スザクとナナリーと共に総督府に呼び出された。そのことに関しては、不本意だが妥協するしかない。 しかし、ここで彼の顔を見るとは思わなかった……と言うのがルルーシュの本音だった。 「何故、お前が?」 ため息とともにそう問いかける。 「ナイト・オブ・ワンがわざわざ来ることではないだろう?」 ビスマルク、と付け加えれば彼は苦笑を浮かべた。 「他の者達ではお二人に逃げられてしまいます故」 流石に、それではシャルルがかわいそうだ。彼はそう言ってくる。 「お父様が『かわいそう』なのですか?」 ナナリーが意味がわからないと言って首をかしげた。この言葉にビスマルクが少しほっとしたような表情を作る。あるいは、彼女から説得が出来るかもしれない、と思ったのだろう。 「お兄さま方もお姉様方もいらっしゃるでしょう?」 しかし、そううまくいくはずがない。ナナリーはさらりとこう言って彼の動きを止めた。 「……ですが、陛下が傍にいて欲しいと思っておられるのはお二人ですから」 それでも、さすがはナイト・オブ・ワンと言うべきか。即座に立ち直ってこう言ってきた。 「あら。お父様がお側にいて欲しいのは、お母様でしょう?」 しかし、そんな彼の言葉を、ナナリーは一言で切って捨てる。 「ナナリー様!」 まさか、彼女にまでこう言われるとは思っていなかったのだろう。ビスマルクは呆然としている。 「ナナリー。ヴァルトシュタイン卿が悪いわけではないだろう?」 流石に気の毒になってきたのか。コーネリアが苦笑と共に口を挟んできた。 「わかっておりますが……ですが、私はせめて卒業までこのエリアで暮らしたかったと思っておりますから」 とくに、今はコーネリアが傍にいてくれる。だから、と彼女は言う。 「そうだな。俺もせめてその位まではこのエリアにいる予定で計画を立てていたのだが……」 おそらく、マリアンヌもそうだろう。それなのに、とルルーシュはため息を吐く。 「とんでもない状況で発表してくれたものだな」 おかげで自分たちはもちろん、スザクもものすごい迷惑をかけられている。そう続けた。 「ですが……お二人が『皇族である』と発表されるよりはよろしいかと」 それだけはオデュッセウスやシュナイゼル、そして自分の三人がかりで止めたのだ。ビスマルクは淡々とした口調でそう告げる。しかし、彼の額に冷や汗が浮かんでいるようにも見えた。 「それに関してだけは感謝しておく」 でなければ、とルルーシュは口元に笑みを浮かべる。 「父上の髪は、今頃丸刈りになっていただろうからな」 もっとも、とさらに言葉を続けた。 「俺がしなくても、別の誰かがするかもしれないが」 「そうですね。お母様とかC.C.さんとかが何かされそうです」 ルルーシュの言葉にナナリーも大きく頷く。 「……今回だけは、V.V.様もやりそうじゃない?」 さらにスザクがとどめを刺すようにこういった。 「陛下のお味方は、誰もいない……と?」 ため息混じりにビスマルクは問いかけとも言えないセリフを口にする。 「今回だけは、否定してやれないな」 最後に船から突き落としたのは、意外なことにコーネリアだった。彼女もまた、今回のことに何か思うことがあったらしい。 「とりあえず、そちらに関しては関与しないからな、俺は」 最初にしっかりと釘を刺しておこう。そう思ってルルーシュはこういった。 「わかっております」 ビスマルクがそう言って頷く。 「とりあえず、話だけは聞いてやる」 そんな彼に向かってこういった瞬間だ。政庁内に非常警報が鳴り響く。 「何だ?」 何が起こったのか。コーネリアのこの言葉に、直ぐに答えられるものはこの場にいなかった。 そのころ、騎士団では騎士団で一騒動持ち上がっていた。 「ゼロ!」 なんの前触れもなくカレンが飛び込んでくる。その瞬間、その場にいた者達は反射的に それも仕方はないだろう。 彼女は今、仮面を外していたのだ。しかし、この場にいたのはマリアンヌがゼロだと知っているものばかりだから何の支障もない。誰もがそう考えていたことも否定はしない。 しかし、普段は礼儀正しい彼女が、なんの前触れもなく飛び込んでくるとは、いったいどうしたのか……と思う。 「……えっ?」 だが、彼女の思考は今見た光景で閉められてしまったようだ。 「ルルーシュの女装? でも、何か違うし……」 そもそも、ルルーシュは今、テレビに……と彼女はぶつぶつと呟いている。 「千葉。とりあえず、ドアにロックをかけて」 それから、朝比奈はテレビをつけて……とマリアンヌは指示を出す。 「藤堂」 「承知」 最後に一番信頼できると思う相手に呼びかければ、彼は即座にカレンの元へと歩み寄ってくれた。同時に、桐原も頷いている。ならば、フォローは任せても大丈夫だろう。 「今日、ルルーシュ様達は……」 マリアンヌの隣に座っていた神楽耶が心配そうに問いかけてくる。 「政庁に行っているはずよ。