「それは、あなたが悪いわ、ルルーシュ」
 案の定と言うべきか。マリアンヌがきっぱりと言ってくる。
「……朴念仁だと思っていたが、そこまでとは……シャルルよりも酷いぞ」
 さらにC.C.が言葉を投げつけた。
「……それは、嬉しくないな」
 朴念仁と言われるのはいいが、とルルーシュは呟く。
「それって、何か間違ってない?」
 普通は『朴念仁』と言われたことを怒るのではないか、とスザクはつっこんでしまう。
「そうは言うがな、スザク。比較対象があの父上だぞ? 母さんを怒らせて、ついでに兄上達にあきれられている」
 そんな人間と似ていると言われて嬉しいはずがないだろう、とルルーシュは反論をしてくる。
「母さんに似ていると言われるのは嬉しいがな」
 このセリフを真顔で言えるあたり、彼の中では確固とした判断基準があるのだろう。多少、シャルルが気の毒になるが、だからといって積極的にフォローする気にもならない。
「……ルルーシュがそれでいいなら良いけど」
 だから、女装させられるんだ……とは心の中で呟くだけにしておく。
「でも、そのせいで変態に目をつけられるのはまずくない?」
 ジノの話が本当であれば、そう簡単にはあきらめないと思うけど……と代わりに言った。
「しかも、この前の件もあちらが絡んでいる可能性があるんでしょう?」
 さらにこう付け加える。
「そう言う話があるらしい、と聞いているだけだが……そちらでは何か掴んでいませんか?」
 桐原あたりであればそのあたりのことに詳しいだろう。ルルーシュはそう言って母へと視線を向ける。
「できれば、ナナリーがこちらに来る前に片づけてしまいたいのですが」
 でなければ、シャルルがまたとんでもない行動に出そうで怖い。彼がその気になってしまえば、止めるのは至難の業だし、と彼は付け加えた。
「……何よりも、俺だって嫌いな相手にあれこれされるのはごめんだ」
 そんなことを考えただけで鳥肌が立つ、とルルーシュがため息をつく。
「だから、さ。暗殺しちゃおうよ」
 許可が出たら、自分が行ってくるから……とスザクは言い返す。他の誰かがルルーシュをそんな愛で見ていると考えるだけで頭に来るし、と心の中だけで付け加えた。
「それも良いけど……でも、次に来るのも同じようなバカだったらどうするの?」
 マリアンヌがそう問いかけてくる。
「一度暗殺を成功させたら、連中だって警戒するわよ」
 確かにそうかもしれないが、とスザクは思う。
「その時はその時です」
 とりあえず、ルルーシュを使って変な妄想をする人間が許せないのだ……と言い返す。
「……スザク……他人の脳内のことなんか気にするな」
 ため息とともにルルーシュがこう言ってくる。
「だって、ルルーシュ」
 自分だって我慢しているのに、と反射的に口にした。次の瞬間、スザクは慌てて自分の口を押さえる。
 一瞬、その場の空気が止まった。
「そう言うところが可愛いのよね、スザク君は」
 だが、マリアンヌが笑いながらこういったことであっさりと動き出す。そう言うところは流石だ、と思う。
「とりあえず、暗殺はなしね」
 そのまま彼女はこう続ける。
「……はい」
 彼女に釘を刺されてしまっては反論なんてできない。だから、とスザクは大人しく頷いてみせる。
「まぁ、一度会いに行かなければいけないでしょうけど」
 ふふふ、とマリアンヌが意味ありげに笑った。
「母さん?」
 何をする気だ、とルルーシュが問いかける。
「聞かない方が身のためだぞ」
 それに言葉を返してきたのはC.C.だ。
「心配しなくていいわ。あなた達の迷惑にはならないようにするから」
 その言葉の裏に『あなた達に知られないようなことをするから』という意味が隠れているような気がするのは自分だけだろうか。スザクはそう悩む。
「……わかりました……」
 いや、ルルーシュも同じようなことを感じていたのだろう。頬をひきつらせながら、彼は頷いている。
「とりあえず、それに関しては任せておけ。それよりも、ブリタニア側の膿はお前達に任せなければならないが」
「愚問だな、C.C.」
 そちらはしっかりと手を打っている、とルルーシュは笑う。
「それで、シュナイゼル殿下と連絡を取っていたんだ」
 スザクはようやく納得できた、と頷く。
「まぁ、な。流石に勝手な行動を取るのはまずいだろうし」
 自分一人で出来ないわけではないが、目立つのはまずい。だから、彼に矢面に立って貰おうかと……と彼は付け加えた。
