ナナリーの爆弾発言に完全に気勢をそがれたと言っていいのだろうか。さらに疲れ切ったような表情でスザクはルルーシュの部屋にいた。
「……まったく……学園祭も近いというのに……」
 ため息とともにルルーシュがこう告げる。
「それを知ったら、絶対に母さんが押しかけてくるぞ」
 もちろん、C.C.もだ……と彼は続けた。
「……ルルーシュ」
 ふっとあることに気が付いたかというようにスザクが口を開く。
「何だ?」
「後二人ほど、押しかけてくるんじゃないかと……」
 ぼそっとそう付け加える。
「二人?」
 誰だ、といいかけてルルーシュは表情を強ばらせた。
「……まずい……下手をすると、本国からも押しかけて来かねない」
 コーネリアとユーフェミアに関しては、まだ妥協しよう。アッシュフォード学園は、一応、このエリアでも一二を争うほどの名門だ。だから、お忍びで総督が足を運んだとしてもおかしくはない。
 しかし、それが本国から有力な皇族が来るとなれば、話は変わってくる。
 自分やナナリーのことがばれる程度ならばまだいい。問題は《ゼロ》の正体がばれることではないか。
「……なんとかして、このエリアの中だけで収めないと……」
 ルルーシュはそう言って頭を抱える。
「そうだね」
 何か、ものすごく怖いことになるかも……とスザクも頷いて見せた。
「とりあえず、ナナリーに口止めだな」
 ユーフェミアに伝わるルートとしては彼女彼のそれが一番確率が高い。だから、とりあえずそこを押さえておけばかなりマシなのではないか。
「もうばれているっていう可能性は?」
 スザクがぼそっと問いかけてくる。
「その時は……そこから本国へと伝わないようにするまでだ」
 手料理だろうと何だろうと、自分に出来ることなら取引条件として飲んでやろう。ルルーシュはため息とともにそうはき出す。
「なら、僕はこの前作ってもらった日本の……天ぷらとかいうフライが食べたいな」
 それでシャルルの足止めをして上げよう、と背後から声が響いてくる。
「……V.V.さん?」
 慌てたようにスザクが声をかけた。
「自分がいけないとわかっていれば、他の誰にも行かせないからね、シャルルは」
 本当にそう言うところは昔から変わっていない。そう言って笑えるのは彼とC.C.だけだろう。
「ご希望とあればいくらでも作りますけど……他に何かご用があったのでは?」
 たんに顔を見に来てくれたのだとしても嬉しいが、とルルーシュは彼に問いかける。
「嚮団に行く途中だったんだけどね。何か、会いたくなったから」
 でも、タイミングがよかったみたいだね……と彼は笑う。
「あっちはいつでもいいけど、君の方は期間が決まっているんだろう?」
 なら、優先するのはどちらか、考えなくても決まっている。そう言われて、ルルーシュは苦笑を返す。
「あなたも、俺たちに甘いですよ」
 そのまま、こう告げる。
「当たり前だよ。僕はシャルルのお兄さんで、君達の伯父さんだもの」
 小さな頃から面倒を見てきたのは、ルルーシュとナナリーだけだ。そう言って彼は笑う。
「だから、うんと甘やかしてもいいんだよ」
 そう言いながら、彼は空いている椅子に腰を下ろす。
「……日本茶でいいですか?」
 それとも、紅茶がいいか。ルルーシュはそう問いかける。
「日本茶でいいよ。それと、この前食べた、ようかん? だったか。あれがあったら欲しいな」
「わかりました」
 言葉とともに腰を上げる。
「ルルーシュ、僕も」
 即座にスザクが便乗をしてきた。
「わかった」
 仕方がないな。そう思いながらキッチンへと向かった。

 病院に行っていたナナリーがもどってきたのは、夕食の時間になる頃だった。
「……ごめんなさい、お兄さま……私、ユフィお姉様に学園祭のことを教えてしまいました」
 学園祭の話題が出た瞬間、ナナリーがこう言ってくる。
「……ナナリー?」
 本当なのか、と思わずルルーシュが聞き返していた。
 そう言えば、前回も爆弾を投下してくれたのは彼女だった。そう考えれば、今回のことも偶然なのか、それとも故意なのか、と悩みたくなる気持ちもわかる……とスザクは心の中で呟いた。
「人が多いときであれば、お姉様も見つからずにおいでになれるのではないかと……」
 と言うことは故意なのか、とスザクは頭を抱えたくなる。
「でも、ナナリー。警備はどうするつもりなんだい?」
 絶句しているルルーシュを不憫に思ったのか。V.V.がそう問いかけた。
「警備、ですか?」
「そうだよ。君やルルーシュも、アッシュフォードやクルルギがいるからここで自由にしていられるけど、ユーフェミアはそういうわけにはいかないからね」
 そして、彼女は二人と違って顔を知られている。だから、彼女の姿を見た瞬間、よからぬことを考えるものがいるかもしれない、と彼は続けた。
