アヴァロンでエリア11に向かいながらもルルーシュはカレン達と連絡を取っていた。 「……ジノ」 それを横目に、スザクは楽しげな同僚へと声をかける。 「何だ?」 どうかしたのか? と彼は聞き返してきた。 「ひょっとして緊張しているのか? そう言えば、お前もルルーシュもラウンズとしてはこれが初陣か」 それどころか、ルルーシュは本当に初陣かもしれないな……と彼は続ける。 ジノがそう言うのも無理はない。 自分たちの事情を知っているのは、ラウンズの中でもビスマルクとノネット、それにアーニャだけなのだ。 しかし、とスザクは心の中で呟く。 彼はそれなりの身分の家の子息ではなかったのか。それなのにルルーシュの名前を耳にしたこともないと言った様子だ。それとも、それはポーズなのか。 「そうじゃなくて」 だが、それを確認するよりも先に釘を刺しておいた方がいいような気がする。 「これから、何を見てもさわがないでくれ……と言いたかったんだよ。全部、陛下もシュナイゼル殿下もご存じのことだから」 でないと、本当に厄介なことになる。最悪、ブリタニアが崩壊しかねない。そうも続けた。 「大げさな」 「大げさじゃないから!」 本当だ、とスザクは言い返す。 「何なら、ヴァルトシュタイン卿に確認してみる?」 それともシュナイゼルの方がいいか、と付け加えた。 「どちらも遠慮したいなぁ」 任務上、必要ならばともかく……とジノは苦笑と共に口にする。 「なら、ノネットかアーニャにするか?」 どうやら、連絡が終わったらしい。ルルーシュが口を挟んできた。 「まぁ、お前が騒ぐようならさっさと本国に送還するだけだから構わないが」 さらに彼はこう続ける。 「いいの?」 必要だから連れてきたのではないか、とスザクは聞き返す。 「お前がいるし、あちらも動かせる。ジノがいなくても、何とかなる」 少し時間がかかるが、とルルーシュは言い切った。 「お前だけだと陛下が騒ぐからな。無難そうなところでジノを連れてきただけだ」 トリスタンを使えれば、少しは楽に事態を収拾できるかもしれない、と考えたことも否定はしないが……と彼は付け加える。 「……酷い、ルルーシュ!」 自分はそんな存在なのか、とジノが大げさに嘆いて見せた。 「今回のことで、お前が騒ぎ立てないかどうかがわからないからな」 騒ぎ立てられると、色々と厄介なことになる。だから、とルルーシュは言い返す。 「……私って、そんなに信用されてないのか……」 同じラウンズなのに、とジノは呟くと、わざとらしくひざを抱えて座り込んだ。 「お前はヴァインベルグだからな」 それに対するルルーシュの答えがこれだった。 「お前個人は信じられても、お前の実家は信用できない。そう言うことだ」 アールストレイムがこちらの味方なのは以前から知っているが、とさらに言葉を重ねる。 「……そうなの?」 そのあたりの権力闘争は今ひとつわからない。だから、スザクはこう問いかけた。 「でも、そう言えば、アーニャは幼なじみのようなものなんだっけ? ノネットさんも?」 「あぁ。姉上の関係の知り合いだ。ベアトリスもそうだな」 その名前が出た瞬間、ジノの方が大きくはねる。 「……ベアトリスというと、あの……」 「お前の苦手な特務総監殿だ」 ニヤリ、と笑いながらルルーシュは付け加える。 「何で、ルルーシュの姉上は……」 「……軍人だ、一応」 もっとも、母親が違うが……とさりげなく続ける彼に、ジノは何かを察したらしい。気まずそうな表情を作る。だが、その父親と母親の身分に関しては思い切り誤解をしているだろうことは想像がついた。 「ともかく、だ。これから、お前の常識では考えられないことが目の前で繰り広げられる。それに関しては、スザクの言うとおり、陛下やシュナイゼル殿下をはじめとした方々の了承済みだと思ってくれていい」 了承していなかったとしても、させるが……と付け加えられた言葉を、ジノは耳にしただろうか。 「……とりあえず、私は見て見ぬふりをしろと?」 「同時に俺の指示に従ってくれればいい。そうすれば、思い切り暴れさせてやろう」 スザクと一緒にな、とルルーシュは笑う。その笑みがどこかシュナイゼルのそれに似てきたような気がするのはスザクの錯覚ではないだろう。兄弟だから似ていてもおかしくはないのだが、あんな風に腹黒くなって欲しくはないな……と心の中で呟く。 「……とりあえず、それが一番重要だから、他のことは目をつぶっておくよ」 特務総監にいじめられるのはいやだから、とジノは言い返す。 「そうか……まぁ、今回のことが終わったら、報告書を書く手伝いはしてやろう」 ひょっとしたら、彼にとって一番嬉しいセリフはこれだったのかもしれない。 