いながら、ルルーシュは脳内に収められているアッシュフォード学園関係者のプロフィールを検索する。 「……カレン・シュタットフェルト?」 直ぐに該当人物に行き着いた。 「知っているの?」 スザクが声を潜めながら問いかけてくる。 「あぁ。一応、クラスメートだ」 もっとも、とルルーシュも声を潜めながら言葉を返す。 「病弱でよく学校を休んでいるから、顔を知っている程度だ」 そう言う名目で、レジスタンス活動をしていたようだな……と苦笑と共に告げた。 「みたいだね」 漏れ聞こえる会話から、スザクもそう判断したらしい。言葉とともに頷いている。 「でも、どうしてなのかな?」 ブリタニア人の彼女がレジスタンスに協力する意図がわからない。そう言って彼は首をかしげた。 「……確か、彼女は日本人とブリタニア人のハーフ、だったはずだ」 それが関係しているのかもしれない。ルルーシュはそう言い返す。 「なるほど、ね」 ならば、納得かもしれない。スザクが頷いたときだ。 「……何か、気になることでもあるのかな?」 不意に 「いえ! 何でもありません!!」 そう言いながらも、カレンの視線がテーブルの上に向けられていることにルルーシュは気付く。ならば、当然、 「……あぁ。女性は甘い物が好きだったな」 君の分はあったかな、と言いながら 「べ、別に……食べたいというわけでは……」 慌てたようにカレンは言葉を口にした。 「ただ、珍しいなと思って……」 最近は、小豆を入手するのも大変だと聞いた覚えがあるから。彼女はそう付け加える。 「食べたくなったのでね。作ってもらったのだよ」 「作ってもらった、のですか?」 誰に、としっかりと顔に書きながらカレンは視線を彷徨わせた。 それにとらえられないように、とルルーシュとスザクは反射的に身をすくめる。 だが、それは無駄な努力だった。 「何で、あんたがここにいるのよ!」 しかも、ブリタニア軍人と一緒に!! と叫んでくれる。 「彼等は私の友人だから、だよ」 だから、ここにいたとしてもおかしくはない。そう 「ですが!」 「二人のことは、俺たちもよく知っている」 さらに反論をしようとしたカレンを藤堂の静かな声が押しとどめる。 「そうそう。ついでにラクシャータとも顔見知りだよ」 って言うか、昔はルル君と同居していたんだっけ? と朝比奈がお茶をすすりながらつげた。 「何度、押しかけようとして邪魔されたことか」 目的をあえてぼかしつつ、千葉も頷く。 「何よりも、二人とも桐原公のお気に入りだ」 当然、神楽耶とも仲がいい……と卜部が告げる。 「そうそう。だから、あえて騒ぎ立てるな」 それよりも、と仙波がさりげなく空いていた小皿にお菓子を取り分けた。 「一口なりとも味わっていけ」 言葉とともにカレンの前へと差し出す。 「ですが……」 不審をぬぐえないという表情でカレンが言葉を口にする。 「構わない。食べていきたまえ」 しかし、 「それよりも君達は知り合いなのかね?」 仮面の下で、きっと楽しげな表情をしているに決まっている。そう思いながら、ルルーシュは頷いて見せた。 「一応、クラスメートです」 もっとも、誰かさんは滅多に登校してこないが……と付け加えたのは、イヤミではない。しかし、相手はそう受け取らなかったようだ。 「悪かったわね!」 それでも、しっかりとお菓子を口に運んでいる。 「何! 何で、こんなにおいしいのよ」 信じられない、と次の瞬間、カレンは叫んだ。 「ルルーシュは、昔から家事が得意だったから。特に料理はおいしかったし」 お菓子も絶品だったし、とスザクが口にする。 「帰ったら作ってやるよ」 心配するな、とルルーシュは笑い返す。 「楽しみにしている」 それに、スザクは本当に嬉しそうな表情を作った。 「……何、二人でほのぼのしているの……」 あきれているのかいないのか。複雑な声音でカレンがこう告げる。 「学校での姿とは別人じゃないの」 さらに彼女は付け加えた。 「不特定多数にサービスをする精神は持ち合わせていないからね」 親しい相手ならばともかく、とルルーシュは言い返す。それに、カレンはますます複雑な表情を作った。 「なら、これから親しくなればいいだろうね」 低い笑いと共に 「そうすれば、ブリタニア側に何か動きがあったときにも直ぐに連絡が取れるだろう」 それがいい、と彼女は勝手に結論を出してしまった。 「何を言い出すのですか!」 勝手に決めるな、と言外に滲ませながら、ルルーシュは言い返す。 「そうです、ゼロ! 何でこんな奴と」 確かに、顔はいいし料理は上手かもしれないが! とカレンはカレンで好き勝手なことを言ってくれる。 「命令だ、といってもかな?」 それは、カレンに向けただけの言葉ではないだろう。 「……ゼロがそうおっしゃるなら……」 渋々といった様子でカレンがこういった。それを耳にしながら、ルルーシュは深いため息をつく。 「……会長への人身御供にするか」 そして、せめてもの抗議の印にこう呟いた。 終
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