「お前は、本当に何を考えているんだ?」 コーネリアは妹をにらみつけながら問いかける。 「だって、お姉様」 「お姉様ではない! ここは執務室だぞ」 即座にコーネリアはユーフェミアをしかりつけた。 「申し訳ありません、総督」 渋々といった様子で、彼女は謝罪の言葉を口にする。 「ですが、わたくしは間違ったことをしたとは思っておりません」 騎士を持てと言ったのはコーネリアではないか。そう彼女は続けた。 「だが、アッシュフォード学園の学生、と言ってしまったのはまずかったな」 アッシュフォードから正式に苦情が来た、とコーネリアは言い返す。マスコミが強引に敷地内に入り込んできているせいで、授業もままならないらしい。それだけではなく、数少ない自宅通学組の生徒の中には登校すら出来ないものも少なくないのだ。 「その責任はどう取るつもりだ?」 彼等にとって、授業を受けることは権利だ。その権利は皇族であろうとも奪うことは出来ない。 「……それは……」 そこまでは考えていなかったのだろう。ユーフェミアは直ぐに言葉を返してこなかった。本当に、思いつきだけで行動するな、と自分だけではなくルルーシュからも口を酸っぱくして言われているだろうに。ため息とともにそう心の中で付け加えた。 「それと、だ」 だが、それだけであれば、まだ、自分が手を貸せば何とかなるだろう――ただ一つ、ルルーシュの怒りをのぞけばの話だが――とは思う。 問題は、既に火の粉が本国へと飛び火していることだ。 「お前の騎士に、ルルーシュはもちろん、クルルギスザクとやらも指名することはシュナイゼル兄上が禁止されている」 「どうしてですか!」 即座に聞き返してきた、と言うことは、やはり彼女が考えていたのは二人の内どちらか、と言うことか。コーネリアは本気で頭痛がしてきた。 「どこに、皇族を騎士にする人間がいる」 そんなことが出来るのであれば、シュナイゼルやオデュッセウスが先に任命している。それに、とコーネリアは言葉を重ねた。 「非公式だが、クルルギは既にルルーシュの騎士だ。マリアンヌ様も認めておられる」 それとも、とユーフェミアをにらみつける。 「お前は、マリアンヌ様から許可を得られると思っているのか?」 皇帝であるシャルルよりも強い相手に、と付け加えた。 「そんなこと、わたくしは……」 「知らなかったとしても、あれがルルーシュやナナリーと共に暮らしている理由を考えれば想像が付くだろうが」 マリアンヌが、己が認めない相手をあの二人に近づけると思っているのか……と逆に聞き返す。 「……だって……スザクは……わたくしにも優しくしてくれましたわ」 「それは、お前がルルーシュの異母妹でナナリーの異母姉だからだろうが」 そして、マリアンヌが傍にいたのだ。女性に優しくするようにたたき込んだに決まっている。 「彼の優しさは、あくまでもあるじの大切な相手だからこそ向けられたもの、だろうな」 何よりも、とコーネリアはため息混じりに続けた。 「お前はルルーシュに恨まれた上に、ナナリーに嫌われる覚悟はあるのか?」 この問いかけに、彼女は完全に固まる。どうやら、その可能性は全然考えていなかったらしい。彼女らしいと言えば彼女らしいかもしれないが、言われる前に気付いて欲しかった。それもこれも、自分の教育が悪かったのだろうか、とコーネリアは悩む。 「それはいやですわ……でも、ルルーシュをわたくしの騎士にしないと……もっと困ったことになりかねません」 しかし、予想していなかった一言に自然と眉根がよる。 「どういうことだ?」 わかるように説明をしろ。そう問いかける。 「ギネヴィアお姉様が『ルルーシュを側近にする!』と息巻いておられるそうですわ」 クロヴィスから聞いた話だから、かなり信憑性が高いのではないか。しかも、ルルーシュを連れ戻すためなら手段を選ぶつもりはないらしい。そうも聞いている、と彼女は続けた。 「……あの方は……」 何を考えているのか。そう言いかけて、コーネリアはふっとあることを思い出す。 「確か……中東の方で失態をされたのだったな、姉上は」 それを、ルルーシュを連れ戻すことでごまかそうとしているのだろうか。 だとするならば、無駄だとしか言いようがない。ルルーシュがあの長姉の手の中に大人しく収まっているはずがないだろう。 何よりも、とコーネリアはため息を吐く。 「お前達がそんなことを考えていると知れば、あの方が黙っているはずがない」 と言うよりも、自分こそがルルーシュとナナリーを手元に置こうと動き出すのではないか。 「ですから、その前に……」 「だから、それは禁止だ。姉上のことはシュナイゼル兄上に任せておけ」 そして、二人の身柄についてはマリアンヌに……とコーネリアは続ける。 「でなければ、お尻を叩かれるだけではすまないぞ」 小さい頃、マリアンヌにされたように……と口にした瞬間、ユーフェミアの表情が強ばった。 「わたくし……もう、そんな子供では……」 ない、と彼女はその表情のまま口にする。 「それはマリアンヌ様に申し上げるのだな」 その前に、何とか彼女と連絡を取らなければいけないだろう。