「……大変でしたわね」
 こう言いながら、カノンが二人の前にお茶を差し出してくる。
「とりあえず、ここならゆっくりとお仕事できますわ」
 さらに彼はこう言って微笑んだ。
「すまない」
 ルルーシュはそう言い返す。
「いえ。お気になさらないで。端末はすぐに用意できますわ」
 笑みを深めるとカノンは言葉を口にする。
「真面目にお仕事をされている方の手助けをするのは大好きですから」
 まして、それが国のためになることであれば……と続けた。
「しかし、ユーフェミア殿下は、何故、ルルーシュ様の元に行かれたのでしょうか」
 彼女であれば、仕事場ではなく自宅に押しかけるのではないか。カノンはそう続ける。
「確かに……今までのユーフェミア殿下なら、そうしたよね?」
 スザクもこういった。
「ルルーシュの仕事を邪魔しちゃいけないって、いつもそう口にしていたような気がするんだけど」
 自分の記憶違いだっただろうか、とそのままルルーシュの顔をのぞき込んだ。
「いや。いつもはあそこまで強引なことはしない」
 忙しいとわかれば素直に引き下がっていた……と彼は言い返してくる。
「特に、今回のことはユフィにはもちろん、ナナリー達にもまだ教えたくはないから、絶対に通すなと命じていた」
 それなのに、とルルーシュは考え込む。
「……ひょっとして、どなたかにそそのかされたのかもしれませんわね」
 彼女の性格を考えれば、言いくるめるのは簡単ではないか。カノンがこういう。
「特に、うちの殿下とか」
 さらに付け加えられた言葉に、思わず納得してしまった。
「……確かに、シュナイゼル兄上なら、その位簡単だろうな」
 しかし、とルルーシュは付け加える。
「そんな暇を、君が兄上に与えているとは思わないが?」
 あったとしても、カノンが把握していないはずがない……と彼は言い切った。
「あら。お褒めの言葉と受け取っておきますわ」
 でも、たまに裏をかかれてしまう……と彼は続ける。
「それでも、今回はそんな気配はなかったと思いますわ。この前の後始末で手が回らなかったようですもの」
 叩いたら埃が出まくっている。そう言われても思わずスザクは頷いて見せた。
「こちらもな。それについて日本に問い合わせをして返事を待っていたところにあいつが飛び込んできたからな」
 下手に知られるとマリアンヌに筒抜けになる。それを避けるために手を回しているのに、とルルーシュはため息をついた。
「あらあら。それならば、端末の準備を急がせた方が良さそうですわね」
 今、発破をかけてきますわ……と口にしながらカノンがきびすを返そうとしたときだ。
 目の前のドアがいきなり開く。
「ここにいたのか、カノン」
 同時に鮮やかな金髪が室内に滑り込んでくる。
「殿下? どうなされましたの?」
 驚いたようにカノンが問いかけた。
「ちょっと困ったことに……ルルーシュにスザク君?」
 ここでようやく彼らの存在に気が付いたのか。シュナイゼルが驚いたように二人の名を呼んだ。
「どうしてここに?」
 さらに彼はこう付け加える。
「ユーフェミア殿下にお仕事を邪魔されそうになられたのですわ」
 だから、ここに避難をしてきているのだ……と二人の代わりにカノンが説明をした。
「殿下にお話をしようと思いましたら、お電話中でいらっしゃいましたので」
 自分の権限でここを用意したのだ、と彼は続ける。
「……あぁ、あの時か」
 それで何かを思い出したのだろう。シュナイゼルは小さなため息をつく。
「タイミングが悪かったのだね」
 そんな彼の言葉から何かを感じ取ったのだろう。ルルーシュが微かに眉根を寄せた。
「どなたからの電話だったのですか?」
 言外に、何の相談だったのか……と彼はその表情のまま問いかけている。
「……ルルーシュ?」
 何の話かな、とシュナイゼルが聞き返してきた。スザクにはその表情はいつもの彼のそれと変わらないように見える。だが、ルルーシュには違ったらしい。
「オデュッセウス兄上とギネヴィア姉上。提案者はどちらですか?」
 さらに彼は言葉を重ねる。
「本当に、聡いね、君は……」
 ため息とともにシュナイゼルが白旗を揚げた。
「簡単ですよ。ユフィを手玉に取れて、なおかつ、貴方を困らせられるとすればあの二人のどちらかしかいませんから」
 もう一人、いないことはない。
 だが、その人物の場合、シュナイゼルを含めた者達のうち誰かが止めるだろう。ルルーシュはさらにこう言葉を重ねた。
「とりあえず、ノーコメントにさせてもらえるかな?」
