確かに、色々と聞かれた記憶はある。 しかし、だ。 「……本当にやるとは思っても見なかったな……」 目の前のそれを見上げながら、ルルーシュはため息を吐く。 「あら。楽しいじゃない、これ」 だが、彼女の意見は違ったようだ。 「これなら、あなたも使えるわよ」 自分やスザク並みに、と言ってマリアンヌは笑う。 「……母さん……」 自分の操縦はそんなに下手なのか、とルルーシュは言外に滲ませる。 確かに、自分が操縦したことがあるのはアッシュフォード学園にあるガニメデとたまたま入手したグラスゴー程度だ。しかし、それなりに動けていたと思うのは自信過剰というものなのか。 「まぁ、ナイトポリス程度なら十分だと思うけど……どこにどんな人材がいるかわからないわ」 特に、中華連邦には……とマリアンヌは眉根を寄せる。 「……あちらが何か動くと?」 「澤崎がいるもの」 あの変態が、とマリアンヌは吐き捨てるように付け加えた。 「さっさと叩きつぶしたいんだけど……あちらには一番使い勝手がいいカードだから、なかなかね」 まぁ、そのうち出てくるでしょう……と彼女は続ける。 「それまでに、あなたがこれを使えるようになっていてくれると嬉しいんだけど」 「ですが、これは複座ですよね?」 誰が操縦するのか、と言外に問いかける。それとも、自分が操縦をして情報収集を他の誰かがするのか。 「本当はスザク君かカレンちゃんがいいのだけど……流石にね」 それでは彼等の才能が生かせない。その言葉にはルルーシュも同意だ。 「だからといって、四聖剣も使えないわ」 彼等は作戦の要だ。その言葉にルルーシュは頷く。 「なら、誰がルルーシュと一緒に乗るんだい?」 不意に背後から声が響いてくる。そこには誰もいなかったことをルルーシュは知っている。だが、相手が相手だから気にすることではないと言うこともわかっていた。 「V.V.様?」 「あら。何かあったの?」 また、シャルルが浮気でもしたのか。そう言うマリアンヌの微笑みが微妙に怖い。 「違うよ。久々に君達の顔が見たくなっただけ」 ここにナナリーがいないのが、少し残念……と彼は付け加える。 「まぁ、仕方がないわね。これを貰ったら、帰るから……ついでにあの子の顔を見に行こうと思っているの。一緒に来る?」 微笑みを柔らかいものに変えながらマリアンヌが問いかけた。 「そうだね。ルルーシュがいいと言ってくれるなら、そうしようかな」 V.V.はそう言いながら視線を向けてくる。 「俺は構いません。ナナリーも喜びますし」 だから、いつでもどうぞ……と続けた。 「それはよかった」 ルルーシュの言葉にV.V.も嬉しそうに微笑む。しかし、その笑みは直ぐに消えた。 「で、誰がルルーシュと一緒に乗るの?」 「……C.C.?」 ルルーシュの言葉に、スザクは思わずそう聞き返してしまった。 「あぁ。そうだ」 どこか忌々しげな表情でルルーシュは頷く。 「あの人、ナイトメアフレームの操縦なんてできたんだ」 それはどうしてなのだろうか。そうは思うが、下手に触れない方がいいような気もする。だから、とスザクはこういった。 しかし、それは失敗だったらしい。 「母さんが目の前で教えていたよ」 ただ一度の説明で覚えてしまったと言うことか。しかし、それならばルルーシュでも可能だろう。 問題なのは、マリアンヌを納得させるだけの動きをしたと言うことなのかもしれない。 「ルルーシュの一番の武器は、その頭の中身だろう?」 逆に言えば、脳内でイメージしたあれこれが運動神経にうまく伝わらないと言うことだ。だから、どれだけ優れた作戦を考えても、彼自身が実行することが出来ない。 「作戦を立てるのは君。実行をするのは僕。それでいいじゃん」 そのために自分がここにいるのだから。そう言ってスザクは笑う。 「それでは意味がないだろうが!」 しかし、ルルーシュには納得できないらしい。 「キングが先頭に立つからこそ、人々は付いてくるんだろうが!」 彼がそう考えるのは、間違いなくマリアンヌやコーネリアの影響だろう。 聞いた話では、シュナイゼルは本部に陣取って指示を出しているらしい。ルルーシュ的にはそちらの方がいいような気もするが、本人が納得しないのだろう。 「ラクシャータがあれを見て、システムを改良できないかと言い出しているが……どうだろうな」 改良できれば、一人乗りのナイトメアフレームが出来るだろうが。彼はそう続ける。 「ドルイドシステムだっけ?」 「あぁ」 「……何か、ものすごく頭がよくないと使えないシステムだ、ってロイドさんが言っていたっけ」 だが、彼にしてみればそれよりももっと気にかかるシステムが組み込まれているようだが、とスザクは心の中で呟く。 「その場で計算するからな。だが、それほど厄介なシステムではないぞ。