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「ジノのバカは死んでも治らない。みんなそう言っている」 ナナリーが来る前に下準備を、と言う理由で顔を出したアーニャがこう言う。 「……みんな、とは誰だ?」 必死に怒りを抑えつつジノが聞き返す。 「ヴァルトシュタイン卿とノネットとドロテアとモニカとベアトリス」 あっさりと彼女は口にする。 「……って、残りはブラッドリー卿と私とスザクとルルーシュだけじゃないか!」 その中でまったく無関係と言えるのはブラッドリー一人だろう、とジノは言い返す。 「ジノが馬鹿なだけ」 また同じセリフを彼女は口にする。 「マリアンヌさま相手に、太刀打ちできるはずがない」 ビスマルクでも最終的にはたたきのめされるのに、と付け加える彼女にスザクは苦笑を浮かべるしかできない。 「アーニャ」 しかし、流石ルルーシュと言うべきか。 「ビスマルクの名誉のために、それは内緒にしておけ……と母さんに言われていただろう?」 しっかりと注意の言葉を口にする。 「そうだった」 言っちゃった、と彼女は慌てて自分の口を押さえた。 「……これは、ジノに記憶喪失になってもらうしかないか?」 ルルーシュが意味ありげな視線をジノへと向ける。 「でも、ジノは石頭」 いったい何をするつもりだったのか。そう言いたくなるようなセリフをアーニャは口にした。まぁ、彼女が何をしたいのか想像できるのは、それなりに付き合いがあるからだろうか。 「……別に実力行使にでなくても、ラクシャータさんに頼めば何か良い方法があるんじゃない?」 アーニャが手を出すのは、ナナリーとルルーシュを守るときだけにしなよ……とスザクは口を挟む。 「どうせ、僕たちの食事はルルーシュの手料理が多いんだし」 言外に、薬を入れてしまえ……と告げた。 「あぁ。その位なら簡単に出来るな」 ラクシャータなら、目的に添うようなものを探してくれるだろう。なかったとしても開発してくれるに決まっている。そう言ってルルーシュは笑った。 「……でなければ、ジノの分だけセシルさんに腕を振るって貰ってもいいかもね」 彼女の料理の破壊力はマリアンヌの攻撃に引けを取らない、とスザクは内心思っている。 「……だが、ロイドは普通だぞ?」 毎日食べさせられているんだろう? とルルーシュが問いかけてきた。 「食べてないよ」 ロイドは、とスザクは言い返す。 「そうなのか?」 「うん。三回のうち一回ぐらいじゃないかな? それも完食していないよ」 後は何とか理由をつけて逃げているらしい。特に今は、ルルーシュの専用機をラクシャータが作ってしまったことでロイドのテンションが異常になっているから、と続けた。 「……なるほど。それでランスロット用の研究費用増額要請が出たわけか」 とりあえず、脱出装置をつけろと言ってあるが……はたしてロイドの耳に届いているかどうか。ルルーシュはそう呟く。 「だが、そう言うことならセシルがよろこんでジノの食事を用意してくれるな」 彼女も気分転換がしたいだろうし。低い笑いと共に彼はそう付け加えた。 この言葉を、いったいジノはどんな表情で聞いているのだろう。そう思って、スザクは何気なく彼へと視線を戻した。 その瞬間、何と言っていいか、わからなくなる。 「……ジノ?」 世界の終わりを目の当たりにした、と言ってしまえば大げさだろうか。どちらかと言えば、今にも泣き出しそうな子供、と言った歩が正しいかもしれない。そんな表情をしていた。 「どうした?」 ルルーシュもこれは想定外だったのだろうか。驚いたような表情をしている。 「ジノの顔、面白い。みんなにも見せないと」 だから、記録……と言ってシャメを撮るアーニャだけは普段と変わらない。 「私は、そんなに悪いことをしたのですか……」 ルルーシュの手料理だけを楽しみに、毎回あれと顔を合わせているのに……と口にするジノの声からは力が感じられない。 「……ジノがバカなのが悪い」 そんな彼の態度もアーニャの同情を変えなかったのか。あっさりと一刀両断されてしまった。 「マリアンヌ様は強い。それはみんなが知っていること」 口をそろえて自分やノネット達が言っていたのに信用していなかったジノが悪い、と彼女は言い切る。 「人の話を聞かないのは確かに悪いことだな」 自分の目で確認しなければいけない。そう言いたいのだろうが……とルルーシュも頷く。 