まぁ、コーネリアもビスマルクもいるし、何よりもスザク君が側に着いているから、あの子達は心配いらないと思うけど……」 そう言いながらも、彼女も視線をテレビのモニターへと移した。 「……ルルーシュのお母さん! お姉さんじゃないんですか?」 若いのに、とカレンがまた叫ぶ。 「本当にお母さんよ。あの子を産んだときが若かったから」 うふふ、と笑いを漏らしながら言い返す。 「それで、何があった?」 教えてくれ? とゼロの口調を作りながら問いかけた。 「あ、はい」 それが彼女の意識を現実に戻したのか。背筋を伸ばしながらカレンは口を開く。 「なんでも、政庁で反乱が起きたらしくて……それで、コーネリアやユーフェミアと一緒にいるルルーシュ達が映ったんです」 でも、何故……と首をかしげる。 「あぁ。首謀者はこいつのようですね」 タイミングがいいのか悪いのか。朝比奈がどうやら目的のチャンネルを見つけ出したらしい。こう言ってくる。 「……あらあら。よっぽど、私たちのことが嫌いなようね、こいつ」 それとも、嫌いなのはこいつではなく、こいつの背後にいるバカかしら……とマリアンヌは口の端を持ち上げた。 「ご存じですの?」 神楽耶は神楽耶で相手をにらみつけながら問いかけてくる。 「シャルルの何番目のお后だったかしら。その後見の貴族の一族の一人よ」 もっとも、相手は子供を産んでいないから、離宮も何も与えられていなかったはず。だから、余計に恨まれているのかもしれない。マリアンヌはそう答える。 「しかし、このエリアの総督の座を欲しがっていると言うことは……何か感づいているのかしら」 こちらの計画に、と首をかしげた。 「計画とは、いったい何なのですか、ゼロ! それ以前に、あなたは何者なの!!」 カレンがそう叫ぶ。 「とりあえず、お座りなさい」 静かな声で告げたのは神楽耶だ。 「神楽耶様……」 「あなたへの説明はわたくしがいたします。ゼロは、あちらへの対処をしてくださいませ」 彼女にこう言われてはカレンも逆らえないのだろう。言われたとおり、大人しく椅子へと腰を下ろす。そんな彼女に向かって、神楽耶はゆっくりと事情を説明し始めた。 「つまり……」 あまりのことに頭痛すら覚えているのだろうか。 「ゼロの本名は《マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア》で、あのロールケーキの第五后妃だったものの、愛想を尽かして家出中。ルルーシュとナナリーちゃんはその子供、と言うことでいいわけですか?」 でも、だったらなんで……と彼女は呟いている。 「ついでに言えば、マリアンヌ様とルルーシュ君の二人が立案、マリアンヌ様と中佐が実行というのが厳島の奇跡の真実だな」 二人の協力がなければ、日本はもっと酷い状況になっていただろう。仙波が苦笑と共に告げている。 「しかも、だ。そもそもの原因は、枢木元首相の横恋慕だからな。それに目がくらんで宣戦布告を考えたのも、あの人だ」 さらに朝比奈があきれたように吐き捨てる。 「私たちは、ただ、マリアンヌ様を尊敬して、その教えを受けていただけだしな」 もっとも、ルルーシュの手料理というのもかなりポイントが高かったは……と否定しないが。そう言う千葉に、カレンも思い切り頷いている。 「それだけは否定できません」 ルルーシュの手料理は絶品の一言しか出てこないから、と彼女は言葉を重ねた。 「でも、なら、どうして……」 「とりあえずは、このエリアを衛星エリアに昇格させるため、かしら」 そうすれば、自治権がかなり大きくなる。その間に各エリアを開放する法律を制定してしまえばいい。 「こちらが必要な部分だけを確保しておけばいいのだもの」 後は元々の持ち主に返せばいいだけだ。そのための根回しも進んでいる。マリアンヌはそう言って微笑む。 「ひょっとしたら、それがばれたのかしら」 それとも、シャルルがルルーシュを呼び戻そうとしているのが気に入らないのか。 「どちらにしても、あの男に総督になられては、意味がないわね」 こうなったら、自分が制圧をして、ついでにコーネリア達を解放したという功績を手に入れてしまおうか。そう言いながら首をかしげる。 「それがよろしいですわ」 神楽耶も即座に頷いて見せた。 「何と言っても、黒の騎士団は正義の味方ですもの」 そして、たとえブリタニアの貴族であろうと、人質を取って政庁を占拠している人間把握だ。それをたたきのめすのに理由がいるだろうか。神楽耶がそう言う。 「確かに、合法的にバカをたたきのめせるのは嬉しいわね」 開き直ったのか、カレンも頷く。 「なら、決まりね。皆を集めて」 マリアンヌの言葉が周囲に響いた。 同時に、その場にいた者達が動き出す。 こうして、ある意味ブリタニア史上最大の厄介ごとが幕を開けたのだった。 終
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