屋上庭園の豪華さに、ルルーシュはあきれたくなる。
「まったく……仕事もしないでこんなものを作っているから……」
 あのバカ兄は、とルルーシュは呟いてしまう。その間にも、隠れられそうな場所を探していたが。
「ともかく、信号弾をあげておけ」
 そうすれば、直ぐにマリアンヌなりスザクなりが迎えに来るだろう。C.C.がそう言う。
「……そうだな」
 間違いなく、スザクもマリアンヌも、出撃の準備は終えているはずだ。そして、今回のことはスザク経由で本国へと連絡が行っているだろう。
「そう言えば、何故、アーニャが?」
 タイミングよく助けに来られたのか、と問いかける。
「ヴァルトシュタイン卿と一緒に来た」
 きっとルルーシュがごねるから、と信号弾の準備をしながら彼女は言葉を返してきた。
「……ばれてますね、お兄さま」
 苦笑と共にナナリーがこういう。
「俺がごねたからと言って、何故、アーニャを?」
 アーニャのお願いでも聞けないことはあるぞ、とルルーシュは首をかしげる。
「拉致」
 油断するはずだから、とシャルルが言っていた。この言葉とともにアーニャが視線で信号弾をあげてもいいかどうかを問いかけてくる。
「そうか……あのロールケーキは、そんなことを言ったのか……」
 こうなったら、それなりに仕返しをしてやらなければいけない。そのためにも、ここを無事に脱出しなければいけないだろう。だから、とアーニャを見つめる。
「信号弾をあげろ。もっとも、その後で、連中がここに来るだろうが……」
「大丈夫。私がルル様達を守ってみせるから」
 そう言いながら、アーニャは信号弾を撃つ。
「後は、時間との戦いだな」
 恐らく、これを見てコーネリア達も行動を起こすだろう。連中がどちらを優先するか。そして、マリアンヌ達がどれだけの時間でここに来るか。それが今後を左右することになる。
「自分で手出しを出来ないのは、ちょっと辛いな」
 普段なら、兵の配置から関わっているのだ。だが、ここでは成り行きに任せなければいけないことが多すぎる。
「仕方がない。悔しければ、それなりの実力をつけろ」
 C.C.がそう言いながら剣を抜いた。
「なら、銃かライフルを用意しておいてくれればよかっただろう?」
 それだけはマリアンヌもほめてくれているのに、とルルーシュは言い返す。
「とりあえず、今、入手してやるよ、坊や」
 だから、そこで大人しくしていろ……とC.C.は笑う。
「勝手に言っていろ」
 あれこれ言いたいことはある。だが、ここで下手なことを言って彼女に機嫌を損ねられては困る、とルルーシュは口をつぐんだ。

 いきなり、政庁内が騒がしくなった。
「……ルルーシュか?」
 それとも、とコーネリアは呟く。だが、これが好機だ、と言うことも否定できない。いや、ここで何もしなかったらマリアンヌに何を言われるか。
「まぁ、いい。逃げ出すか」
 言葉とともに、靴に仕込んだナイフを取り出す。掌ほどの大きさしかないが、相手から武器を奪うための役には立つだろう。
 指先で、それがきちんと手入れされていることを確認してから、胸元の飾りボタンを一つ引きちぎる。そのまま、それをドアへと転がした。
 呼吸を二つ終えたところでドアだけではなく壁まで吹き飛ぶ。
「……予想以上の威力だな」
 もう少し威力を弱めないと色々と問題があるのではないか。だが、それを考えるのは後でいいだろう。今は、ここから逃げ出して自分の安全を確保する方が先決だ。
 そう考えながら、廊下へと出る。
 当然のように、そこには見張りの者がいた。しかし、コーネリアに意識を向けた瞬間、そのものは背後からの攻撃を受ける。
「……ギルフォード!」
 ほっとしたような表情と共にコーネリアは呼びかけた。
「遅くなってしまい、申し訳ありません、姫様」
 コーネリアが動くまではどこに捕らわれているのかがわからなかったのだ。彼はそう告げる。
「ヴァルトシュタイン卿もダールトン将軍も、既に脱出を果たし、味方の兵を掌握しております」
 ユーフェミア達の無事も確認した。彼はそう続けた。
「あの子達はどこに?」
 彼の手から愛用の剣を受け取りながら、コーネリアは問いかける。
「屋上の庭園に。アールストレイム卿が護衛として同行しておりますし、クルルギが救出に向かっているそうです」
 だから、彼等のことは心配いらないのではないか。そうギルフォードは付け加えた。
「そうか」
 ラウンズの一人が傍にいるのであれば、当面は心配はいらないはず。後は、自分たちが動いて敵の目を少しでも惹きつけるだけだ。
「ならば、ダールトン達に合流しよう」
 そして、このようなばかげた状況を作り出した者達を排除しなければいけない。
「ブリタニアがこの地を支配するための基盤を揺るがせるわけにはいかない」
 そんなことをすれば、マリアンヌが帰ってこなくなる。小声でそう付け加えてしまう。
「……それは、困りますね……」
 色々な意味で、とギルフォードが相づちを打つ。
「だから、だ。もし、このエリアを開放するとしても、それは陛下のご命令でなければならない」
 でなければ、いつまで経ってもこの国の人々にはブリタニア皇帝の悪い印象が残ってしまう。もちろん、エリアを開放したとしても、それが消えることはないだろう。だが、少しでもそれは和らぐかもしれないのだ。
「ついでに、本国でも大なたを振るって貰わないとな」
 今回のことを後押しした者達は全員、責を負って貰おう。
「もちろんです、姫様」
 その前に、とギルフォードが一歩前に出る。
「慮外者を成敗いたしましょう」
 そのまま、彼は剣を抜いた。

