この光景はなかなか気に入った。目の前にあの蛍光グリーンの髪の毛が見えなければ、もっと気にいるだろうに。そんなことまで考えてしまう。 「……しかし、いつの間にあんなものを作っていたんだ?」 ブリタニアのものとは違う、どこか無骨なシルエットのナイトメアフレームを見つめながらルルーシュは呟く。 「研究だけなら、七年前から、だろうな」 ブリタニアが日本を征服したあの時からだろう、とC.C.が言い返してくる。 「あの光景は衝撃的だったらしいからな」 それでも、と彼女は笑う。 「あそこにマリアンヌのガニメデがなかったことは、連中にとって救いなのかもしれないぞ」 彼女が乗ったナイトメアフレームの動きを見れば、絶対に、ブリタニアに手出ししようとは思わないだろう。それどころか、自分たちの身を守るためにどのような行動を取ったか。 「……その方が色々と楽だったかもしれないな」 少なくとも、中華連邦のバカどもがよからぬことを考えなかったのではないか。C.C.はそう言う。 「だが、C.C.。それには思い切り矛盾があるぞ」 「……矛盾?」 どこがだ、と彼女は問いかけてくる。 「そもそも、母さんがブリタニアにいたら、日本は征服されなかったはずだぞ」 余計な噂を流したバカがいたから、シャルルのたがが外れたのではないか。 「そう言えば……そうだったな」 ルルーシュ達がブリタニアにいたら、日本はまだ《日本》と呼ばれていたかもしれない。 だが、彼等が日本に来たのは、ナナリーがテロリストに襲われたからだ。そして、それに対するシャルルの言動がお粗末すぎてマリアンヌがきれたからだといっていい。 「煎じ詰めれば、シャルルのバカが悪い、と言うことだな」 まったく、あれは子供の頃からまったく変わらない……とC.C.はため息を吐く。 「……本当に。たった七年前のこと何も、もう忘れたとは……さすが高齢者だよな」 ぼそっとルルーシュはこう呟くように口にした。 「何だと?」 今、何と言った? とC.C.が地を這うような声で問いかけてくる。 「父上やV.V.様より年上なんだろう? だから、高齢者、なのではないか?」 桐原がそう言われていたぞ、とルルーシュは言い返す。 「……女に向かって年齢に関わる言葉を言ってはいけないと教わらなかったのか? この童貞坊や」 流石にイヤミだとわかったのだろう。C.C.が即座にこう言い返してくる。 「誰が、童貞坊やだ」 「お前のことに決まっているだろう!」 相手もいないくせに、と笑われた。 「……そりゃ、お前やカレン達、何よりも母さんを見ていると……女性に対する夢はなくなるな」 現実を見せつけられて、とため息混じりに言い返す。 「……あぁ……それは、その……悪かったな」 珍しくもC.C.が謝罪の言葉を口にする。 「だから、また、ピザを作れ」 いったい、何が『だから』なのか。 「……ピザ、だと?」 自分の聞き間違いだろうか。確かに、彼女は何故かピザに並々ならぬ執着を見せているが、と悩む。 「そう、ピザだ。宅配のピザは全メニューを制覇してしまったからな。久々にお前の手作りのを食べたい」 操縦をしてやっているのだ。その位は当然だろう……と彼女は主張してきた。 「……ピザぐらい、頼まれれば作ってはやるが……」 しかし、とルルーシュは続ける。 「それなりのことをしてからだ」 そろそろマリアンヌが何か言ってくる頃だろうか。それともスザクからの合図か。 「……人使いの荒い奴だ」 C.C.のあきれたような声を聞きながら、ルルーシュは周囲の様子を確認する。そう言う意味では、空を飛べるというこの機体に勝るものはないのかもしれない。 もちろん、空を飛べる飛行艇のようなものはきちんと存在している。だが、機動性と言った点ではやはりナイトメアフレーム――と言っても他の機体よりも二回り近く大きいが――にかなうものはないのではないか。 だが、その結果、見たくないものも見えてしまう。 「何故、ブリタニア軍が動いていない?」 スザクは既に突入をしている。それどころか、そろそろエナジー・フィラーがきれる頃ではないか。 「……確か、今回、来ているのはクラウディオとデヴィットだったか」 彼等に指示を出さなければ。そう思いながら回線を開く。 「私だ」 そのまま、こう呼びかける。 『申し訳ありません。どうやら、こちらの動きを読まれていたようです』 現在、応戦中だ……とクラウディオが即座に言葉を返してくる。 「無事なのか?」 おそらく、奇襲を受けたのだろう。そう判断をして問いかける。必要であれば、黒の騎士団から援軍を送らなければいけないだろう。 『こちらは。ただ、クルルギのフォローにいけるかどうか……』 「かまわん。それはこちらでなんとかする。お前達は、目の前の敵を撃破することだけを考えろ」 そう命じながら、ルルーシュは脳内でこれからの打開策を何パターンも考えていく。