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「遅いぞ、スザク!」 彼の顔を見た瞬間、ルルーシュは思わずそう言ってしまう。 「うん、ごめん。ちょっと手違いがあって」 それに彼は申し訳なさそうな表情と共にこういった。 「それよりも、本当にここで待機でいいの?」 自分が、とスザクは問いかける。 「構わない。むしろ、ランスロットが動く方がまずい」 下手に動くと、マリアンヌの攻撃に巻き込まれるぞ……とルルーシュが言い返してきた。 「マリアンヌさん?」 「そうだ」 いきなり、C.C.が口を挟んでくる。 「あいつは今、一人でガウェインを操縦しているからな。ハドロン砲の照準が甘くなる可能性がある」 だからこそ、黒の騎士団は彼女の指示通りの行動しか許されていない。恐らく、コーネリア側も出撃した時点で指示が飛ぶだろう。 この彼女の言葉に、スザクは頬がひきつるような感覚に襲われる。 「それって……最悪、味方ごと撃ってしまうってこと?」 「普段はどちらかに集中しているから何とかなっているのだがな」 今回は、結構怒りまくっているから操作をミスする可能性は高い。そう言って、C.C.はため息を吐く。 「もっとも、あいつでもルルーシュとナナリーを傷つけるようなミスはしないだろうからな。そう言った意味で、ここは安全だ」 もっとも、シャルルならどうかはわからないが……と彼女はさりげなく付け加えた。 「そう言えば、遊説先でテロリストが襲ってきたとき、お姉様達はご無事だったけれども、お父様は髪の毛が少し短くなられたとか……」 聞いたことがあるが、とユーフェミアが首をかしげる。 「私も、お母様が馬鹿なことを言った貴族を追い出すために暴れられたときに、お父様の服も間違えて切ってしまったと聞いたことがあります」 首謀者とシャルル以外にそんな目にあった者はいなかったとも、とナナリーは付け加えた。 「……ルルーシュ?」 どういうこと、と思わず聞いてしまう。 「父上が母さんとケンカした後だ、全部」 そうすれば、ため息混じりにルルーシュがそう教えてくれる。 「……そう、何だ……」 この言葉に、苦笑を浮かべることしかできない。 「そう言うことだ」 まったく、夫婦げんかに周囲を巻き込むな。ルルーシュはさらに小声でこう付け加えた。 その時だ。 いきなり目の前で砲弾らしきものが爆発する。スザクは反射的にルルーシュを自分の体でかばった。 「お前は……かばうなら、ナナリーかユフィだろうが!」 腕の中でルルーシュが騒ぐ。 「だって、ルルーシュが一番危ないポジションにいるじゃない」 ナナリーもユーフェミアも、あの角度ならランスロットが盾になる。しかし、ルルーシュは違う。 「それに……僕が優先するのは、やっぱりルルーシュだから」 満面の笑みと共にスザクはそう続けた。 「お前な!」 そう言うことは女性に向かって言え! とルルーシュが怒鳴りつけてくる。 「何で?」 思わず、スザクはそう聞き返す。 「なんでって……お前、な……」 何と言えばいいのか、と珍しくルルーシュが悩んでいる。それに心の中でスザクは『勝った』と呟いてしまった。 「……その前に、お前ら」 ため息混じりにC.C.が声をかけてくる。 「痴話げんかは、状況を見てからにしろ」 しかし、その口から出た言葉は何なのか。 「いったい、痴話げんかとは何なんだ!」 あきれたようにルルーシュが言い返す。 「今、お前達がしていたようなことだ」 C.C.が平然と口にした。それにルルーシュがさらに何か言葉を返そうとしたときだ。彼が持っていた通信機が着信を知らせてくる。 「……何だ?」 そう言いながら、ルルーシュが眉を寄せたのが見えた。 「マリアンヌさん、から?」 「お前以外には、母さんしかいないからな」 これに連絡を入れてくるのは……とルルーシュは答えてくれる。その間にも、通話をするための操作をしていた。 「俺です」 そして、直ぐにあちらへと呼びかけの言葉を口にする。 「えぇ。スザクもあいつもいます。ナナリー達も無事ですが……」 それが何か? と彼は不審そうな表情で問いかけていた。 「ランスロットに、ですか?」 だが、マリアンヌが何か言ったのか。ルルーシュが確認をするように言葉を口にする。しかし、その瞬間、スザクは彼の方を凝視した。 