ルルーシュとマリアンヌが共同で指揮を執って失敗するはずがない。
 その上、今回はさらに帝国最強の騎士ナイト・オブ・ラウンズが二人も加わっているのだ。
 作戦はあっという間に終わった。
 しかし、問題が全て解決されたわけではない。
「まったく……クロヴィス兄さんが総督だったときよりも悪いぞ、これは」
 この状況は、と報告書に目を通しつつ、ルルーシュが呟く。それはクロヴィスをほめているのだろうか、それとも……とスザクは悩む。
「よくもまぁ、母さんが今まで黙っていたな」
 それとも、自分たちが動くまで待っていてくれたのだろうか。ルルーシュはルルーシュでこんな呟きを漏らしている。
「……ともかく、少しでも正常化に導かないとな」
 まずは、バカを一掃するか。この言葉とともに彼は視線をスザクへと向てきた。
「それはいいけど……僕らが動いている間の執務はどうするの?」
 誰かがやらなければいけないだろう、と言い返す。
「ラウンズならもう一人いるだろう?」
 こういいながら、彼は視線を移動させた。その瞬間、部屋の隅で楽しげにルルーシュお手製の焼き菓子を頬ばっていたジノが凍り付く。
「……本気?」
 その様子を横目に見ながら、スザクは問いかける。
「ジノのデスクワークがどれだけ壊滅的か、ルルーシュも知っているだろう?」
 さらに彼はこう付け加えた。
「だからに決まっているだろう」
 それにルルーシュはこう言い返す。
「ベアトリスだけではなくビスマルクにも頼まれたからな。少しはましになるようにしごいてくれと」
 とりあえず、書類を書かせて、自分がだめ出しをすれば少しはましになるのではないか。そう言われたのだ。ルルーシュはため息をつく。
「……まさかと思いますが……手伝っては……」
「そんな時間が、俺にあると思うか?」
 当面、とルルーシュは冷たい視線をジノに向けた。
「ですよね……」
 大きな体を小さく縮めながら彼は恨めしそうな視線を向ける。しかし、ルルーシュはそれを綺麗に無視した。
「ともかく、あちらと連絡を取らなければいけないのだが……どうするか」
 一番手っ取り早いのは桐原を呼び出すことだろうか、とルルーシュは呟く。
「カレンさんでもいいんじゃない?」
 まだ、アッシュフォード学園にいるだろう、とスザクは言い返す。
「あぁ。そのはずだ」
 それに、と彼は少しだけ顔をしかめる。
「ミレイ達に連絡を取らないとな」
 しなければ、しなかったで何を言われるかわからない……とその表情のまま続けた。
「……会長は怖いものね」
 ここに押しかけてくるぐらい平然としそうだ、とスザクも頷く。
「と言うわけで、早急に連絡を取ってくれ。俺は、当面、バカをあぶり出すことに専念する」
 何か裏がありそうだ。彼はきっぱりとそう言いきる。
「ブリタニア国内に、それを指示している者がいると思っているの?」
 だとするなら、アーニャに連絡を取った方がいいのだろうか。そう思いながら問いかける。
「……そちらもいるだろうが……」
 もっと厄介なのがいるような気がする、とルルーシュは口にした。
「誰なんだ?」
 流石に彼のこの態度にいつまでもいじけていられなくなったらしい。ジノが問いかけてくる。
「中華連邦」
 それに、ルルーシュはこの一言だけを口にした。
「中華連邦?」
「あぁ。人がいない間に、バカとのパイプを作っていた可能性がある」
 気がつけば、大使館が新築されていたからな……と付け加えながら、彼は一枚の書類を差し出してきた。
 反射的にスザクはそれを受け取ってしまう。
「……げっ!」
 そして、その事実を思い切り後悔してしまった。
「どうかしたのか?」
 いやそうな表情を作ったからだろう。ジノが脇から書類をのぞき込んでくる。
「何だよ……この皇族の離宮に負けない規模の悪趣味な建物は」
 しかも、大使として赴任してくる人間の気持ち悪さがそれをさらに増幅させているじゃないか! と彼は続けた。
「そう言うことだ。あぁ、出迎えは任せたぞ」
 ジノ、とルルーシュは口にする。
「えぇっ! 私!!」
 何故、とジノは叫んだ。
「俺たちは、その間に母さんと会ってくるからな」
 自分が行かなければ意味がない。そして、スザクはそんな自分の護衛だ。ルルーシュは冷静な声音でそう告げる。
「なら、私がルルーシュの護衛でスザクが出迎えにでるのでもいいじゃないか!」
 マリアンヌ様には自分も会いたい、とジノは主張した。
「だが、お前ではキョウトと連絡を取れないぞ」
 自分の代理だ、と言っても向こうが信用をしない。それでは意味がないだろう、とルルーシュは言い返す。
「母さんにはいくらでも会える機会があると思うが?」
