「……ルルーシュが狙われたって……」
 本当なのか、とユーフェミアが駆け込んでくる。
「落ち着きなさい、ユフィ」
 そんな彼女に真っ先に声をかけたのはギネヴィアだった。
「どうやら、父上に押しつけられた后妃を追いだしたのが原因らしいわね」
 といっても、男の后妃では意味がない。何よりも、あちらが馬鹿な誤解をしていたのが原因だろう……と彼女は続けた。
「お姉様……」
 しかし、とユーフェミアは口を開こうとする。
「大丈夫よ。今回のことでルルーシュがラウンズをやめる予定はないそうだから」
 そう言ってギネヴィアは微笑む。
「しかし、陛下には少し考えていかないといけないだろうね」
 ため息混じりにオデュッセウスがそう言う。
「でなければ、またあの子達の上に厄介ごとが降りかかりかねない」
 二人セットであれば、たいがいのことは避けられるだろう。しかし、万が一のことがあればマリアンヌがどう出るか。そう考えるだけで怖い。彼はそう続けた。
「何よりも、あの子が本国にいてくれると嬉しいからね」
 色々と、と彼は微笑む。
「否定しませんわ。あの子は親しくしているものにはとても優しいですもの」
 困っているときにはさりげなく手助けをしてくれるのが彼だ。しかも、シュナイゼルに劣らないくらいの有能さを見せている。だからこそ、また家出されると困る……とギネヴィアも頷く。
「そう言うことだから、陛下にはきちんと反省して頂きましょう」
 色々な意味で、と微笑むギネヴィアが少し怖い。
「だから、貴方も協力するのよ?」
 この言葉に、とりあえずユーフェミアは頷いて見せた。
「ですが、お姉様。わたくしは何をすればいいのでしょうか」
 彼女たちのようにあれこれ出来ないのだが、と言外に付け加える。
「そうね。まずはこの事をコーネリアに連絡をしなさい。それと、ルルーシュが気付かないように意識を惹きつけて起きなさい。カリーヌを巻き込めば確実だわ」
 その間に、こちらは必要なことを行う……と彼女は微笑む。
「貴方も、その方がいいでしょう?」
 気分的に、とと彼女は続ける。
「はい」
 ルルーシュを振り回すことなら得意だ。そして、二人の公認であれば、彼も文句は言えないだろう。
 いっそ、この機会を使ってスザクに恩を売っておくべきだろうか。そんなことも考えていた。

 そのころ、二人はこの前の一件を調べていた。
「なんか引っかかるんだよね」
 書類と格闘しながら、スザクはこう呟く。
「何が、だ?」
 手を止めることなくルルーシュが聞き返してきた。
「何がって言われると困るんだけど……」
 うまく表現できないが、何かが引っかかっているのだ……と続ける。
「野生のカン、という奴か?」
 昔、神楽耶が口にしていた……とルルーシュは視線を向けてきた。
「否定できないかも」
 何かが引っかかる。しかし、その正体はわからない。そんな感覚は、過去に何度か経験したことがある。そのたびに厄介ごとが持ち上がったことも事実だ。それを見て、神楽耶がそう言ったのはいつだっただろうか。
「なんて言うか……神楽耶に連絡を取った方がいいのかも」
 彼女のことを思い出した瞬間、何かがつながったような感覚がある。ひょっとしたら、と思いつつそう付け加えた。
「彼女なら、何かを知っていると?」
「うん。なんて言うか……おそらく、ブリタニアだけの問題じゃないような気がするから」
 ルルーシュのことを知らないまでも、彼とシャルルが出来ていると言い出すものは、普通ならいないはずだ。彼がどれだけマリアンヌを愛して――ついでに恐がって――いるかを知らないものはいないはず。
 なのに、今回のような事件が起きた。
 いくら、マリアンヌの顔を見たことがない貴族が増えてきたとはいえ、あり得ないことではないか。
「だって、軍人ならともかく、貴族なら親戚にマリアンヌさんの顔を知っている人間がいたとしてもおかしくないだろう?」
 スザクはさらに言葉を重ねた。
「確かに、そうだな」
 実際、今回のことをしたバカの親戚はかなり焦りまくっているという。そして、他の者達も最近家督を継いだ者達にマリアンヌの事をたたき込んでいるとノネットが楽しげに教えてくれた。
 同時に、彼女は何故、そいつらがルルーシュの事を誤解したのか、と首もひねっていた。
「そう言えば、あそこは投資に失敗して借金があるらしいぞ」