ランスロットがどうしたというのだろうか。 「スザク」 その視線に気付いたかのようにルルーシュが声をかけてくる。 「何?」 「ランスロットのコクピットに、俺とC.C.も乗れるか?」 マリアンヌが聞きたいらしい。そう続ける。 「無理じゃないけど……戦闘になったら、誰か、ケガするよ?」 ケガをするとすればC.C.だろう。自分がルルーシュにケガさせるはずがないのだ。まぁ、C.C.は殺しても死なないから大丈夫だろうし……と心の中で呟く。 そんなことを考えていれば、ルルーシュはマリアンヌにそれを伝えている。 「C.C.」 だが、何か次の指示が来たのか。彼は視線を移動させた。 「何だ?」 「ランスロットの掌で移動しろ、だそうだ。途中でガウェインと合流をする」 「……マリアンヌの指示か?」 いやそうな表情でC.C.が聞き返している。 「他に誰かいるか?」 そんな無茶を言える人間が、とルルーシュが苦笑を浮かべた。 「V.V.なら言うだろうが……あいつの無茶は可愛いものだからな」 それに、自分に向けられることはない。C.C.はそう言って頷く。 「そう言うことだからな、坊や。落とすなよ?」 視線を向けると同時に、彼女はすごみのある笑みを浮かべる。 「戦闘がなければ、大丈夫ですよ」 それにスザクは微笑みと共に言い返す。 「アーニャ。そう言うことだ。、ナナリーとユフィを頼んで構わないな?」 そんな彼等を横目に、ルルーシュは年下の少女へと声をかける。 「任せて。二人は絶対に守る」 彼女のその言葉に、ルルーシュはとっておきの笑みを浮かべた。 「アーニャを信じている」 その表情のまま、彼は視線を妹たちへと向ける。 「二人とも。アーニャの指示に従うんだぞ」 優しい声音でそう告げる彼に、ナナリー達は頷いて見せた。 「大丈夫よ、ルルーシュ」 「安心して言ってきてくださいませ。お母様がお兄さま達を呼ばれると言うことは、相当厄介な状況でしょうから」 そんな彼女たちの言動にルルーシュは目を細める。どうせ、素直で優しいとか何とかと思っているに決まっている、とスザクは心の中で呟く。だが、ルルーシュのシスコンぶりはよくわかっているから、嫉妬する気にもなれない。 「スザクさん」 心の中でそう呟いていれば、ナナリーが呼びかけてくる。 「何だい、ナナリー」 結局、自分も彼女が可愛いのだから、ルルーシュのことは言えないかもしれない。 「お兄さまをお願いします」 言葉とともに彼女は頭を下げた。 「言われなくても、絶対に守るから、安心して」 でも、かすり傷ぐらいはつけてしまうかもしれない。それは勘弁してくれ、と続ける。 「わかっていますわ。何があるかわからないのでしょう?」 でも、とナナリーは語調を強めた。 「お兄さまのお顔にだけは絶対に傷を付けないでくださいませ」 「当然だよ」 それだけは、絶対に約束する。スザクがきっぱりと言い切ったときだ。後頭部に軽い衝撃を感じる。 「いい加減にしろよ?」 振り向けば、ルルーシュが拳を撫でているのが見えた。と言うことは、今の衝撃は彼に殴られたと言うことなのだろうか。 「何が?」 しかし、彼がどうしてそのような行為にでたのだろうか。 「俺の顔なんてどうでもいいだろう!」 スザクの問いかけに、ルルーシュはこう言い返してくる。 「そんなことはないよ!」 「そうよ! ルルーシュの顔は大事だわ!!」 ユーフェミアにまで言われて、ルルーシュは目を丸くした。本当に、彼は自分の顔がどれだけ周囲の者にとって大切なのかを理解していないようだ。 「……急がなくていいのか?」 このままでは収拾がつかないと判断したのだろう。C.C.が口を挟んでくる。 「……後でじっくりと話し合うぞ」 スザク、とルルーシュはため息を吐く。それが、次の行動への合図だった。 「それで、どこに行くの?」 自分のひざの上に座っているルルーシュに向かってスザクは問いかける。 「神根島だ」 ルルーシュが静かな声で答えを返してきた。 そこに何があるのかはわからない。だが、マリアンヌが提案し、ルルーシュが同意をしたのであれば、自分はそれに従うだけだ。 「了解」 そう言い返すと、スザクはランスロットを飛翔させた。 終
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