視線の隅でロイドが殴り倒されている。しかし、それを気にする余裕はスザクにはなかった。 「つまり、全部キーボード操作、と言うことですか?」 ルルーシュ用のナイトメアフレームの操縦は、と問いかける。 「そぉいうことぉ。だから、その手助けのために、あんたの機体の戦闘データーも欲しいのよぉ」 一応、藤堂や四聖剣、そしてカレンのデーターは学習させてあるが、と彼女は続けた。 「そうすれば、動きを組み合わせることでルルーシュ様が脳裏に思い描く動きを再現させられるわぁ」 ルルーシュには直接的なものよりもその方が確実だろう。そう言って彼女は笑う。 「何よりも、これは防御システムに力を入れてあるのよぉ」 それを使いこなせるのはルルーシュだけだ。彼女はきっぱりと断言をした。 「……これって、その場で数値を入れるんですよね?」 つまり、目の前の状況を瞬時に判断をして、適切な角度その他を計算しなければいけない、と言うことだろう。 「そうよぉ」 「……確かに、ルルーシュ以外には使えませんね」 自分では歩かせることも出来ないのではないか。そう思う。 「でしょ? 自信作よぉ」 どうですか? とそのまま彼女は視線をルルーシュへと向ける。 「あぁ。これならばスザクの足を引っ張ることはなさそうだ」 満足そうにルルーシュは頷いて見せた。 「ご苦労だったな、ラクシャータ」 そして、満面の笑みを彼女に向ける。 「当然のことですわ。ルルーシュ様のお使いになる機体は、私が作ると決めていましたもの」 誰がプリンなんかに、と付け加える彼女に、ルルーシュは苦笑を浮かべた。 「ともかく、スザク。軽く付き合え」 実際に動かしてみないと、と彼は付け加える。 「それは良いけど……何をすればいいの?」 「とりあえず、ランスロットで傍にいてくれればいい」 その後は自分で判断をしてくれればいい、とルルーシュは付け加えた。 「わかった。危険な状況になったらフォローすればいいんだね」 スザクはこういって頷く。 「……そのあたりはもう少し婉曲に言え」 自分でもわかっているが、ストレートに言われるとショックだ……とルルーシュはため息とともに付け加えた。 「ごめん」 まさか、そんな風に言われるとは思わなかった……とスザクは真顔で言い返す。 「……俺には才能がない、というのはわかっているがな……」 そう言いながら、ルルーシュは視線を彷徨わせ始めた。 「違いますわ、ルルーシュ様! 決して才能がおありにならないわけではありません。ただ、マリアンヌ様をはじめとした者達が特別なだけですわ」 運動神経は多少劣っているが、そんなのはいくらでもフォローできる! とラクシャータは続ける。それがさらに追い打ちをかけていると彼女は気付いていないのだろうか。 目の前で固まっている彼の姿を見ながら、ため息を吐くしかできないスザクだった。 しかし、感覚ではなく理詰めで操縦できる機体は、ルルーシュとものすごく相性がよかったらしい。直ぐに彼はそれを乗りこなせるようになった。 「……こんなものか?」 一通りの確認をしてルルーシュは呟く。その表情がものすごく満足そうだったのは言うまでもないことだ。 「いっぺんにうまくなろうとしても無理だよ。後は明日にしようよ」 どうせ、まだしばらくいるんだし……スザクは笑う。 「それはそうだが……」 「それよりも、そろそろご飯の準備をしないと……別の意味で怖いことになるよ」 セシルが気を利かせて準備しかねない。そう続けた瞬間だ。 「確かに、それは怖いな」 自分たちだけ別のものを食べる、と言うわけにはいかないだろう。真顔でルルーシュは言葉を返してくる。 「ラクシャータがいるから止めてくれるとは思うが……」 それでも、今日の所は早々に戻った方がいいだろう。彼はそう言って再び手をキーボードへと伸ばす。 「そう言えば、マリアンヌさんの動きは学習させていないのかな、これ」 先ほどのラクシャータのセリフにその名前が出てこなかったが、と思いながらスザクは呟く。 「母さんの動きはまた別次元だからな」 それに、とルルーシュは言い返してくる。 「下手をしたら、C.C.のも混ざっている可能性があるからな」 あいつのはとんでもない動きだったりするからな、と彼は続けた。 「僕の動きも人のことは言えないけどね」 苦笑と共にスザクは言い返す。 「コーネリア殿下の操縦はお手本として一番いいのかもしれないけど」 「そうだな。今度、頼んでみるか」 データーの蓄積が増えれば、それだけ動きが滑らかになるだろうし……とルルーシュも頷いてみせる。 「じゃ、僕はランスロットに……その前に、あれ採って来ていい?」 近くの樹になっているものを見つけてスザクはこう問いかけた。 「何だ?」 「あれ、おいしいよ」 きっと食べ頃じゃないかな? と付け加える。 「ルルーシュも食べたことなかったっけ? アケビの仲間」 「あぁ。あれは、皮も使えたな」 「うん。いためるとおいしいって言っていたよ」 この言葉に、ルルーシュは小さな笑いを漏らす。 「わかった。なら、メニューは一つ決まったな」 ついでにセシルのとんでも料理を回避できるかもしれない。彼はそうも続ける。 「了解。じゃ、直ぐに採ってくるから」 ちょっと待っててね……と付け加えると、スザクはそちらの方向へとかけだした。 アケビだけではなくちょっとした野草なんかも見つけて持ち帰ったときだ。まるで葬式のような空気が周囲を満たしていた。 「……何かあったのか?」 ルルーシュがハッチから下りながら、こう呟いている。 「さぁ」 彼にも想像が付かないのか――それとも、思いあたるものが多すぎるのか――明確な答えを返してはくれない。 「まぁ、放っておけ」 下手に関わると絶対まずいことになるんだ、とルルーシュは言い切る。 「……そうだね」 見なかったことにしよう、とスザクもすぐに頷き返す。 「とりあえず、アケビの中身を食べてしまわないと……」 皮を料理に使えないよね、と彼は続けた。 「それだけで十分なような気はするが……」 それに、ルルーシュはこんな言葉を返してくれる。 「え〜〜っ、足りないよ!」 カレンですらもっとたくさん食べるのに、と思わず言い返してしまう。 「……カレンが特別なだけだろう」 ルルーシュはそう反論をしてくる。 「……マリアンヌさんは?」 アーニャだってルルーシュよりも食べるよ? とスザクはさらに口にした。 「お前は余計なことだけを覚えているな」 ルルーシュはそう言いながらデッキをでようとした。しかし、何故か彼は直ぐに回れ右をしてしまう。 「ルルーシュ?」 今来た道を通っていくのは何故だろうか。 スザクのこの疑問は直ぐに答えが見つかった。視線の先に、あの特徴的な髪型が現れたのだ。 とっさに彼も体の向きを変える。 「スザク。キャンプ料理でいいな?」 「サバイバルでもいいよ。魚が捕れそうな場所を見つけたから」 こんな会話を交わしながら、手近にあった車に乗り込む。そのままエンジンをかけた。 「ルルーシュ! またんかぁ!」 二人を追いかけるようにこんな声が聞こえたような気がする。 「錯覚だな」 「うん。空耳だよ」 二人は口々にこう言い合う。そのまま、車をジャングルの奥へと進めていった。 終
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