今日もまた、熱烈なラブレター――命名はジノだ――が政庁に届く。 「……今日は何の名目の招待状だ?」 うんざりとしているのを隠さずにルルーシュが問いかけてくる。 「大使公館での夕食会……だって」 スザクが言葉を返した瞬間、ルルーシュが思いきりいやそうな表情を作った。 「ジノに行かせろ」 自分の代理で、と彼は続ける。 「いいの?」 また、それで……とスザクは問いかけた。 「構わない。それどころではない、と言い返しておけ」 実際、ナナリーが来るからその準備で忙しい。総督を迎えるのに失礼があってはいけない、と言うのがブリタニアでは常識だ。だから、とルルーシュは言葉を重ねる。 「それに文句を言う人間とは付き合う必要はない」 本国からも同じ返答が帰ってくるだろう、と彼は言い切る。 「まぁ、シュナイゼル殿下なら、そうおっしゃるだろうね」 本気でそう考えていなかったとしても、ルルーシュがそう言った……と言う理由で同意をするはずだ。 「じゃ、ジノにはそう言っておくね」 ここまで本気で嫌がっているルルーシュの気持ちを変えられるとすれば、それこそナナリーだけだろう。だから、ジノには悪いが、自分は何も出来ないしする気もない……とスザクは心の中で付け加えた。 「頼む」 実際、ルルーシュがいなくなると執務の半分が滞るのだ。 最初は宣言通り、ジノに全てを任せていたのだが、そうした結果、書類が山積みになった。 その後の惨状は、はっきり言って思い出したくない……とスザクは思う。 とりあえず、書類の山がなくなるまでルルーシュの手料理がお預けになったことは事実だった。 「まぁ、ジノもそれを覚えているだろうから、最終的には引き受けざるを得ないんだろうけど」 それは自業自得だろう。 「鍛錬ぐらいには付き合うか」 いや、付き合わせるかと言った方が正しいのだろうか。 「最近、なまっちゃったもんね」 だからといって、マリアンヌに付き合わされるのはいやだ。そう呟きながらスザクはジノを探すために部屋を後にした。 状況によってはブリタニアに帰らなければいけないために、どうしてもルルーシュは出席することが出来ない。だから、ジノが代理として出席をする。 この言葉のどこをどう取れば『中華連邦との関係を悪化させたい』とルルーシュが言っていることになるだろうか。 「訳がわからん」 あきれたようにルルーシュが呟く。 「僕に言われても困るんだけど」 スザクはそれに苦笑と共に言い返した。 「本当に、一度、ブリタニアに帰ってやろうか」 真顔でこういったルルーシュにジノが頬をひきつらせる。 「頼むから、それだけはやめてください」 そして、その場に土下座しそうな勢いで彼はこういった。 「私一人で、執務とあれの対処は無理です!」 さらに彼はこう続ける。 「確かに……ジノだとどちらかだけだよね」 でないとパニックを起こしそうだ、とスザクも頷いてみせた。 「お前までそう言うのでは、仕方がないな」 不本意だが、とルルーシュは口にする。 「妥協して、神根島にでも行くか」 その時期に、と彼は付け加えた。 「神根島、とは、なんですか?」 意味がわからない、と言うようにジノが問いかけてくる。 「嚮団関連の施設がある。気分転換に籠もりに行くには良い場所だ、と母さんが言っていたぞ」 C.C.はあれでも、嚮団でもトップの地位にいる人間だし、とルルーシュは口にした。 「その時はスザクにも付き合って貰おう」 ジノは居残りだ、と彼はさらに付け加える。 「……また、私が居残りですか……」 ぼそっとジノは呟くように言った。 「仕方がないな。お前、サバイバルなんてできないだろう?」 スザクは素手で魚が捕れるし、木の枝があれば、それだけで火をおこすことも出来る。その程度のことが出来なければ、連れて行くのは無理だ……とルルーシュは言う。 しかし、これはほめられているのだろうか。 何か、自分がとんでもなく野蛮人だと言われているような気もするが……とスザクは首をかしげる。 「確かに、そこまでは無理です……」 と言うよりも、料理そのものができない。そんなものは誰かがしてくれると思っているし、とジノは口にする。 