高亥の一件で中華連邦から抗議が来たらしい。 「大丈夫だったの?」 その話を聞いてスザクはルルーシュは問いかけた。 「大丈夫だ。連中が文句を言えない事実を突きつけてやったからな」 あのバカの変態的行為、と言う奴の他にこちらでしていた悪行の数々の証拠を……と彼は言い返す。 「今頃は、あちらの国で内部抗争中だ」 おかげで、ここはもちろん、ブリタニアにちょっかいをかけてくることも出来ないのではないか。そう彼は続ける。 「シュナイゼル兄上が、今のうちに手を打つと言っておいでだし……」 まぁ、これならばナナリーが来ても大丈夫だろう。そう言ってルルーシュは笑った。 「……でも、その代わりに僕たちには帰国命令が出てるんだよね?」 シャルルから、とスザクは問いかける。 「あのくそ親父としては、どちらかを本国に置いておきたい、と言うところだろう」 まぁ、マリアンヌの性格を考えれば仕方がないのか。ルルーシュはあきれたように付け加える。 「それだけじゃなくて、シュナイゼル殿下の思惑もからんでいるんじゃないの?」 ルルーシュを本国に置いておきたいというのには、とスザクは言い返す。 「と言うか、自分の仕事を押しつけたいだけだろう」 あの腹黒は……とルルーシュでなければ即刻処罰されそうなセリフを口にする。 「それでも、まだこちらの話を聞いてくれるだけあのくそ親父よりはましか」 だからこそ、別の意味で厄介なのだが……と付け加えた。 「まぁ、それは最初から知っていたことだけどな」 ともかく、とルルーシュは話題を変えてくる。 「しばらくはナナリーといられるから……一度、会長達の所に行きたいな」 ついでに、神楽耶や藤堂達とも話をしたいが……と言葉を重ねた。 「そうだね。そうすればみんなよろこぶね」 と言うことは、ミレイに話を通してからカレン経由で神楽耶達に連絡だろうか。スザクは脳裏でそう考える。 「ただ、問題は会長だ」 彼女のことだ。歓迎はしてくれるだろう。問題はその歓迎方法だが……とルルーシュはため息を吐く。 「何があっても、男女逆転祭りとこどもの日、水着の日だけは却下するぞ」 そう言う彼に、スザクは苦笑を浮かべるしかできない。 「手料理を作るでクリアできそうだけどね」 それも、と告げる。 「……まぁ、そうだな。久々にナナリーのために料理を作るのは楽しいだろう」 そうなると何がいいだろうか、と彼は考え始めた。 「ナナリーちゃんって、ちらし寿司好きだったよね」 何でも、口の中に入れるまで何が入っているのかわからないのが楽しいのだ。そう言っていた。それと、桜でんぶの甘さが気に入っていたらしい。 「そう言えばそうだが……材料が手にはいるかどうか……」 「大丈夫だと思うよ」 多分、とスザクは言い返す。 「いざとなれば、神楽耶の所に作れる人間がいるだろうし」 「そうだな……」 二人がこんな会話を続けていたのは、実は現実逃避だったりする。 「……そう言うことは、本人がいないところでやりなさい」 ため息とともに第三の声が割り込んできた。 「ですが、殿下。いきなり押しかけてきたのは殿下ですわよ?」 事前に連絡も何もなく、と告げたのはカノンだ。 「そうは言うがね、カノン。口実を作って事前に連絡をしたら逃げ出すに決まっているだろう?」 ルルーシュのことだから、とシュナイゼルは言い返す。 「それも、殿下がルルーシュ殿下で遊ばれたからではありませんかぁ?」 過去の悪行の結果ではないか、と口を挟んできたのはロイドだ。 この三人の前には、しっかりとルルーシュお手製の焼き菓子が置かれている。 どれもこれも、ナナリーのためにルルーシュが暇を見つけては用意していた物でだ。 しかし、そのほとんどがシュナイゼルの胃袋に収まっている。 「……来るな……と言うか、さっさと帰れ!」 ぼそっとルルーシュが呟く。 「いっそのこと、全部押しつけてしまえば?」 シュナイゼル殿下に、とスザクは笑いながら言う。 「そうすれば、その間に食べられた分のお菓子を作り直せるでしょう?」 それらは全部、安全な場所に保管しておけばいい。そう続けた。 「安全な場所?」 「V.V.様の所」 きっと彼ならば、当日まで手をつけないで持っていてくれるだろう。