「一応、ダールトン将軍にもお伝えしておきましたけど」
 今日、たまたま病院であったから……とナナリーは首をかしげる。
「でも、確かに警備のことまでは考えていませんでした。ごめんなさい、お兄さま」
 ルルーシュの手間を増やすようなことをしてしまった、と彼女は素直に口にした。
「ダールトンが知っているなら、多分、コーネリアへと伝わるだろうけど……」
「コゥ姉上がどう出るか、ですね」
 止めてくれれば一番いい。そうでなかったとしても、こちらの運営に関わらないよう、手を打ってくれれば妥協できる。
 しかし、その中心にいるのがユーフェミアなのだ。
 彼女が大人しくしていてくれるとは思えない。
「……ナナリー」
 ため息とともにルルーシュは口を開く。
「最悪、ブリタニアに帰ることになるかもしれない。覚悟だけはしておくように」
 今回のことでシャルルがどう動くか。
 いや、彼が動かなくても周囲の者達が勝手にあれこれ騒ぎかねない。だから、と言うルルーシュにスザクも頬を引きつらせる。
「その時は、僕が君達を連れて逃げるから」
 そのまま、こう言った。
「スザク……」
「僕だけで不安なら、マリアンヌさんと合流すれば、何とかなるよ」
 彼女もそういう事情であれば「ダメ」とは言わないだろう。
「まぁ。その時はナナリーだけ本国に帰してもいいかもね」
 さらにV.V.がこう言ってくる。
「少なくとも、そうすればみなの不安は、少しは解消されるかな?」
 ナナリーがいる以上、マリアンヌとルルーシュがブリタニアに反旗を翻すはずがないと。ついでに、シャルルの機嫌もよくなるはずだ。彼はそうも付け加えた。
「まぁ、マリアンヌと相談をしないといけないけどね」
 でも、こんなことが続くようならマリアンヌも認めるんじゃないかな? と言われて、初めてナナリーの表情が強ばった。
「私、そんなにしてはいけないことをしてしまったのでしょうか」
 そのまま、ルルーシュに問いかける。
「ユフィと仲良くするなとは言わない。でも、今回は俺だけではなく、他の生徒達にも影響が出かねないからな」
 そこまで考えて物事を行わなければいけない。ルルーシュの言葉にナナリーはうつむく。
「申し訳、ありませんでした……」
 自分の配慮が足りなかった、と彼女はそのまま口にする。
「わかればいい。今回のことは何とかするから」
 自分がするはずだったピザ作りをスザクに任せればいいか、とルルーシュは続けた。
「僕?」
 何で、とスザクは思わず聞き返してしまう。
「……ピザの台をガニメデで作る役目だ。ナイトメアフレームの操縦なら俺よりもお前の方が専門だろう?」
 世界一のピザを作るというのが毎年恒例になっている。だから頑張れ、と彼は続けた。
「それはいいけど……僕はアッシュフォード学園の生徒じゃないよ?」
「そのあたりはどうとでもする。必要なら、転入手続きを取ってもいいな」
 いや、いっそ転入してしまえ……とルルーシュは言い切った。
「それはいいです。そうすれば、お時間があるときは一緒に登校できますね」
 ナナリーもそれは嬉しかったのか微笑みながら頷いてみせる。
「保証人なら、僕がなってあげるよ」
 さらにV.V.が口を挟んできた。
「何。シャルルにさせればいい。それがダメならば……そうだな。ヴァルトシュタインあたりがいいだろうな」
 それだけではなくC.C.までもがと言うところで、誰もが反射的に声がした方へ顔を向けてしまった。そうすれば、楽しげな表情の彼女が確認できる。
「だから、せいぜい大きなピザを作れ」
 そうしたら、思い切り食べられるな……とC.C.は笑う。やはり結論はそれなのか、とスザクは心の中で呟く。
「残念だが、一人一切れと決まっている」
 規則は変えられない、といい気ルルーシュの言葉にC.C.の目が大きく見開かれた。
「今すぐ、その規則を変えろ!」
 その表情のまま、彼女はこう叫ぶ。
「……夕食のリクエストは天ぷらでしたね」
 その言葉を無視してルルーシュはV.V.に問いかけている。
「ルルーシュ……僕、茶碗蒸しが食べたいんだけど」
 とっさにこうおねだりすれば、彼は小さく頷く。
「代わりに手伝え」
「もちろん」
 こうなったら、さっさと逃げ出す方がいい。それに、ルルーシュの手伝いをするのはいやではないし。そう思ってスザクは立ち上がる。
「ナナリー。向こうで髪を結ってあげるよ」
 V.V.はV.V.で楽しげな口調でそう言った。
「お願いします」
 それにナナリーも即答をする。
「私を無視するな!」
 ただ一人、C.C.だけが不満げに叫んでいた。もちろん、それに耳を貸す者は誰もいなかったが。





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10.02.22 up