しかし、シュナイゼルの考えはスザクの斜め上を行っていた。 「……まさか、天子とオデュッセウス殿下の婚約を決めるなんて……」 ため息とともにそう呟く。 「いったい、いくつ離れているわけ?」 いいのか、と言外に滲ませながらルルーシュに問いかけた。 「政略結婚とはそのようなものだろう」 だが、彼はこう言ってくるだけだ。 「……そう言えば、陛下とマリアンヌさんの年齢差って……」 いくつだっただろうか。そう呟けば、ルルーシュがにらみつけてくる。 「二十以上だ」 まったく、と彼は吐き捨てるように告げた。 「母さんがあれを今でも『好きだ』と言っていなければ、さっさと離婚するように説得しているぞ、俺は」 もっとも、それも時間の問題かもしれないが……と彼は付け加える。 「それは困るね」 だから、口を挟まないでください。スザクはそう言いたくなる自分を必死にこらえた。 「……だから、なんですか?」 せっかくそらしたルルーシュの意識がまた元の場所に戻る。 「そもそも、これは何なのですか!」 自分はラウンズのはずだ! とルルーシュは叫ぶ。 「何……と言われても、クロヴィスの最新作だよ」 意識が自分の方へと向けられたからだろうか。にこやかな表情でシュナイゼルはこう言い返した。 「俺は皇族戻ったつもりはありません!」 なのに、何故……とルルーシュは問いかける。 「君がラウンズだとちょっと問題があるからだよ」 即座にシュナイゼルがこう言い返してきた。 「どこに、君が蹴落としたあの男の手の者がいるかわからないからね」 しかし、ルルーシュを同席させることはオデュッセウスの希望なのだという。だから、妥協案だよ……と彼は続けた。 「スザク君がいるから、君の身辺警護は問題ないだろうしね」 とりあえず、理屈は通っているのではないか。しかし、それでルルーシュが納得してくれるかどうかと言えば、間違いなく別問題だろう。 「……別に俺がいなくても構わないのでは?」 オデュッセウスの結婚式なら、シュナイゼルが顔を出せば十分ではないか。ルルーシュはそう言う。それよりはナナリーのための準備をしていた方が楽しい、とどこまでもナナリー至上主義の言葉を口にしてくれる。 「……だが、私は話し合いのために兄上の側を離れなければならないからね」 それも頻繁に、とシュナイゼルは口にした。 「こちらはアウェイだし……兄上はお人柄がよろしいからね」 それでも、ブリタニアの第一皇子だ。そんな馬鹿なことはしないと思うが、相手が年端もいかない少女であればどうだろうか。そう彼は続ける。 「それって……」 「……わかっている、スザク。だから、あえて言うな」 ため息とともにルルーシュがそう言った。 「弟妹に優しいのはよいことだと思うが……それが行きすぎるのは、と言うことだ」 本当に、と彼はまたため息をつく。 「それが兄上だからね」 だから、自分たちがフォローしなければいけないのだ。シュナイゼルは苦笑と共にそう言う。 「それに……万が一のことがあったら、君も困るだろう?」 言外にエリア11のことを彼は示唆した。 「……わかりました」 ため息とともにルルーシュはこういう。 「わかってくれて嬉しいよ」 その微笑みをルルーシュが『胡散臭い』と言っていることを彼は知らないのだろうか。それとも、わかっていても微笑んでいられるのか。どちらなのだろう、とスザクは心の中で首をかしげていた。 それにしても、実際に花嫁になる少女を目にすれば『かわいそう』としか思えない。 「神楽耶ぐらいふてぶてしかったら気にしないんだけど……」 彼女なら相手が誰であろうと尻に敷けるのではないか。スザクはそう付け加える。 次の瞬間、何かが空を切った。反射的にスザクは頭を下げる。 「何で避けられますの?」 忌々しい、と 「神楽耶?」 どうしてここに、とルルーシュが問いかける。 「天子様は、わたくしの知り合いですの」 だから、自分がブリタニアの皇族に知り合いがいると知った彼女が、せめて結婚式に同席して欲しいと頼んできたのだ。微笑みながらそう言う。 「てっきり、もっとルルーシュ様とお年の近い方だと思っておりましたが……」 「……クロヴィス兄さんまで、だな。多少難があっても性格的に信用がおけるのは」 後の連中はお薦めしない、とルルーシュが苦笑を浮かべた。 「少なくとも、オデュッセウス兄上なら彼女を大切にするとは想うが……」 確かに、好きでもない相手の嫁になるのは不幸かもしれない……とルルーシュは視線の先にいる二人を見つめながら呟く。 「だが、オデュッセウス兄上がさっさと身を固めてくださらないと、シュナイゼル兄上以下が困るというのも事実だしな」 女性陣であれば気にしないのだろうが、と彼は続けた。 