 彼女のことだ。状況が落ち着けば押しかけてくるに決まっている。その時でも十分だろう、と彼は笑った。
「むしろ、自分の仕事を放り出したりしたときの方が怖いと思うけど」
 ぼそっとスザクが呟く。
「あぁ。それはあり得るな」
 そのせいで、未だにシャルルはマリアンヌに会ってもらえないのだから……と言われて、ジノにもその意味がわかったらしい。
「……わかった。出迎えは、私がしよう」
 その代わり、きちんとマリアンヌに紹介をしてくれ……と彼は訴えてくる。それに、スザクは苦笑を浮かべつつ頷いて見せた。

 アッシュフォード学園へ向かえば、何故かまだミレイが学生をしていた。
「……卒業したんじゃないのか?」
 ルルーシュが驚いたように問いかける。
「だって、卒業をしちゃったら遊べなくなるんですもの」
 それに、と彼女は笑った。
「ルルちゃん達が帰ってきたときに寂しいでしょう?」
 誰か一人でもかけていれば、と言われてルルーシュは複雑な表情を作っている。まさか、そう言う理由だとは思っていなかったのだろう。
「……たんに、遊びすぎて単位が足りなかっただけではないのですか?」
 それでも、素直にうれしさを表に出せないのがルルーシュという人間だ。
「それも否定しないわよ」
 逆に、さらりと認められるミレイの方が人間としては大きいのかもしれない。
「だって、ルルちゃんがいなくなってから、書類が片づかなかったんだもの」
 それをやっていたら、授業にでていられなくなったのよね……と彼女は笑う。
「本末転倒ですね」
 あきれたようにルルーシュがため息をついた。
「でも、もう一人いるわよ。落第した人間が」
 開き直ったかのように彼女はこういう。
「誰ですか、それは」
 だいたい想像がつくが、と言ってはいけないのだろうか。勉強という点に関しては、自分も他人のことは言えないし……とスザクは心の中で呟く。
「カレンよ」
 苦笑と共にミレイはそう言った。
「……あいつは、何をしているんだ……」
 少なくとも、学校には行けるようにしてくれ……と神楽耶には頼んでおいたのに、とルルーシュも口にする。
「それは本人に聞いて。ルルちゃん達が来ると聞いたから、リヴァルに呼びに行かせたわ」
 多分、いまくると思うけど……と彼女が付け加えたときだ。廊下から誰かの足音が響いてくる。そのリズムから判断をして、全力疾走をしているのではないだろうか。
「ルルーシュ! それにスザクも、やっぱり、こっちに来たのね!」
 壊すような勢いでドアを開けると同時にカレンが飛び込んでくる。
「……で? お前は何日ぶりに登校したんだ?」
 是非とも教えろ、とルルーシュが即座に切り返す。
「……えっと……」
 それに彼女は頬をひきつらせる。
「まぁ、いい。それに関しては、母さんの前で聞かせてもらう」
 あの後、真面目に登校していれば落第するはずがないのに……と彼は口にした。その瞬間、カレンの頬がひきつる。その理由も、きっと想像がついた。そう言うことに関しては、マリアンヌは厳しいのだ。
「早急に母さん達と話がしたい。そうでなければ、厄介なことになるかもしれない」
 中華連邦が絡んでいる、とルルーシュが付け加えれば、カレンが別の意味で表情を強ばらせた。
「わかったわ。連絡は?」
「ミレイに頼め。そうすれば、誰にも不審は抱かれないはずだ」
 ロイド経由でこちらに来る。アッシュフォードはナイトメアフレームの開発を行っていたから、と彼は続けた。
「二、三日中には必ず」
 カレンはそう言って頷く。
「頼んだぞ」
 ルルーシュが微笑み返したときだ。
「だから、ピザをつくって。あの魔女がうるさいのよ!」
 彼女が即座にこう口走る。
「はい、はーい! 久々にルルちゃんの手料理が食べたいです!」
 さらにミレイ達までがそれに便乗をするように口々にこういった。
「ったく……仕方がないな」
 この一言であっさりと腰を上げるルルーシュは、やはりみんなのことも好きなんだな……とスザクは思う。しかし、告白はしたものの、その後放置されている自分は……と考えると微妙な気持ちになってしまう。
「で、お前は何が食べたいんだ?」
 だが、ルルーシュは言葉とともにスザクに視線を向けてくる。
「唐揚げ?」
 とっさにこう言い返してしまった。
「わかった。ちょっと待ってろ」
 どうやら、一品はスザクの好きなものを作ってくれるつもりらしい。その程度は自分のことを大切に考えていてくれるのだろう。
 とりあえず、それだけでもいいか、とスザクは自分に言い聞かせていた。





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10.07.19 up