「それで? いったい、どう責任を取られるおつもりですか?」 人払いをした謁見の間に、ルルーシュのいらついた声が響く。 「……ルルーシュ様、ほどほどに」 「そうそう。人払いをしてあるとはいえ、どこから漏れるかわからないならね」 そんな彼をビスマルクとシュナイゼルが必死になだめようとしている。もちろん、それにルルーシュが耳を貸す様子はない。 「とりあえず、神楽耶には連絡を入れたから……」 それで、あちらの状況がわかると思う……とスザクはルルーシュをなだめるように告げた。 「それでは遅い!」 即座に彼はこう言い返してくる。 「きっと、これは母さんの耳に届いているぞ」 そして、自分たちが声だけ怒っているのだ。彼女も同じように考えるに決まっている。 「怒っているだけならば、いいがな」 さらに付け加えられた言葉に、シャルルとシュナイゼルの頬がひきつった。 「……しかも、今回、あの馬鹿者が捕縛した中に、それを増長する人間の名前がある」 何か怖いことになっているような気がする。できれば、聞かずにすませたい。しかし、聞かないわけにもいかないだろう。 「誰?」 他の誰も口を開けないのは、きっと、あまり考えたくないからに決まっている。そう思いつつ、スザクは問いかける。 「……藤堂だ」 盛大なため息とともにルルーシュは答えを口にした。 「最悪じゃない、それって」 何で朝比奈とか千葉でなかったのか。思わずそう付け加えてしまう。 「彼等をかばったのだそうだ」 カレンが混乱しているとわかる文面でメールをしてきた、とルルーシュは続ける。 「いつの間に、メルアドなんて交換したの!」 思わずそう問いかけてしまう。 「……つっこむところはそこか、お前は」 あきれたように彼が言い返してくる。 「だって、僕、君のメルアド知らない!」 そもそも、名誉ブリタニア人でしかない自分は、自分名義の携帯を持っていないのだが。それはあえて忘れることにした。 「そんなもの、知らなくても困らないだろう?」 いつも一緒にいるのに、とルルーシュはため息とともに口にする。 「困らないけど、知りたい!」 でないと、自分だけ仲間はずれみたいで嫌だ。そう言い返す。 「第一、携帯があれば、もっと楽に連絡が取れるのに」 神楽耶にしても藤堂達にしても、とスザクは付け加えた。 「……それはそうだが……」 そもそも、名誉ブリタニア人にそう言ったものの所有を禁止したのはシャルルだし。そう言いながらルルーシュは父をにらみつける。 「今回のことだってそうでしょう?」 今の総督を任命したのはシャルルだ。その男がこんなことをしでかした以上、責任を取らなければいけないのも彼だろう。 「母さんが本気で怒ったとしても、責任は陛下が取ってくださるさ」 シャルルを《父》ではなく《陛下》と呼んだのは、間違いなくイヤミだろう。 「ルルーシュぅ……」 何故か、それにシャルルが泣きそうな表情を作った。 「どう考えても、陛下の失態ですね」 さらにシュナイゼルが追い打ちをかける。 「ともかく、それについては姉上と相談をして追及をさせて頂きましょう」 あれこれあって、現在のギネヴィアはルルーシュ達の味方だ。それ以前に、シャルルに対してあれこれ含んだものを持っていると言った方が正しいのか。そして、マリアンヌ相手ほどではないが、彼女もシャルルにとっては怖い相手らしい、とスザクは気付いていた。 「……ともかく」 脱線しそうになっている話題を、ルルーシュが強引に引き戻す。 「とりあえず、母さんが動き出すまえに、藤堂を含めた黒の騎士団の解放。そして、あのバカに鉄槌を下さないと……」 本気でやばいことになる、と彼は付け加える。 「そうだね。C.C.もいることだし……」 カレンもいる。彼女たちが本気で暴れたらどうなるか。 「これ以上、ブリタニアの権威を失墜させたいとおっしゃるのでしたら、俺は止めませんが?」 どうするのか、とルルーシュはシャルルを見上げた。 「……直ぐに、あれを更迭する……」 早急に事態を収拾するためにラウンズを派遣しよう、と彼は続ける。 その言葉を待っていたのだろう。 「なら、俺が行きますからね」 ニヤリ、と笑いを漏らすとルルーシュはこういった。 「ならん!」 条件反射のようにシャルルがこう怒鳴りつける。 「お前をそんな危険な場所に行かせるわけには、いかん!」 これもいつものセリフだ。 