その中で一番被害が少なく、迅速に相手をたたきのめせるものと言えば、やはり、マリアンヌ達に動いて貰うことか。 結論を出すと、ルルーシュは即座にマリアンヌへと回線をつなぐ。 『どうしたの?』 「伏兵です。ブリタニア側は、それで動けません。フォローをお願いしても構いませんか?」 適当に蹴散らしてくれ、と言外に付け加える。 『それはいけれど、スザク君の方はどうするの?』 「エナジー・フィラーの交換でしたら、ガウェインで出来ます」 C.C.にはピザの分、しっかりと働いて貰いましょう……と笑った。 『そう言うこと。C.C.、お願いね』 マリアンヌは納得したらしい。すぐに言葉を返してくる。 「わかっている。うまいピザのためだ。我慢してやろう」 代わりに、三種類は食べさせろよ……と彼女は続けた。 「……無事に終わったらな」 「任せておけ。私はC.C.だからな」 だから何なんだ。そう問いかけようとした瞬間、彼女は遠慮なくガウェインを動かしてくれる。予想していなかった衝撃に、ルルーシュはシートからずり落ちてしまった。 「……そろそろまずいな……」 表示されているエナジー・フィラーの残量を確認しながらスザクはこう呟く。 「どうしようか」 ルルーシュ達が自分を見殺しにするはずがない。それはわかっていても、この状況は心臓によくない。 そう考えたその瞬間だ。 「……えっ?」 背後からいきなり熱源が近づいてくる。それはランスロットをかすめるようにして前にいた敵を消滅させた。 『……冗談みたいな威力だな……』 次の瞬間、複雑なものを滲ませた声が耳に届く。同時に、じみなのか派手なのかわからないカラーリングの機体が視界の中に飛び込んできた。 「ルルーシュ?」 しかし、何故彼がここに……と思う。 『あちらにもそれなりに出来る奴がいたらしい。別働隊が奇襲を受けた』 今、黒の騎士団が救援に向かっている。だから、心配はいらない。そう彼は言葉を重ねる。 『ただ、問題なのは……』 「こちらの方だね」 彼等の支援はあてにできない。つまり、自力でなんとかしなければいけないと言うことか……とスザクは唇を噛む。 「問題は、エナジー・フィラーの残量か」 どれだけ保つだろうか、と彼は呟く。 『バカか、お前は』 そんな彼の耳に、C.C.のあきれたような声が届いた。 『何のために、私たちが来たと思っているんだ?』 さらに彼女はこう付け加える。 『予備のエナジー・フィラーを持ってきたからな。交換をする』 いったい何を言いたいのかわからずに困っていれば、ルルーシュが苦笑と共にこう告げた。 『そうすれば、大丈夫だな?』 「もちろん」 一番の問題がそれだったのだ。ランスロットが思い通りに動くなら、問題はない。スザクはそう言い返す。 『では、さっさと終わらせてしまえ』 ルルーシュの手作りのピザが食べたいのだ。そう言うC.C.に、あきれるしかない。だが、同時に《ルルーシュの手作り》の料理というのはうらやましいと思ってしまう。 『そうすれば、ルルーシュの手料理が待っているだろう?』 スザクの内心を読み取ったかのようにC.C.がこういった。 『当然のことだろう、それは』 スザクは一緒に暮らしている。だから、こう言うときには彼の好物を作ってテーブルに並べるのは当然のことだ。ルルーシュは彼女に向かってこう言い返している。 『愚問だったな。まったく、新婚家庭は、これだから……』 ため息混じりに計れた言葉に、本気で思考がストップした。 『新婚家庭とは何だ、新婚家庭とは!』 ルルーシュがそう言ってC.C.に噛みついている。しかし、考えて見ればそう言われても仕方がない状況ではないか。改めてそうのことに気付く。 「……何か、嬉しいかも……」 ぼそっとそう呟いた。 『スザク?』 それが耳に届いたのか。ルルーシュが少し怒ったような声音で問いかけてくる。 「ともかく、澤崎が逃げないうちに捕まえないと」 慌ててスザクはこう言い返す。そのまま、ランスロットを発進させる。 『……お前は……まぁ、いい。俺の指示に従え』 「わかっているよ、ルルーシュ」 とりあえず、ごまかせたかな。そう思いながらスザクは彼の次の言葉を待っていた。 一時間も経たないうちに、スザクが澤崎と中華連邦の将軍を確保して、今回の作戦は終わった。 とりあえず、マリアンヌの暴走がなかっただけマシだろうか……とルルーシュは本気で考える。 「……もっとも、それも澤崎達の証言次第だろうな」 おそらく、彼女は今回の作戦を読んでいたのが誰か。それを知りたがるだろう。 その結果、どうなるか。そんなもの考えたくもない。ルルーシュは心の中でそう呟いていた。 終
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