 小さな笑いと共にルルーシュはそう告げる。
「……国内の?」
「いや、国外だろう」
 スザクの問いかけに、すぐに彼はこう言い返してきた。
「国内ならば、いくらでももみ消せるからな」
 それ以前に、貴族となれば企業の方が失敗させないようにするはずだ。
 スザクには理解できないが、ブリタニアでは普通らしい。
「……それって、中華連邦じゃないよね?」
 ふっとあることに気が付いて、ついついこういう。
「可能性は否定できないな」
 ルルーシュは頷いて見せた。
「そのあたりも調べさせるか」
 さらに彼はこう付け加える。
「じゃ、僕は神楽耶に連絡を取ってみるよ。あいつの顔写真のデーター付きで」
 彼女は今でも国外に色々と伝手がある。本人が知らなくても知人が知っている可能性はあるだろう。
「問題は、マリアンヌさんにばれないかどうかだけど……なんて言えばいい?」
「そうだな……俺の周囲を嗅ぎ回っている、とでも言えばいいか」
 何か、足を引っ張るネタを探しているらしい。それに関しては嘘ではないから構わないだろう。ルルーシュはそう言った。
「わかった」
 じゃ、そうする……とスザクが頷いたときだ。外から何か声が聞こえてくる。それも、相手を制止しているような、だ。
「……何かあったのかな?」
 小さな声で、そう呟く。
「スザク?」
 どうかしたのか? とルルーシュが問いかけてくる。ということは彼には聞こえていないのか。
「なんか、外でもめているみたい」
 ものすごく、いやな予感もするんだけど……と苦笑と共に付け加える。
「そうだな」
 確かに、とルルーシュも頷く。
「ここには必要のない人間は入ってこない。許可のない人間も、だ」
 そして、普通、ここに来なければいけないような人間は事前に許可を得ている。それなのにもめていると言うことは、許可がない人間が強引に押し入ろうとしているのではないか。
 しかし、その相手を強引に排除できないらしい。
 それはきっと、相手が身分のある存在だから、ではないだろうか。
「……そう言えば、ユーフェミア殿下は本国に戻っておいでなんだよね?」
 恐る恐る、そう問いかける。
「そう言えば……そう言う話だな」
 今、コーネリアに任されているのはかなり危険なエリアだ。だから、彼女もユーフェミアを守りきれないと判断したのだろう。ユーフェミアが戻ってきているという。
「……まさかと思うけど……」
「あり得ない話ではないな」
 もし、そうだとするならば、彼女のことだ。間違いなくここまで押しかけてくるだろう。
「スザク。早々に神楽耶へメールを送ってくれないか?」
 それが終わったら逃げ出すぞ、とルルーシュは言ってくる。
「わかった」
 といっても、問題はどの資料を添付するか、だ。
「添付用のファイルは、これでいいだろう」
 スザクの気持ちを読み取ったかのように、ルルーシュがスザクの使っている端末へと資料を送ってくる。
「ありがとう」
 神楽耶相手なら、文面は最低限でいい。だから、とスザクは手早く事情を説明する文字を打ち込んでいる。そして、そのままさっさとメールを送信する。
「ルルーシュ、終わったよ」
 そのまま、端末の電源を落とすと同時にこういう。
「なら、逃げるか」
 言葉とともにルルーシュは窓際へと歩いていく。しかし、ここは二階だ。自分ならばともかく、彼には飛び降りる事も出来ないはずだ。
 もっとも、それくらいは障害ではない。
「スザク」
 そう言って、ルルーシュは彼を見つめてくる。
「了解」
 足早に彼の傍に歩み寄ると、スザクはその痩躯を両腕でしっかりと抱き抱えた。
「しっかり掴まっていてね。それと、口は閉じていて」
 舌を噛むかもしれないから、と続ける。
「わかった」
 降りたら、そのままシュナイゼルの元へ向かってくれ……とルルーシュは言う。
「うん」
 頷きながらスザクは窓枠に足をかける。
「ルルーシュ!」
 同時にドアが開くと共に華やかな風が飛び込んできた。
 だが、それが二人を捕まえる前にスザクは窓枠を蹴る。
「待って!」
 その声が耳に届いたときにはもう、スザクはルルーシュを抱きしめたまま駆けだしていた。





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