 苦笑と共にシュナイゼルが問いかけてくる。
「これ以上、俺の仕事の邪魔をされなければ、構いませんよ」
 今、マリアンヌの耳に入ってはいけないことを調べているから……とルルーシュは言い返す。
「カノンにも言いましたが、ヒントが日本にありそうなのですよ。しかし、それを握っている人間が母さんとも顔見知りですから」
 フォローが遅れれば、マリアンヌの耳に入りかねない。そうなったときに、誰が責任を取るのか。ルルーシュのこの言葉に、流石のシュナイゼルも頬をひきつらせる。
「何故、そう言うことに……」
「あの元后妃の後見を洗っていたら、あちらとの繋がりらし着物が見えてきましたので。知っていそうな人間に問いかけただけです」
 一応、マリアンヌには内緒にしておいて欲しい。そう言っておいたし、普段は別行動をしている人間だから、大丈夫ではないか。
 しかし、あちらはあちらで行き来がある。
 万が一の可能性は否定できない。
「とりあえず、無難なところしか教えていませんが……何と言っても、相手はマリアンヌさんですから」
 それだけの資料でも何かを察するかもしれない、とスザクも言う。
「否定は出来ないね」
 それにシュナイゼルも頷いて見せた。
「相手はマリアンヌ様だ。それだけに、知られたときが怖い」
 今回は、ルルーシュが絡んでいるからこそ、なおさら……とシュナイゼルはさらに言葉を重ねる。
「だから、ルルーシュを巻き込めばいいものを……余計な気を回されるから」
 さらに付け加えられたのは愚痴だろうか。
「……兄上?」
 知っていることがあるなら、さっさと白状しろ。ルルーシュは言外にそう告げる。
「どうやら、何かを計画されているようなのだけれどね。君達を蚊帳の外においておきたいらしいのだよ」
 ユーフェミアをそそのかしたのもそのせいだろう。あっさりとシュナイゼルは教えてくれた。
「……余計なことを……」
 知らない方が厄介だと考えないのか、とルルーシュが呟く。
「まぁ、みなさん、気を遣ってくださったんだから……方向は間違っていても」
 慌ててスザクはフォローしようと口を開いた。しかし、慌てすぎて言わなくてもいいことまで言ってしまったような気がする。
「そう言うことにしておくか、とりあえず」
 余計な事という意見は取り消さないが、とルルーシュはため息とともに口にした。
「とりあえず、お前は今すぐにメールの確認を頼む」
 神楽耶から何か返信が来ているかもしれないから。この言葉にスザクはとりあえず頷いて見せた。
「カノンはすまないが、すぐにパソコンとネットの準備をしてくれないか?」
 一刻を争うような事態ではないと思うが、少しでも早い方がいい。そう言われて、彼は当然だとに微笑んで見せた。
「兄上は、他にも何かご存じのようですから、きっちりと説明して頂きましょう」
 逃げだそうとしていたシュナイゼルの動きを止めるようにルルーシュはこう付け加える。
「そうですわね、殿下」
 それだけではない。言葉とともにカノンがまさしくシュナイゼルの襟首を掴んだ。
「私も色々とお聞きしておかないと、フォローのしようがありませんわ」
 にっこりと微笑む彼の笑顔が怖い。
 ひょっとして、彼とルルーシュの組み合わせは高位の皇族よりも強いのではないだろうか。ふっとそんなことを考えてしまう。
「カノン……君まで……」
 実際、あのシュナイゼルが逃げ腰になっている。
「……カノンさん……シュナイゼル殿下は確保しておきますから、とりあえず、パソコンを……」
 この二人がタッグを組んだ以上、どれだけの時間を彼の尋問にかけるかが想像できない。だから、とスザクはこう言った。
「あら。そうだったわね」
 では、お願いね……と言い残すとカノンはシュナイゼルの襟首から手を放す。もっとも、その時にはルルーシュがしっかりと彼の首元を掴んでいたが。彼の腕力を考えると制止になるのかどうかはわからないが、自分がするよりもいいだろう。とりあえず、スザクはドアの前へと移動した。
 それを確認してから、カノンは部屋を出て行く。
「殿下。脱走されたらどのようなお仕置きが待っているか、ご存じですわね?」
 一瞬足を止めて彼はこういった。それにシュナイゼルは小さなため息で答えを返す。
「……さすがはカノン、というべきか」
 見事に兄上を手玉に取っている。ルルーシュのこの言葉に同意するしかできないスザクだった。





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