もちろん、彼のリクエストは聞かなければいけないだろうが、とスザクは付け加える。 「そうだな。あの方ならそうしてくださるか」 ついでに、一緒にアッシュフォード学園に行ってもいいだろう。ルルーシュはそう言って頷く。 「不本意だが、あの横ロールに持っていってもらう分も預かって貰えばいいだろうし」 二人でどうぞ、と言えばよろこんでくれるはずだ。彼はそうも付け加えた。 「ついでに、今回のことを愚痴れば楽しいかもしれないな」 キット、あることないこと誇張してシャルルの耳に入れてくれるだろう。何故かは知らないが、V.V.はシュナイゼルが嫌いらしいのだ。 「……ルルーシュ……」 「なんですか? 俺は『それは食べないでください』とお願いしましたよね?」 それなのに、勝手に食べたのは誰だ……とルルーシュは冷たい視線を彼へと向けた。 「なら、本気で止めればよかっただろう?」 「今の俺はただのラウンズですから。ナイト・オブ・ワンでもない限り、帝国宰相のあなたを止められるはずがないでしょう?」 こうなったら、オデュッセウスにも愚痴を言うか……と彼はさらに言葉を重ねる。 「……コーネリア殿下は?」 ナナリーのために、と言う枕詞――という表現でいいのかどうかはわからないが、とスザクは心の中で呟く――が付いているものを取り上げたと知れば、妹至上主義の彼女は無条件でルルーシュの味方になってくれるはず、と言う。 「姉上ならそうだろうな。ユフィに劣らないくらい、ナナリーを可愛がってくださっている」 彼女を悲しませるものであれば、誰であろうと排除してくれるであろう。 「その前に母さんに言ってもいいかもしれないがな」 今すぐ乗り込んでくるかもしれない。彼がそう付け加えた瞬間、シュナイゼルの表情が強ばったのは、スザクの目の錯覚ではないはずだ。 「マリアンヌ様なら、間違いなくやられますよねぇ」 あはぁ、と気が抜けそうな笑いを漏らしながらロイドが頷いている。 「……すまなかった、ルルーシュ……」 苦渋の表情でシュナイゼルが口を開く。 「だから、今回のことはマリアンヌ様には内密に……できれば、コーネリアにも……」 よほどその二人が怖いのか。そう思わずにはいられない。 「わかりました」 あっさりとルルーシュがこういう。その瞬間、シュナイゼルが顔を輝かせる。 「ギネヴィア姉上で我慢しておきます」 しかし、しっかりととどめを刺すところはルルーシュだ。 「……ルルーシュ……」 途端にシュナイゼルの表情がまた苦渋に満ちたものになる。 「何か問題でも? 少なくとも実力行使にでないだけましだと思いますが?」 ギネヴィアのイヤミぐらい、どうと言うことはないだろう? とルルーシュは言い返す。 「生まれたときから聞き慣れているとおっしゃったのは兄上ですよ」 さらに彼はこう付け加える。 「殿下の負けですわね」 「ルルーシュ様の記憶の良さを忘れておいでのようですからね」 ついでに、ご自分がどのような影響を与えてきたのかも……と言ったのはカノンだ。 「カノン……君はいったい、誰の副官かね?」 ため息とともにシュナイゼルは彼に呼びかける。 「もちろん、殿下のですわ」 ただ、と彼は続けた。 「ここでルルーシュ殿下を本気で怒らせて反逆されたら困りますもの」 そんなことになるくらいなら、シュナイゼルを見捨てた方がいい。そう言って彼は微笑む。 「マリアンヌ様や他の方々まで敵に回したくありませんし」 違いまして? と問いかけられて、シュナイゼルは深いため息を吐いた。 「殿下の負けですねぇ」 笑いながら、ロイドが言う。 「……と言うわけで、責任を取ってくださいよ」 勝手なことをした……と微笑むルルーシュはやはり最強かもしれない。そう考えて、スザクは苦笑を浮かべた。 どうやら、彼の恋が実る日はまだまだ遠そうだった。と言うよりも、既に忘れられているのではないか。そんな不安に襲われる。 「いつまで、理性が持つかな、僕」 ぼそっと呟かれた声は、誰の耳にも届かなかった。 終
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