久々にゆっくりと出来る。
 そんなことを考えながら、スザクは木刀を手にした。そのまま、庭へと出て行く。
「スザク」
 そんな彼の背中にルルーシュの声が投げつけられる。
「何?」
「後一時間ほどで朝食だからな」
 それまでに戻ってこい。そう彼は言う。
「わかっているよ。ちょっと素振りをしたいだけだから」
 ちゃんと汗を流してからテーブルにつくよ、とスザクは言い返す。
「ちょっと多めに用意してもらえると嬉しいかも」
 そして、こう付け加える。
「わかっている」
 それに笑いと共にルルーシュは頷いてくれた。
「安心しろ。ご飯はこれから炊くからな。それとみそ汁を多めにしておけば、お前がどれだけ腹を空かせていても大丈夫だろう」
 この言葉に、スザクは苦笑を返すしかできない。それでもご飯とみそ汁という言葉には別の意味で頬がゆるむ。
「そうだね。後は卵があれば十分」
 卵かけご飯なんて、いつから食べていないだろう。ついついそんなことも考えてしまう。
「三杯目なら許可してやろう」
 そう言いながらルルーシュはさらに笑みを深めた。
「じゃ、しっかりとお腹をすかせてくるよ」
 こんな風にほのぼのとした朝も久しぶりだな、と思いながらスザクが足を踏み出したときだ。誰かが不穏な視線を向けてきているのがわかる。
「どうした?」
 中途半端な体勢で止まってしまった彼に何かを感じたのだろう。ルルーシュがこう問いかけてくる。
 そんな彼に、昔、強引に教えられた合図を使って『危険』と告げた。彼はそれだけで状況を把握したらしい。
「まぁ、いい。早めに戻って来いよ。遅れたら朝食はないと思え」
 当たり障りのない言葉を口にして中へともどっていく。
 これで、少なくとも外から狙撃されることはない。そして、セキュリティのレベルを上げているはずだから、迂闊に侵入は出来ないはず。後は、誰か手が空いている人間ラウンズを呼び出してくれればいいのだが、と思いながら木刀を握り直す。
「殺すのはまずいけど、ケガぐらいはいいよね」
 小さな声でそう呟く。
「ということで、さくさくと捕まえますか」
 そして、目的を確認しないと……と思う。
 そもそも、ここは許可を受けた人間以外、足を踏み入れることが出来ない。そして、自分もルルーシュも、今日誰か来るとは聞いていないのだ。
 だから、遠慮はいらないと思う。
「朝の鍛錬のつもりが、本番になっちゃったね」
 苦笑と共にそう付け加える。そのまま、彼の脚は思い切り地面を蹴った。