それよりも、ハドロン砲の方が厄介だと思うが」 あれの照準を決める計算は慣れていないから、と呟くように告げる。 「ハドロン砲?」 そう言えば、とスザクは首をひねった。 「それがらみでロイドさんの機嫌が悪かったような……」 おかげでやらなくても言いテストをさせられたんだけど、とスザクは続ける。 「あぁ。ロイドが煮詰まっていた部分をラクシャータが完成させたからだろう」 彼女は彼女で、研究していた飛行ユニットを先に完成させられたと言って荒れていたが……とルルーシュは苦笑を浮かべた。 「そうなんだ」 結局、あの二人は似たもの同士と言うことか。そう呟いたときだ。不意に外に誰かの気配を感じてしまう。 「スザク?」 表情を引き締めた瞬間、ルルーシュが不審そうに問いかけてきた。 そんな彼に、唇に人差し指を当てることで静かにしてくれるように頼む。 「まったく……だから、弁当を作ってやると言っただろう?」 それをどう受け止めたのか。いきなり彼はこう告げた。 「だって……」 こう言い返しながら、スザクは音も立てずに立ち上がる。そして、滑るような動きでドアの所まで進んだ。そのまま一息にドアを開ける。 同時に、人影が室内に転がり込んできた。 それも一人ではない。 「……母さんにC.C.?」 「V.V.さんも」 団子になっているメンバーに、二人ともあきれたような声で呼びかける。 何故、彼等がここにいるのか。それが思いつかなかったのだ。 しかし、ルルーシュの脳裏ではその答えが見つかったらしい。 「何をしているんですか?」 だが、直ぐにルルーシュの声が氷点下まで下がった。 「何って……ねぇ」 「まぁ、青春の過ちという奴がないかどうか。気になってな」 「……クルルギが無体なマネをするとは思っていなかったけどね」 二人には逆らえなかった、と言われて納得してしまうのは、その体格差のせいだろう。 同時にスザクには彼等が何を心配しているのかわかってしまった。 「青春の過ち?」 だが、ルルーシュはそうではなかったらしい。なんのことだというように首をかしげている。 「……あらあら。ルルーシュったら」 本当に困った子ね、とマリアンヌが笑う。 「教育方法、間違えちゃったかしら、母さん」 ルルーシュの年齢であれば、普通わかるものだが……と彼女は首をかしげた。 「そうなのか?」 彼女の言葉に、ルルーシュは確認をするようにスザクに問いかけてくる。 「……まぁ……そう、かな?」 でも、人それぞれだから……と何故か逃げ腰になりながら言葉を返す。ここで下手に追及されてはいけない。そうなったら、ものすごくまずいことになるのではないか。そんな予感があるのだ。 「僕はほら、軍にいたから」 だから、いやでも覚える立場にあったのだ……と苦笑と共に付け加える。 しかし、ルルーシュはそれで納得をしてくれない。 「……スザク」 目をすがめながらこう問いかけてきた。 「ついでに言えば、そう言うことは身内の男性から教わるもんなんだよ、普通は」 自分はそんな人がいないから、軍で教えて貰ったのだ……とわざとらしく付け加える。 「……身内の、男性?」 そう言いながら、ルルーシュの視線がV.V.へと移動した。 「僕はダメだよ。普通じゃないから」 普通ではないことならば、いくらでも教えて上げられるけど……と彼は続ける。 「だからといって、シャルルじゃないしね」 教えてもらいにいったら、それこそ帰ってこられないわよ、と意味ありげな笑みと共にマリアンヌが告げた。 「そうだな。だからといって、シュナイゼルもやめておけ」 彼に聞くくらいなら、ビスマルクを呼び出した方が色々と安全だ。C.C.も頷く。 「……訳がわからない」 ルルーシュはそう言ってため息を吐いた。 「知らなくても、とりあえず困らないよ。それに……そうだね。ルルーシュの場合、学校で友達に聞けばいいんじゃないかな」 とりあえず、自分に火の粉が飛んでこなければそれでいい。スザクは本気でそう考える。出なければ、本気でやばいことになりかねないのだ。 「……リヴァルか、それなら」 どうやら、彼は彼で結論を出したらしい。明日になればまた問題がぶり返すかもしれないが、その前に別の問題がわき上がってくるような気もする。そう考えてスザクが胸をなで下ろしたときだ。 「あら、残念」 一連の流れを見てマリアンヌがこう呟く。 「母さん?」 いったい、自分に何を期待していたのか。内容次第では、今後の食事に影響が出ると思ってください……とルルーシュが詰め寄っていく。しかし、その程度で焦るような相手ではない。 「息子の恋ばなで盛り上がりたかっただけよ」 コロコロと笑い声を漏らしながら言い返す彼女に勝てる人間なんているのだろうか。そう思わすにはいられないスザクだった。 終
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