「先輩の言うことは素直に聞いておかないとね」 スザクもこういった。 「……しかし、ジノがこうだとブラッドリー卿も同じようなことを言い出すのかな?」 ふっと疑問がわき上がってくる。 「その可能性はあるな」 それはそれで厄介そうだ……とルルーシュはため息を吐く。 「あいつが相手だと、母さんは絶対に手加減をしないぞ」 ジノは自分たちよりも年下だから、あんな事を言っても手加減をしていたようだが……と彼は続ける。 「やっぱり?」 そう見えたのは自分だけではなかったのか。そう思ってスザクは安心する。 「……あれで手加減……」 だが、ジノだけは違ったようだ。本気でとどめを刺されてしまったらしい。完全に真っ白になっている。 「ナナリーは元気か?」 そんな彼をさっさと見捨ててルルーシュはおそらく一番知りたかったであろう質問を口にした。 「お元気。大丈夫。カリーヌ様と仲良くしている」 クロヴィスもよく様子を見に来てくれている。だから心配はいらない、と彼女は続ける。 「今は、ノネットがお側にいるはず」 このセリフに、それが誰の指示なのかわかってしまった。 「あの子にまた何かあれば母さんがどんな行動を取るか、父上もよくわかっておいでだ」 これはイヤミなのだろうか。 彼のシャルルに対する言動だけは時々理解できずに悩む。 「陛下だけじゃない。軍人達は皆、それを怖れている」 アーニャは即座にこういった。 「ラウンズの半分は、間違いなく、マリアンヌ様の元へ駆けつけるのは目に見えている」 いや、それだけではすまないのではないか。最悪、軍人達の多くもマリアンヌの元へ走りかねない。 当然、ルルーシュだってそうすることは決まり切っている。 「そうなったら、このエリアを独立させちゃう?」 冗談めかしてスザクはルルーシュにこう問いかけた。 「それも良いかもしれないな」 そもそも、このエリアが成立した理由は誰かさんが馬鹿な嫉妬をしてくれたせいだしな……とルルーシュも頷く。 「母さんと藤堂達がいれば、ブリタニア軍だろうと中華連邦だろうと敵ではない」 さらに彼は付け加える。 「でも、本国にいるナナリーが困らないかな?」 そんな状況になれば、とスザクは問いかけた。万が一の時と言うことは彼女は直ぐに動けないと言うことではないか」 「大丈夫。その時は私がナナリー様を連れてくるから」 誰にも文句は言わせない、とアーニャが付け加える。 「きっと、クロヴィス殿下も来ると思う」 されに彼女はそう言いきった。 「……ユーフェミア殿下も来る、と言うことはないよね?」 ふっと思い出してスザクはこう問いかける。 「ない、とは言い切れないな……」 クロヴィスが来るなら自分も、と言い出しそうだ……とルルーシュは嫌そうに口にした。 「ユーフェミア殿下が来るなら、きっと、コーネリア殿下も来ると思う」 そうなったら、確実にブリタニアには勝ち目がないな……とスザクでもわかってしまう。 「……あのですね……」 ため息混じりにジノが口を挟んでくる。 「お願いだから、反逆の相談はやめてくれないか?」 よりにもよって、ラウンズがそんなことをするなんて……と彼は続けた。 「なら、ジノが止めれば良いだけのこと」 違う? とアーニャが問いかける。 「だよね。今まで制止しなかったジノだって同罪だ」 見ているだけだし、とスザクも頷く。 「第一、お前がスザクとアーニャに勝てるはずがないからな」 自分は手を出すつもりはないが、とルルーシュが笑う。 「ルルーシュを狙おうとしても無駄だからね」 わかっていると思うけど、とスザクは一応釘を刺しておく。 「大丈夫。ルルーシュ様に触れる前にあの世に行くから」 やっぱり、アーニャは過激だ。スザクは苦笑と共に「そうだね」と呟いた。 「……結局、私だけが仲間はずれじゃないか!」 要するに、一番気にしていたのはこの事なのか……と誰もが納得をする。 「あきらめろ」 どうしようもない事実だ、とルルーシュはいつもの口調で宣言をした。 「……どうせ、私なんて……」 その瞬間、彼はひざを抱えてうずくまる。 「ジノ、可愛くない」 そんな彼に、アーニャがとどめを刺した。 その後、彼が浮上するまでにどれだけの時間がかかったか。それは彼の名誉のために言わないでおいた方がいいのではないか。 もっとも、ここまで書いては同じ事かもしれない。 終
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