 こう言うときに、ナナリーの目が見えなくてよかったかもしれない。だが、逆に目が見えないからこそ、脳裏でどのようなイメージが浮かんでいるのか。それがわからない。
「大丈夫か、ナナリー」
 だから、とルルーシュは問いかける。
「はい」
 即座にナナリーが言葉を返してきた。しかし、どこか無理をしているようにも思える。
「ユフィ。すまないが……」
「わかっていますわ、ルルーシュ」
 大丈夫。任せておいて……とユーフェミアが微笑む。それにルルーシュは頷いて視線をアーニャ達へと戻した。そこでは、追っ手が二人の手によって次々とたたきのめされている。
「さすがは母さん仕込み……」
 二人もえぐい攻撃をしている、と心の中で呟く。
「しかし、そろそろ、誰か助けに来てもいい頃だが……」
 いったい何故、まだ誰も到着しないのだろうか。ルルーシュはそう考えながら天を仰いだ。

「だから、何で邪魔をするのかな、君は」
 そう言いながら、スザクは紅蓮弐式をにらみつける。
『それはこちらのセリフよ!』
 何でスザクが自分の行く手を遮ってくれるのか。回線越しにカレンはそう言ってくれた。
「決まっているだろう! この先にルルーシュ達がいるからだよ」
 彼らを守るのが自分の義務だ、とスザクは叫ぶ。
『ふうん』
 しかし、カレンの反応は予想していたものとは違った。
『ルルーシュとナナリーちゃんがいるんだ』
 なら、と何かを企んでいるような口調で彼女は続ける。
『二人を助けたらゼロにほめてもらえるわよね』
 ゼロの正体が何であろうとも、やっぱりほめてもらえるのは嬉しい。だから、と彼女は続ける。と言うことは、カレンにもゼロがマリアンヌだとばれたと言うことだろうか。しかし、どうやら、それを他の者に教えるつもりはないらしい。
 だが、とスザクは思う。
「だから、それは僕の役目だって」
 カレンには他の役目が与えられているのではないか。そう言い返す。
『なら、何で傍にいなかったのよ』
 一緒に行ったんでしょう、と言う言葉がスザクに突き刺さる。
「仕方ないだろう。ルルーシュがシュナイゼル殿下に連絡を取って、あれこれごまかして欲しいと伝えてくれといったんだから」
 でなければ、本国からまた軍隊が来かねない。その結果、ここが矯正エリアにおとされては意味がないだろう。そう言い返す。
『確かに、それは困るわね』
「わかったんなら、どけよ! 俺はルルーシュを助けに行かなきゃないんだ!」
 それが自分がここにいる唯一の理由だ! とスザクは続ける。
「君も大人しく言われたことをやらないと、マリアンヌさんのおしおきが待っているよ」
 はっきり言って、あの朝比奈と千葉がその一言を聞くだけで泣いて嫌がるほどの内容だ。自分の父だって……とスザクはため息混じりに口にした。
『そんなに凄いの?』
「凄いというか……父さんは、完全に解脱してたよ……」
 ほとんど別人のようになっていた、と怖いものを見たときのような口調で続ける。
「まぁ、そこまで極端なのは、うちの父さんぐらいだろうけどね」
 お尻を叩かれるくらいなら、まだましではないだろうか。もっとも、この年齢になるとかなり恥ずかしいものがあるが。
『……でも、ほめられるかもしれないし……』
 でなくても、ルルーシュの手料理にはありつけるかもしれない。だから、とカレンがランスロットの邪魔をしようとしたときだ。
『あなた達。じゃれてないでさっさとやるべきことをしなさい。でないと……わかっているわね?』
 絶妙のタイミングでマリアンヌが口を挟んでくる。後半のオクターブ下がった声の迫力が怖い。
「すみません! 今、直ぐに行きますから……」
 スザクはそう思いながら言い返す。
『ですが、ゼロ……』
 しかし、カレンはまだ納得できないようだ。
『カレン。あなたはあなたのせいで作戦が失敗してもいいと思っているの?』
 さらに続けられた言葉に、カレンは言葉に詰まっている。
『……申し訳ありません』
 だが、直ぐに本来の役目を思い出したようだ。それとも、マリアンヌが本気で怒っていると理解できたのだろうか。
「僕は、ルルーシュ達を助けてから、合流します」
 ともかく、今は一刻を争うから。そう判断して、スザクは屋上庭園へと向かった。





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