「……そのお言葉には従えません」 しかし、いつもなら仕方がないと引き下がるルルーシュが今日はこう言い返した。 「ルルーシュぅ」 「元はと言えば陛下が下らぬ理由であの国を属国としたのが原因でしょう?」 マリアンヌが家出をしたことも含めて、と彼は言外に付け加える。 「そして、今回のこれです。せっかく、コゥ姉上の尽力で日本人の気持ちが落ち着いてきたというのに」 また、振り出しに逆戻りだ……とため息をつく。 「だから、俺とともにスザクも日本へ行きます」 そして、あのバカに鉄槌を下します、とルルーシュは付け加える。 「確かに、それは一番確実だろうね」 彼の言葉に同意をするようにシュナイゼルが頷く。 「クルルギ君はブリタニア人以外で初めてラウンズに取り立てられた人間です。そして、あのエリア出身でもある」 だから、彼等も受け入れやすいだろう。 「それに藤堂とも顔見知りですしね」 後は、とルルーシュはシュナイゼルへと視線を向けた。 「あちらに受け入れられそうな人間を総督に据えるだけです」 人選はお願いしても構いませんか? とシャルルに向けるものとは違ってさほど棘を含まない口調で問いかける。 「もちろんだよ」 それに関しては任せておいて欲しい。彼はそう言って微笑む。 「本当は、君が皇族に復帰してくれれば、話は簡単なのだが」 そうすれば、無条件で総督が決まったものを……と彼は続けた。 「お断りします。そんな、どこかの誰かを喜ばせるようなことなんてしたくありません」 ナナリーを皇族に戻したことですら、今となっては後悔しているのだから……とルルーシュがため息をつく。 「あの子が皇女でなければ、さっさと出奔していたのに」 その方が気分的には楽だった、と言うルルーシュにシャルルの表情が強ばった。 「ぬぁにを言っておる、ルルーシュぅ!」 そんなこと、認められるかぁ! と彼がその表情のまま叫ぶ。 「別に、陛下に認めて頂かなくても構いませんが?」 認めて欲しい相手は他にいるから、とルルーシュは言い返す。 「第一、認めて欲しい人間が、こんなくだらない失態をされますか?」 自分がどれだけ怒るか、想像も出来なかったのか。そう言う彼に、シャルルはぐうの音も出ないらしい。 「……それよりも、俺は母さんの方が怖い」 ぼそっとルルーシュは呟く。 「それは否定できないかも」 スザクも、この後のことを想像したくはない。 「やはりな。だから、さっさと片を付けなければいけないんだ!」 でなければ、マリアンヌの怒りは、今度こそブリタニアに向けられる。そうなった場合、自分では太刀打ちが出来ないのではないか。そうも彼は付け加える。 「大丈夫だよ。君だけではなく他の誰も、本気になったあの方には太刀打ちできない。そうなったら、無条件降伏だね」 シャルル一人を人身御供に差し出せば許してもらえるだろうか。シュナイゼルは冗談とも思えない口調でそう呟く。 「そうですね。それが妥当なところでしょうか」 もっとも、そうならないようにしなければいけないのだろうが。少なくとも、バカを喜ばせる必要はないだろう、とルルーシュは口にする。 「そういうわけですので、陛下?」 「……仕方があるまい……好きにせよ」 がっくりと肩を落としながらシャルルは頷く。 「ルルーシュ殿下に口で勝てるとすれば、それこそマリアンヌ様だけですよ」 最初から勝てない勝負はすべきではない。 「では、スザクとジノを連れて行きます。アヴァロンをお貸し頂いても構いませんね?」 それを無視してルルーシュはシュナイゼルへと確認の言葉を口にした。 「もちろんだよ。きっとロイドも喜ぶだろうね」 即座に彼は頷いてみせる。 「しかし、二人だけでいいのかな? アールストレイム卿やエニアグラム卿も連れて行っても構わないのだよ?」 そうだろう、と彼はビスマルクへと視線を向けた。それにビスマルクは頷くことで同意を示す。 「アーニャにはナナリーの傍にいて貰わないといけませんし、流石にラウンズ四人でいくほどのことではありません」 それに、さっさと終わらせるにはこの二人で十分……とルルーシュは笑う。 「わかった。必要なものは持っていってくれて構わないからね」 だから、ケガだけはするな……とシュナイゼルは口にする。 「Yes.Your Highness」 そんな彼に、ルルーシュは笑いながら言葉を口にした。 終
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