神根島で何があったのか。ルルーシュだけではなく、スザクやC.C.までもが口をつぐんでいる。 「ルルーシュ、マリアンヌ様は?」 とりあえず、何でもいいから教えてくれ……とコーネリアは口にした。 「ご心配なく。直ぐに戻ってきますよ」 多分、と彼は苦笑と共に告げる。 「……多分?」 その一言に引っかかりと覚えたのは自分だけではないだろう。そう思いながら聞き返す。 「……お聞きになって後悔されても責任は取れませんが……それでもよろしいのでしょうか」 はっきり言って、自分だって言いたくはない。 それでも聞きたいと言われたら伝えないわけにはいかないだろうな、とルルーシュは心の中でため息を吐く。 「私だとて、聞きたいわけではない」 しかし、と彼女は拳を握りしめる。 「私は、この地の総督だ! どのような結末になったのか、知らなければいけない」 もっとも、と彼女は声を潜めた。 「お前が言いたくないというのであれば考慮しないわけではないが……」 ぼそぼそと彼女らしくない口調で綴られた言葉が、間違いなく本音なのだろう。しかし、それならば、それでと思ってしまうのは目の前であれを見せつけられたからか。 「とりあえず、いつの間においでになられたのかわからないギネヴィア姉上が犯人をしばき倒しておいででした。その隣で、父上が母さんに同じようにしばき倒されていただけです」 この言葉に、流石のコーネリアの目も点になっている。 「姉上、が?」 何故、と彼女は呆然と口にした。 「俺も知らなかったのですが……今回のことが計画される前に、あのバカどもはギネヴィア姉上の仕事を邪魔したのだそうです」 そのせいで彼女が怒りまくっていたのだとか。 「……神根島に行ったのは?」 「彼の地に、父上がご執心の遺跡があるから、だそうですよ」 もちろん、マリアンヌも気にしている。何でも嚮団がその解析に力を入れているとか……とルルーシュは付け加えた。 「あれは、ロスト・テクノロジーの塊だからな」 ぼそっとC.C.が口を挟んでくる。 「そう、なのか?」 びっくりしたようにコーネリアが問いかけた。 「そうだ。もっとも、それを手に入れるためには特別な資質がいる。だからこそ嚮団があるわけだ」 それも知らずに手を出すから、とあきれたように続ける。 「シャルルもシャルルだ。それがよくわかっているだろうに、迂闊に口を出すから今回のような事件が起きる」 これが、他のエリアであればまだマリアンヌの怒りは小さかったのではないか。しかし、このエリアで事が起こり、しかも、その原因の一端があの遺跡にあったとわかった以上、彼女の怒りは絶大だ。 「お前達が巻き込まれた、と言う理由もあるしな」 これで、マリアンヌがブリタニアに戻る日が遠のいたな……と彼女は付け加える。 「あぁ。そうだろうな」 あの様子では、とルルーシュも頷く。 「陛下の自業自得とはいえ、また国政が滞るな……」 ため息とともにコーネリアは告げる。 「シュナイゼル兄上に連絡しておくべきだろうな」 さらに彼女はこう付け加えた。 「それで、お前はどうするんだ?」 マリアンヌと共に行方をくらますのか? と視線を向けてくる。 「それをすれば、父上の権威は地に落ちるでしょうからね」 流石に、それでは色々とまずいことになるのではないか。 「だから、仕方がありません。今回だけはとりあえず指示に従ってあげようかと」 スザクも一緒だし、ナナリーのことも考えてくれているようだから……とため息とともに付け加えた。 「母さんもその方がいいと言っていましたし」 あの表情から判断をして、何かとんでもないことを考えているような気はするが。心の中でそう付け加えた。 「……そうか……」 どこかほっとしたような表情でコーネリアは口にする。 「これで、お前達にまで逃げられたら、間違いなく陛下は使い物にならなくなるだろうからな」 かといって、譲位する気もないだろう。 もっとも、今、譲位されても困るが……と言う彼女の言葉の意味も理解できる。 