しかし、内容がないようであるために、ルルーシュに取り次がせるわけにはいかない。 さて、どうするべきか。 コーネリアはもうくせになっている胃薬を無意識のうちに探し始めていた。 そのころ、マリアンヌはマリアンヌであきれていた。 「何を考えているの、あの人は」 本気で可能だと思っているのだろうか。そう付け加える。 「まぁ、不可能じゃないわね。少なくとも、あの子の指揮官としての実力は私と同レベルだもの」 もっとも、ルルーシュは経験が足りない。だから、今ならばまだまだつけいることが可能だろう。しかし、彼が経験を積んだらどうなるか。それは未知数だといっていい。 そして、ルルーシュの身柄はスザクが確実に守ってくれるはず。 「二人をセットで動かしてくれるなら、十分務まるかもしれないわね」 「……ナイトメアフレームの方も、何とか目処が立ちましたわ」 そんな彼女に、ラクシャータがこう言ってくる。 「と言うよりも、完成させたらルルーシュさま以外、扱えないと思いますわぁ」 その言葉に興味を示したのはマリアンヌだけではない。 「どういうシステムなんだ?」 即座に朝比奈が問いかけている。 「ドルイドシステムの応用よぉ。基本動作はマリアンヌ様を含めたメンバーの戦闘データーを覚えさせるの。それを、必要に応じて組み合わせるだけ」 もっとも、それをとっさに判断しなければいけないから、かなり頭の回転が速くなければ扱えないだろうが。 「あんたのように、本能で戦う人間には、絶対無理ねぇ」 そう言う意味では、マリアンヌでも操縦できないだろう。 「まぁ、あの子の場合、頭の中のイメージと実際の動きが連動しないのが問題だしね」 それでも、一般兵程度には操縦できるのだが……とマリアンヌは苦笑を浮かべる。 「傍にいるのがスザク君だし、後はあなた達じゃね」 目だけは肥えるのよね、と彼女は続けた。 「玉城あたりなら、それで満足しそうなものだけど……本当に、いいのか悪いのか」 それは、ルルーシュ本人でなければわからないことだ。そう言って彼女はため息を吐く。 「とりあえず、カレンを呼び出してちょうだい」 こうなれば、しばらく、彼女もルルーシュの側から離さない方がいいだろう。 「わかりました」 即座に千葉が腰を浮かせる。 「あの子がいなくなると、ご飯が哀しいことになるわ」 あの味になれてしまった今となっては、ちょっと辛いかもしれない。そう呟く彼女に、誰も同意の言葉を返してはくれなかった。 スザクが預かってきた手紙の内容を確認した瞬間、ルルーシュは本気で頭を抱えてしまった。 「何を考えているんだ!」 そのまま、こうはき出す。 「……ルルーシュ?」 「お兄さま……」 そんな彼に向かって、二人が不安そうに声をかけてきた。 「俺は父上への貢ぎ物か!」 自分の失態のつけを、自分に押しつけようとするな! と彼は続ける。 「……どなたですの、そんなお馬鹿なことを考えられたのは」 彼の言葉から状況を推測したのだろう。ナナリーが問いかけてくる。 「シュナイゼルお兄さまではありませんわよね。あの方がそのような失態をされるはずがありませんし」 そのまま、彼女はそう続けた。 「コーネリア殿下でもないだろうね」 かといって、ユーフェミアのあのセリフでもないだろう、とスザクも言い返している。 「クロヴィスお兄さまなら、お兄さまに打開策をおたずねになるでしょうし」 そうなると、誰だろうか。 「僕に聞かれても……」 そもそも、他の皇族を知らないし、とスザクは言い返している。 「……ギネヴィア姉上だ」 忌々しそうにルルーシュはその名を口にした。 「とりあえず、シュナイゼル兄上とオデュッセウス兄上が手を回していてくださるそうだが……」 状況によっては、一時、身を隠さなければいけないだろう。そう続ける。 「と言うことは、黒の騎士団?」 なら、会いに行けるけど……とスザクは口にした。 「可能性としてはそこだろうが……最悪、嚮団、と言うことになるだろうな」 どちらにしても、これから相談をしてから決めなければいけないだろう、とルルーシュはため息とともに告げる。 「そうだね」 でも、せっかく再会できたのに……とスザクは呟く。 「大丈夫だ。特派はシュナイゼル兄上の管轄だからな。条件次第では一緒に行く許可が出る」 全てはギネヴィアの出方次第だ、とルルーシュは口にした。 「あちらにも情報が回っているはずだから……きっと、カレンが何か伝言を預かってくるだろう」 それまでは、下手に動かない方がいいのではないか。そう続ける。 「確かに。下手に動いては大事になるかもしれませんわ」 「ルルーシュが一番だと思う行動を取ったらいいよ」 二人はそう言ってくれた。 「でも、警戒だけはしておくね」 スザクのこの言葉にルルーシュは頷く。 「では、食事にするか。腹が減っては戦は出来ぬ、と言うしな」 何が起きるにしても、体力だけは確保しておかないと。そう付け加えながら、ルルーシュは立ち上がった。 しかし、本国ではもっと厄介な相手が動き出していたことを、まだ誰も知らない。 終
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