「むしろ、ルルーシュができる方がおかしいと思います……」 皇子なのに、と彼は続けた。 「……母さんが自分が楽するためにたたき込んでくれたようなものだが、な」 後は、ナナリー達がよろこんでくれるのが嬉しくなっただけだ。三人で日本に来てからは、スザクや朝比奈達が絶賛してくれたこともあって、ますますのめり込んだことは否定しないが……とルルーシュは口にする。 「何よりも、暗殺の心配のないものが食べたかったからな」 彼はさらにこう付け加えた。その内容に、流石のジノもそれ以上は何も言えなかったらしい。 「と言うわけで、その時期には俺とスザクは行方不明になるからな」 適当に話を合わせておけ、とルルーシュは言い切る。それにジノは静かに頷いて見せた。 「ランスロットを使うなら、ロイドさんに話をしておかないと」 二人だけになったときに、スザクはこう切り出す。 「わかっているが……そうなると、あいつも付いてくるだろうな」 そうなるのであれば、押さえ役としてセシルも連れて行かないと……とルルーシュは呟くように首をかしげる。そうすれば、彼の首筋がはっきりと見えた。その白さに、スザクはどきりとする。 「でも、みんなで言った方が、信憑性が出るんじゃない?」 そこから必死に意識をそらしながらスザクはこういった。 「それもそうか」 ランスロットの方が早くていいのだが、とルルーシュは呟く。 「それと、ラクシャータさんにも」 さっき連絡があったから、と思いだしたようにスザクは続けた。 「スザク?」 「何か、ルルーシュ用の新型が出来たから、と言ってたよ」 ごめん、今まで忘れていた……と頭を下げる。 「しかし、そうすると別の意味で怖いかも」 ロイドが、とさりげなく付け加えた。 「それは否定できないな」 確かに、あの二人なら論争という名の口げんかを始めてくれるだろう。 「まぁ、セシルがいれば大丈夫か」 彼女なら止めてくれるのではないか。 それでなければ、飯抜きを宣言すれば良いような気がするが……とルルーシュは続ける。 「そうだね。あぁ、セシルさんに食事当番を任せてもいいかも」 その時は、自分たちはこっそりと食料を集めてサバイバルをした方がいいだろうが。スザクは苦笑と共にそう告げた。 「……まぁ、セシルだからな」 何故、あんな独創的な料理が出来るのか。いくら考えてもわからない、とルルーシュは呟く。 「味見をしていれば、普通に出来ると思うのだが」 彼女は自分で食べているのか、と彼は付け加えた。 「そう、思うんだけど……どうなんだろう」 わからないや、とスザクは言い返す。へたに興味を見せると、毎日食べさせられる羽目になるから、と彼は続けた。 「せっかく、ルルーシュの料理が待っているのに、それが食べられない状況はいやだったし、ね」 それに、あのころはナナリーも待っていてくれたし……と付け加える。 「ナナリーはお前が帰ってくるのを待っていたからな」 そう言った瞬間、ルルーシュは窓の外に視線を向けた。 「いい加減、こちらに呼び寄せてやらないと……しかし、そうなると、あの変態と顔を合わせなければいけないのか?」 大丈夫なのだろうか、と彼は続ける。 実は、あの変態は女の子には興味がないのだ……教えるべきかどうか、スザクは一瞬悩む。 「マリアンヌさんが何とかしてくれるよ」 排除するにしても何にしても、と代わりに明るい口調を作って告げる。 「そうだな」 母さんなら、きっと何とかしてくれるだろう。ルルーシュはそう言って直ぐに現実に戻ってくれた。 「ともかく、ロイドへの連絡は頼めるか?」 「どうせ、毎日顔を合わせているからね。あぁ、ついでに新装備のテストも向こうでしていいよね?」 「もちろんだ」 こうなったら、精一杯楽しむしかない。そう告げるルルーシュに、スザクは思いきり同意をして見せた。 そして、翌日、それを実行に移す。 一人残されたジノがどのような目にあったのか。それは彼等のあずかり知らぬ所であった。 終
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