 十分とかからずに片手ほどの数の不審者が地面に転がった。その全員が、銃を携帯している。それだけでも、スザクの行為は認められると言っていいだろう。
「とりあえず、縛り上げておかないとダメだよね」
 何かいいものはあるだろうか。そう呟いたときだ。
「スザク」
 背後からルルーシュの声が響いてくる。
「これが必要だろう?」
 その手にはロープが握られていた。
「うん、そうだね」
 ありがとう、といいながら彼の手からそれらを受け取る。そして、手早く転がっている連中を縛り上げた。
「手慣れているな」
 スザクのその一連の作業に感心したようにルルーシュが言う。
「一般兵時代にさんざんやったからね」
 やらされた、といった方が正しいのか。どちらにしろ、あそこで経験を積んだからここで役に立っているのだろう。
「それで、これはどうするの?」
 ここに転がしておくのか、と言外に問いかける。
「さっき、シュナイゼル兄上に連絡を取ったからな。すぐに誰かが拾いに来るだろうが……」
 さて、どうしたものか……と言いながらルルーシュは転がっている男達を見つめる。
「スザク。もう一仕事頼んで構わないか?」
 不意に彼はこういった。
「体力勝負ならね」
 そう言って笑えばルルーシュは満足そうに頷いてみせる。
「なら、その右から二番目の男だけでいい。中に運んでくれないか?」
 おそらく、それが今回の指揮官だろう……と彼は続けた。
「他の連中が処分されても、そいつさえ生き残っていれば誰の命令なのか、調べることが出来るはずだ」
 というよりも、シュナイゼルであれば調べ上げるに決まっている。彼はそう続けた。
「わかった」
 一人残っていればいいよね、とスザクも同意をする。
「じゃ、さっさと運んじゃおうか」
 そして、言葉とともに彼の脚を掴んだ。
「スザク?」
「こんな奴、丁寧に抱えて運んでやる必要はないだろう?」
 だから、引きずっていこうかと思って……と笑う。
「なら、もう一人、赤い服の奴も引っ張っていけ」
 木刀は持っていってやるから、と彼は続けた。
「了解。間に合うようなら、他の三人も引っ張りに来る?」
 不本意だけど、とスザクは問いかける。
「そうだな……お前に任せるが……」
 見えるところまで持ってきてくれると後が楽か、と彼は言う。
「了解。なら、棒とロープを探さないと」
 めざし方式で棒にくくりつけて引っ張ってくる方が楽だ。古タイヤを引っ張りながら走るのと同じだし、と言い返す。
「ふむ……いっそ、その光景を撮影しておくか」
 何かに使えるかもしれない。真顔でそう言い返す彼と自分、どちらが鬼畜なのだろうか。一瞬、スザクは悩む。
 だが、すぐに『どうでもいいか』という結論に達する。
 別に自分たちの関係に代わりがあるわけではないし、その他の人間の事なんて気にする必要はないだろう。第一、不審者にそこまで気を遣う必要はないはずだ。
「いいね」
 何よりも、ルルーシュのことだ。それを交渉材料に使おうと考えているに決まっている。ならば、自分が口を出す必要はない。
「じゃ、その準備もしないと」
 いっそのこと、全員の足にロープをつけて引きずって見せようか? と付け加えくわえればルルーシュは楽しげに笑いを漏らした。

 しかし、とスザクは思う。
「一番、鬼畜なのって……シュナイゼル殿下?」
 思わず口に出してしまった呟きが耳に届いたのだろうか。
「確かに、それは否定できないな」
 ルルーシュが苦笑を浮かべながら頷いてみせる。
「もっとも、兄上が鬼畜ぶりを発揮するのは、敵と認定した相手だけだがな」
 大切だと思う相手とどうでもいい相手には見せない。そう付け加える。
「なら、陛下は……」
 シュナイゼルに敵認定されているのか、とスザクは呟く。
「……気にするな。あれはただのコミュニケーションだ」
 いじめられて喜んでいるのとは違うが、構って貰って嬉しいぐらいは考えているはずだ、とルルーシュは言い返してくる。そうでなければ、マリアンヌを未だに待っていられるはずがないだろう? と彼は続けた。
「ルルーシュにもつれない態度を取られているしね」
 納得、とスザクは頷く。
「あれが変態なだけだ」
 即座にルルーシュが反論をしてくる。
「まぁ、何でも叶えられる立場にいらっしゃるんだから、少しぐらいは思い通りにならないことがある方がいいんじゃないの?」
「そうだな」
 確かに、と彼は頷く。
「ともかく、腹が減っただろう。遅くなったが朝食にしよう」
 こう言うときに日本食は楽だな、と言いながらルルーシュは体の向きを変える。暖めればいいだけだし、と彼は続けた。
「うん」
 言われた瞬間、空腹を思い出す。
「そうだね」
 その前にシャワーを浴びてこないと、とスザクも頷く。
「十五分で支度をしてこい」
「わかった」
 ルルーシュの言葉に、スザクは自室へと駆け込んだ。

 今回の黒幕も、あの后妃の件とつながっているらしい。シュナイゼルがそう教えてくれたのは、翌日のことだった。





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