「でないと、また暗殺者を送り込まれかねないからな」
「来ても、ちゃんと撃退するけど?」
 何回かやったし、とスザクは言い返す。
「だが、そうするとお前の睡眠時間が減るぞ」
 心配そうにルルーシュが口にする。
「大丈夫じゃないかな。ジノに仕事を押しつけているし」
 それに対し、スザクがこういったときだ。
「それはどういうこと?」
 自分はそんなことがあったと言うことも知らない、とマリアンヌが言う。
「きちんと対処できましたので。ナナリーの方に行った連中はアーニャが責任を持って処分したそうですし」
 その後でシュナイゼル達と共にしっかりとシャルルを〆に行った、とルルーシュは綺麗な笑みを浮かべながら告げる。
「……ヴァルトシュタイン卿も、見なかったことにしていたしね……」
 そう言うところも本当にマリアンヌにそっくりだ……と思いつつ、スザクは付け加えた。
「いい加減、懲りればいいんだ」
 本当に学習能力をどこに落としてきたのか、とルルーシュはため息をつく。
「本当にどこに落としてきたんだろうね。昔は泣き虫だったけど、頭はいいこだったのに」
 不意に背後からこんな声が響いてくる。
「V.V.様?」
 どうして彼は普通に出てこられないのだろうか。ある意味、心臓に悪い、とスザクは思う。
 だが、彼だし、何をしてもおかしくはないか。そう自分に言い聞かせる。
 と言うよりも、気にしては負けだ……と言った方が正しいのではないか。
「とりあえず、ルルーシュにこれを渡しておこうかと」
 頼まれていたものだよ、と言いながら彼は一枚のディスクを差し出してくる。
「ありがとうございます。でもご自身で持ってきてくださらなくてもよかったのに」
「いいじゃない。たまには会いたいんだし……あぁ、お礼は手料理だと嬉しいな」
 さりげなくリクエストを告げるあたり、流石だ……と言うべきなのか。
「それは構いませんが……何で、みんな、俺の手料理をそんなに食べたがるんでしょうね」
 どのみち、マリアンヌもC.C.も同じ事を言うに決まっているし……とルルーシュはため息をつく。
「おいしいからに決まっているじゃない」
 即座にV.V.は言い返してきた。
「そう思うだろう、クルルギ」
 だから、どうして自分に話を振るのですか。そう言いたくなる。
「確かに、それは否定できません」
 実際、ルルーシュが作ってくれる料理よりおいしいものなんて食べたことがないから……と思いつつ、スザクは即答をした。
「スザク」
「だって、本当のことだもん?」
 誰が何と言おうと、とスザクは付け加えた。
「……まぁ、いい」
 これに関しては勝ち目がない、と判断したのだろう。ルルーシュはあっさりと引き下がる。
「とりあえず、あの変態については母さん達におまかせします。ただ、こちらに報告を入れてくださいね」
 でないと色々と支障が出る、と付け加えた。
「わかっているわよ。安心しなさい」
 これでも、まだブリタニアの后妃の座にあるらしいから……と彼女は苦笑と共に言い返してくる。
「大丈夫。シャルルが意地でも君からその座を奪わせないから」
 やめさせた瞬間、彼は退位してマリアンヌを追いかけてきそうだから、周囲も止めるだろう。そう言ってV.V.は笑った。
「……まぁ、ありがた迷惑だわ」
 そんなことは考えていないだろうに、と傍目から見てもわかる口調でマリアンヌが言う。
「とりあえず、キッチンを借りますよ。それと、どうせ外に藤堂達もいるのでしょう? 朝比奈にでも買い出しに行かせます。呼んでください」
 これ以上話をしていても厄介なだけだ、と判断したのだろう。ルルーシュがこういった。
「わかったわ。あぁ、ルルーシュ。久々にハンバーグが食べたいの」
「はいはい。わかりました。ピザ以外ならリクエストを受け付けますよ」
「なら、僕はデザートにシュークリームが食べたい」
「横暴だぞ、ルルーシュ。差別は禁止だ!」
 その瞬間、その場にいた者達が口々に騒ぎ出す。
「スザク、手伝え」
 それを綺麗に無視して、ルルーシュが呼びかけてくる。
「Yes.Your Highness」
 冗談めかしてスザクはこう言い返す。そして、彼とともにさっさとその場を避難したのだった。





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