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彼等が画策しているのは、てっきり、オデュッセウスの取り込みだと思っていた。 しかし、そんなことをする頭もなかったらしい。 「まさか、武力行使とはね」 あきれるしかないな、とルルーシュは呟く。 「まぁ、こちらには有力な皇族が三人もいる。あちらにしてみれば丁度いい人質が転がり込んできた、と言うところだろうね」 もっとも、とシュナイゼルが笑う。 「こちらも無防備に飛び込んできたわけではないのだが……」 一応、それなりの兵力は備えてきたのだが、と彼は続ける。 「まぁ、あちらにしてみれば『本の手勢』としか思えない人数なのでしょうが」 スザクを含めてラウンズが三人と、シュナイゼルとオデュッセウスの親衛隊だけだ。 だが、とルルーシュは笑う。 「ラウンズ三人だけで、あれらの相手は十二分以上に出来るでしょう」 もっとも、簡単に、とはいかないだろう。 「……蜃気楼で、俺も出撃をします」 あれであれば、彼等のフォローをするのも難しくはない。何よりもあの機体には絶対防御がある。だから、アヴァロンを守るにも都合がいいのではないか。そう考えて、ルルーシュはそう告げる。 「君が?」 危ないよ、とオデュッセウスが口にした。 「大丈夫です。俺でも母さんの攻撃を受け流せるように開発された機体ですから」 あの中にいれば、エナジー・フィラーが尽きるまでは確実に……と続ける。 「そう言う話だったね、そう言えば」 ロイドが悔しがっていたね、とシュナイゼルは頷く。 「だが、今回はおとなしく見ていなさい」 君はラウンズではなく皇族としてここに来ているのだから、と彼は続けた。 「ですが……」 「何。大丈夫だよ。彼等に任せておきなさい」 黙ってみていることも時には必要だよ、とシュナイゼルは笑う。 「……わかりました」 自分のスタイルではない。だが、この場の指揮官は彼だから……とルルーシュは引き下がる。 「しかし、君はマリアンヌ様やコゥに考え方が似ているね」 スザク君が心配するはずだ、とシュナイゼルがいきなり口にした。 「兄上?」 いきなりなにを言い出すのだろうか。そう思いながらシュナイゼルの顔を見つめる。 「キングが真っ先に動く。それは彼女たちが指揮を執るときの基本だろう?」 そして、彼女たちはそれだけの実力を持っている。だから、問題はないのかもしれない。しかし、ルルーシュの操縦技術はあくまでも平均レベルなのだ。だから、無理はいけない、と彼は付け加える。 「無理はしていません。そのために開発させた機体ですし……第一、あれが傍にいますから」 自分の側に寄ることができるものはいない。そう言ってルルーシュは笑う。 「……本当に、スザク君が時々気の毒になるよ」 そうは思わないかい、カノン……と彼は己の副官へと呼びかけた。 「それについて、コメントは差し控えさせていただきますわ、殿下」 苦笑と共に彼がそう言い返してくる。男性にしては妙な口調だが、その優秀さは誰にも引けを取らない。だから、気にすることではないか……とルルーシュは思う。 「その分、敵に回った方々が不幸かもしれませんけど」 八つ当たりをしても構わない相手だろうし、とカノンは付け加えた。 「……別に、俺は、あいつのことをないがしろにはしていないつもりなのですが……」 それよりも優先しなければいけないことがあっただけで……とルルーシュはいいわけをするように告げる。 「暇なときは、誰かさんが邪魔してくださいましたし」 それだけではない。スザクとそう言う雰囲気になりそうなときに、何故か、乱入者がいたのだ。そう考えれば、間違いなくあの時期は監視されていたのだろう。犯人はビスマルクあたりだろうか。 「……あの方か……」 シュナイゼルもそう言って苦笑を浮かべる。 「本当に、そんなことばかりしているから、マリアンヌ様がいつまで経ってもお帰りになってくださらないのに」 マリアンヌが認めたのだ。多少のことには目ををつぶればいいのに。そう言ってきたのはオデュッセウスだ。 「まったく……ご自分のことを棚に上げて、子供達にはあれこれ押しつけるというのは間違っていると思わないかい?」 さらに彼はそう付け加える。 「……オデュッセウス兄上?」 何をおっしゃりたいのか、とルルーシュは言外に問いかけた。 「私にだって、好きな相手の一人や二人、いたと言うことだよ」 もっとも、ブリタニアの第一皇子である以上、政略結婚からは逃れられないことはわかっていたが……と彼は続ける。 「逆に、ギネヴィアをはじめとする娘達には害虫は近づけないと騒いでおいでだそうだからね」 その前に、自分のことを省みて欲しいよ……と言う言葉に、思わず頷いてしまう。 「なら、そろそろご退位いただいたらいかがですか?」 