「そうなの?」 スザクは首をひねりながら問いかける。 「ギネヴィア姉上もコゥ姉上も『自分は結婚する気がない。子供が必要なら、適当に作る』と宣言しておられるからな」 ギネヴィアはわからないが、コーネリアには意中の相手がいるのかもしれない。ただ、その相手との結婚が許されないのではないか。ルルーシュは小声でそう付け加えた。 「それこそ、マリアンヌさんに相談したら何とかなるんじゃない?」 「おそらくな」 だが、コーネリアのことだ。先にユーフェミアが結婚しなければ、自分のことを省みようとはしないだろう。スザクの問いかけに、彼はそう付け加えた。 「……どうして、ブリタニアの皇族って……」 こうシスコンなんだ、とスザクは思う。 ルルーシュにしても、ナナリーがきちんと相手を見つけるまでは自分のことを考えないだろう。 ひょっとして、自分の気持ちがなかったことにされているのはそのせいなのだろうか。 「何か言ったか?」 その呟きが聞こえたのか。ルルーシュがものすごく綺麗な笑みと共に問いかけてくる。 「僕を知っている皇族の方は、本当に弟妹を大切にしているね、って思っただけ」 適当に表現を和らげながらこう言い返す。 「コーネリア殿下は、ユーフェミア殿下だけじゃなくって、ルルーシュやナナリーのことも大切にしているでしょう?」 そう付け加えれば、とりあえずルルーシュも納得したらしい。 「まぁ、そう言うことにしておく」 そう言うと、視線をオデュッセウスへと戻した。 「……と言うことですから」 にっこりと微笑みながら、神楽耶がバッグの中からあるものを取り出す。そのまま彼女はそれをルルーシュへと向けた。 「ちょっと……」 神楽耶とスザクが止める間もあればこそ、だ。 かしゃっと音を立ててシャッターが落ちる。 「神楽耶?」 それはルルーシュの耳にも届いたのだろう。何事かというように彼は振り向いた。 「あの方のご命令ですの」 ルルーシュの皇族服姿をメールしてくれと言われたのだ。そう言って彼女は微笑む。 「それと、アーニャさんにも頼まれていますし」 ナナリーに教えるから、と言われては断れない。それは神楽耶だけではなくルルーシュとスザクも同じだ。 「……それ以外は流出させないようにいってくれ。カレンや藤堂。それにラクシャータあたりは妥協するが……」 そう付け加えたところで、ルルーシュは何かを考えついたらしい。 「特に、あのロールケーキには見せないようにしてくれ。兄上達にも、そう頼んでおこう」 本人への嫌がらせになるだろう、と彼は笑いながら続けた。 「……他の方々が知っているのにご本人だけ知らないと怒るだろうね」 なら、ジノには渡さない方がいいな……とスザクも付け加える。 「では、メールにそのようにお願いしておきますわ」 神楽耶はそう言いながら素速くメールの本文を書いていく。それは自分には真似できないことだよな、とスザクは感心してしまう。と言うよりも、それ以前に自分だとキーを壊しかねないような気がするのだ。 ロイドに相談したら、ランスロットが踏んでも壊れないような携帯を作ってくれるだろうか。ふっとそんなことまで考えてしまう。 「……だが、こんな衣装一つで、俺が変わるわけはないんだが……」 何を考えているのか、とルルーシュはため息をつく。 「見ている方が楽しいから、かな? 雰囲気、変わるし」 こう考えると、ミレイがあれほどまでに色々な祭りを考え出した理由も、少しだけわかるような気がする……とスザクは続ける。 「特に男女逆転祭りの時とか」 「今すぐ忘れろ!」 即座に彼はこう怒鳴りつけてきた。 「何で?」 既にみんな知っていることなのに、とスザクは言い返す。 「そう言えば、ルルーシュ様がお振り袖をお召しになったときの写真が残っておりましてよ」 「あ、それ欲しい。焼きまして」 即座にそう言ってしまう。 「その位はよろしいですわよ」 もちろんと彼女は笑った。 「……二人とも……」 しかし、ルルーシュにしてみれば消してしまいたい過去なのだろうか。しかし、マリアンヌがいる以上、無駄だと思うのだが……とスザクは心の中で呟く。 「何の話かな? ずいぶんと楽しそうだね」 それを聞きつけたのだろう。オデュッセウスと天子が歩み寄ってくる。 「とても楽しいことですわ」 神楽耶が知り合いだという天子に喜々として説明を始めた瞬間、ルルーシュがその場を逃げようとしたのはとても懸命なことだった。もっとも、それは成功しなかったが。 その後、彼がどのような目にあったのかは、言わなくても想像が付くだろう。 終
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