「本当か?」 目を輝かせてこう問いかけてきた。 「あぁ」 どうせ、スザクのも手伝うことになる。だから構わない、とルルーシュは微笑む。 「そう言うことなら、文句はない」 とりあえず、作戦を成功させればいいのだろう? と彼は笑う。 「そう言うことだ」 どこか含みのある笑みを浮かべながら、ルルーシュが頷く。 「……遊んでるね、ルルーシュ」 ジノで、とスザクはため息をついた。きっと、彼は彼なりに何か鬱憤がたまっていたのだろう。しかし、本当の衝撃はこの後に来ることをスザクも知っている。 「強く生きてくれ、ジノ」 だから、こういう以外、出来なかった。 そうしている間に、エリア11と公海の境界線までたどり着いていた。 「アヴァロンはここで停止」 その時だ。いきなりルルーシュがこう指示を出す。 「……ルルーシュ?」 どうして、とジノが問いかけて来た。 「このまま接近すれば、どうしてもあちらに気付かれてしまうからな」 その間に証拠を隠滅されては困る。だから、奇襲をしかけなければいけないのだ。ルルーシュの説明にジノも納得をしたらしい。しかし、だ。 「だが、トリスタンはともかく、ランスロットはこの距離からだと到着するのがぎりぎりじゃないか?」 エナジー・フィラーを交換する時間があればいいが、と彼は告げる。 「だから、迎えが来ている」 あちらでの協力者が、とルルーシュが言い返した。 「協力者?」 そんなのいるのか、とジノが周囲に疑問符をまき散らしている。と言うことは、ここで第一の先例なのだろうか。 「ルルーシュ、それって……」 「あぁ。ラクシャータだ。ついでに、俺専用のナイトメアフレームも完成している、と言っていたな」 きっと、彼女も一緒だ……とルルーシュは微かに頬をひきつらせた。 「マジ?」 その言葉だけでスザクも頬がひきつってしまう。 「単独で乗り込まれなかっただけ、マシだ……と言うことにしておこう」 その気になれば、一人で事態を収拾できたかもしれない。しかし、そんなことをされたら、間違いなく、ブリタニアとエリア11の関係は最悪なものになる……とルルーシュはため息をつく。 「最悪、陛下が退位することになるぞ」 そうなったら、本国は間違いなく大混乱だろうな……と彼は続けた。 「……ルルーシュ」 こんな会話を交わしていれば、いくらジノでも――と言ったら、失礼だろうか――何か不安を感じたらしい。 「いったい、誰が待っているんだ?」 おそるおそると言った様子で彼が問いかけてくる。 「逢えばわかると思うぞ」 ブリタニア人であれば、とルルーシュはため息とともに言い返す。 「そうだね。ブリタニア史の教科書にも、きちんと写真入りで載っていたし」 まさかと思ったのだが、とスザクも苦笑と共に頷く。 「……誰なんだ、スザク」 教えろ、とジノが詰め寄ってくる。 「ランペルージ卿。合図です」 しかし、それを遮るように報告が飛んできた。 「わかった。行くぞ、二人とも」 それにルルーシュは頷くとこう告げる。 「大丈夫だ、ジノ。直ぐに会えるからな」 さらに彼はこうも付け加えた。 「そうだね。説明をするよりも本人にあって貰った方が確実だと思うよ」 ルルーシュがそう言う態度ならば、自分には何も言えない。そう思いつつ、スザクも頷く。 「急ぐぞ。スザク」 「わかっているよ。ランスロットのコクピットでいいよね」 「あぁ。お前達は指示があるまでここで待機をするか……でなければ神根島に着陸をしていろ」 この言葉を残して、ルルーシュがブリッジをでていく。スザクとジノも、当然、その後を追いかけた。 十分後、ジノの叫びが黒の騎士団の潜水艦内で響いた。 「な、何故、ここにマリアンヌ様が!」 やはりこうなったか、とスザクはため息をつく。 「何故って……ねぇ」 「母さんが《ゼロ》だからな」 さらに追い打ちをかけるようにルルーシュが言葉を口にした。 「ルルーシュがマリアンヌ様の息子……」 なら、と言うジノに、周囲の者が気の毒そうな視線を向けている。 「まぁ、これが普通の反応よね」 凍り付いた彼を見ながら、カレンは複雑な表情でこういう。 「気にするな、カレン。俺の顔を見て何とも思わないそいつが悪い」 」 それにどうつっこむべきか、本気でスザクは悩む。そして、さっさとさじを投げることにする。 ある意味、ジノの苦難はこれから始まった。 しかし、まだまだ序の口だと思うのはスザクだけではないだろう。 終
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