時期皇帝はオデュッセウスでもシュナイゼルでも、なりたい方がなればいい。二人のどちらがなっても協力はする……とルルーシュは言う。 「そうなった場合、あのロールケーキは母さんが引き取るでしょうし」 彼女のことだ。C.C.やV.V.と共に彼をいじって楽しむのではないか。心の中でそう付け加える。 「それなら、いっそ、気味が皇帝になってもいいかもしれないね」 自分が宰相でルルーシュが皇帝。その立場なら文句はないよ、とシュナイゼルが微笑む。 「そうだね。私よりも君達の方が皇帝に向いているだろうね」 さらにオデュッセウスまでこう言ってくる。 「それならば、シュナイゼル兄上がなってください」 自分はごめんだ、とルルーシュは言い返す。 「まぁ、それに関してはまた後で相談しよう。コーネリアやクロヴィスも交えて」 それよりも、あちらが耐えきれなくなったようだね……と苦笑混じりにシュナイゼルが言った。 「そうだね。もう少し我慢強いかと思ったが」 「我慢強ければ、こんな無謀なことはしないと思いますよ」 結婚した後にオデュッセウスに自分たちの都合のよい考えを植え付けていけばいい。その方法なんていくらでもあるのだから、とルルーシュは言った。 「目先の利害しか見えていないんでしょう」 さらに彼はそう付け加える。 「そうだろうね」 ともかく、とシュナイゼルは表情を引き締めた。 「これで口実は出来た。では、遠慮なく反撃をさせて貰おう」 言葉とともに彼は悠がに手をふる。その瞬間、今まで大人しくしていたスザク達の機体が一斉に相手に襲いかかった。 圧倒的、と言いたいところだが、中に一機だけ信じられない動きをする機体があった。 「……誰だろうね、あのパイロットは」 シュナイゼルが感心したように呟く。 「中華連邦にあんなパイロットがいたとは」 顔をしかめながらルルーシュはそう言った。あのスザクが押されているほどの相手だ。ひょっとしたら、一人で戦局をひっくり返してしまうかもしれない。 「母さんみたいな人間が、そうごろごろしているはずはない、と思っていたのに」 あのパイロットであれば互角の戦いが出来るのではないか。そんなことまで考えてしまう。 「ともかく、何とかしないと」 いったいどうすればいいか。おそらく、スザク一人では相討ちに持ち込むのが精一杯だろう。だが、他のラウンズが的確なフォローを入れればどうだろうか。 「シュナイゼル兄上」 そう考えながら、彼に声をかける。 「……さて、大人しく指示に従ってくれるかどうか、それが問題だね」 どうやら彼も同じ事を考えていたらしい。こう言い返される。 「やはり、蜃気楼ででましょうか?」 精密射撃は無理かもしれない。だが、スザクにこちらの指定したポイントにあれを追い込んで貰って撃墜することは出来るのではないか。そう考えながらルルーシュはそう告げる。 「ダメだよ。君は今回、出撃は禁止だ」 「ですが!」 このままでは、スザクが……と思ったときだ。 「……殿下! 高速でこちらに接近してくる機体があります!!」 伏兵か、と誰もは考える。それでも、それを表情に出してはいけないのが指揮官だ。 「どこのものかな?」 わかるか、とシュナイゼルが聞き返す。 「識別信号はUnknownです!」 ただ、と完成をタントしているものが続ける。 「データーベースに該当のナイトメアフレームがあります」 この言葉を耳にした瞬間、ルルーシュの脳裏にいやな結論が導き出された。 「ジノに『目を離すな。動いたら知らせろ』と言って置いたのに、それも出来ないのか、あいつは」 その呟きが耳に届いたのだろう。 「……まさか……」 あの方か? と彼も呟く。 「彼女ならあり得るだろうねぇ」 どこかのんびりとした口調で告げたのはオデュッセウスだ。実は彼が一番大物なのではないか、と認識を新たにしてしまったルルーシュだった。 結論から言えば、戦闘は乱入してきたマリアンヌの操るガウェインの一撃で終了した。 『このお礼はルルーシュの手料理でいいわよ。ナナリーが来たときにね』 この一言を残してまたどこかに消えてしまったガウェインの後を追いかけさせるべきかどうか、ルルーシュは悩む。だが、それが出来そうなものが誰もいなかった、と言うことも否定できない。 「まぁ、被害が大きくなくてよかった、と言うことにしておこう」 しかし、ここでマリアンヌに助けられるとは……後で何を押しつけられるかわからない……とシュナイゼルはシュナイゼルで呟いている。 「とりあえず、母さんの好きなメニューを書き出しておくか」 ついでにナナリーの、だろう。それで、当面は大人しくしていてくれるだろうか。そんなことも考えてしまう彼だった。 終
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