「シュナイゼル兄上でも、文句を言う人間は言うでしょうからね」 いい加減、自分にはその才能がないと諦めればいいものばかりが……とルルーシュは付け加えた。 「全くだ」 それにコーネリアも頷いてみせる。 「しかし、いいのか?」 一度本国に戻れば、きっと、その厄介な相手とあれこれやり合わなければいけなくなるぞ、と彼女は付け加えた。 「一人ではありませんから」 にっこりとルルーシュは微笑む。 「それに、父上から拒否権もいただきましたしね」 かつて、マリアンヌが持っていたのと同じ……とルルーシュは付け加える。 「……ルルーシュ?」 まさか、とコーネリアは頬をひきつらせた。 「姉上が考えておいでの内容とは違う意味ですよ」 マリアンヌがどこで何をするかわからない。そんな彼女と戦うような状況にだけはなりたくない。真顔でそう付け加える。 「母さんがやりそうなことは、だいたい想像がつきますから」 それに、といいながら、C.C.へと視線を向けた。 「必要なことは、あいつが伝言を伝えてくれるはずですから」 そうだろう、とルルーシュは笑う。 「まぁ、それなりに報酬は貰うがな」 とりあえず、一回につきピザ三枚な、と彼女は言った。 「多いぞ」 一回につき一枚だ、とルルーシュは言い返す。 「三枚だ。わざわざ行ってやるのだからな」 「なら、V.V.様に連絡すればいいだろうが」 V.V.であれば、ブリタニアにいることが多い。そして、C.C.と彼ならば、どこにいようとも直ぐに連絡が取れるだろう。彼女がわざわざ足を運ばなくてもいいではないか。 「ダメだ。それでは私がお前の手料理を食べられん!」 それでは意味がないだろう、とC.C.が言い返してくる。 「なら、一枚だ」 ルルーシュはそう言い返す。 「お前一人だけですむはずがないからな。俺は料理を作るためにブリタニアに帰るわけではない」 さらにこう付け加えた。 「仕方がない……ならば、ピザ一枚と、その日の夕食を一緒に……で妥協してやる」 それならば、さほど負担にはならにだろう……とC.C.は意味ありげに笑う。 「どうせ、ナナリーとクルルギの分は作るのだろう?」 一人分ぐらい増えても手間ではないだろう、と彼女は言い切った。 「それはそうだが……」 「ずるい!」 その会話に、不意にコーネリアが口を挟んでくる。 「ルルーシュの手料理なら、私も食べたいぞ!」 さらに彼女はこう付け加えたところで慌てたように口を押さえた。どうやら、自分の言葉が失言だと気付いたらしい。 「だろう?」 しかし、C.C.は我が意を得たというように笑ってみせる。 「そう言うことだからな。ピザ一枚と夕食だぞ」 この言葉とともに彼女は立ち上がった。 「契約成立だ」 そのまま、この場を後にする。 「待て! 魔女!!」 慌ててルルーシュは彼女を引き留めようとした。しかし、ルルーシュが追いつくよりも先にさっさと姿を消してしまう。 「……すまん、ルルーシュ」 コーネリアが申し訳なさそうにそう言ってくる。 「いえ。姉上のせいではありません」 そう言い返しながらも、ルルーシュはブリタニアでも生活も彼女に振り回されるのではないかとためいくをつく。 「そもそも、お前があいつを止められないのが悪い!」 だが、直ぐにスザクへと八つ当たりを始める。 「僕?」 「そうだ!」 お前がC.C.を捕まえなかったのが悪い……とルルーシュは付け加えた。 「ごめん、ルルーシュ……でも……」 「うるさい! 奴が来たら、お前のおかずは一品減ると思え!」 「そんなぁ!」 半分涙目になりながら、スザクがすがりついてくる。 「……仲が良いな、お前達は」 その光景を見て、こう言えるコーネリアはやはりユーフェミアの姉かもしれない。意味もなくルルーシュはそんなことを考えていた。 そして、一月後。 新しいラウンズが二名、任命された。しかし、何故か、そのうちの一人は名前以外の経歴が発表されない。その理由が何故なのか、知っているものは、ごく一部だった。 終
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