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それにしても、聞いているだけで胃が痛くなる。 ここにマリアンヌか神楽耶、そしてC.C.がいないことを不幸中の幸いと言っていいのだろうか。 しかし、このままではシュナイゼルが使い物にならないような気がする……とスザクが心の中で呟いたときだ。 「神楽耶からの返信かな?」 メールの着信を告げるアイコンに言葉が漏れる。 とりあえず、ルルーシュ達のお小言はまだ終わらないようだし、先に確認しておくべきか。そう思ってメーラーを立ち上げた。そして、スザクはメールの差出人を確認する。 次の瞬間、モニターに見てはいけないな前が表示された。 「……ルルーシュ」 自分ではこれをどう受け止めればいいのかわからない。だから、とスザクは早々に彼に判断を求める事にした。 「悪いんだけど、メールの確認に付き合って」 まずいことになっているような気がするし、と付け加える。 「スザク?」 まずいこと? といいながら彼は視線を向けてきた。 「僕の見間違いじゃないなら……マリアンヌさんから、メール」 こう告げた瞬間、シュナイゼルとカノンは頬をひきつらせる。叫び出さなかったのは流石だ、といった方がいいのだろうか。意味もなくスザクはそんなことを考えてしまう。 「母さんから?」 ルルーシュも不審そうな表情でスザクへと視線を向けてくる。 「うん」 絶対に内密に、と神楽耶には頼んでおいたのに。そう言いながらスザクはルルーシュも確認できるように体の位置をずらした。 そんな彼の肩に手を置くとルルーシュがモニターをのぞき込んでくる。 「……間違いなく、母さんからだな」 メールアドレスを確認して、彼はため息をつく。 「やはり、先ほどの一件でフォローが遅れたからか?」 「どうだろう。開く?」 中を確認すればわかるのではないか。スザクは言外にそう問いかけた。 「だが、一応、お前宛だからな」 他人のメールを見るのは、とルルーシュは眉を寄せる。 「相手はマリアンヌさんだし、もし、本当にばれているなら、僕が読ませることもあの人にはばれていると思うよ」 違うかな? とスザクは言い返した。 「そうでなくても、マリアンヌさんから届いたメールを僕がルルーシュに読ませないことなんてあるわけない、ってわかっていると思うよ」 違う? と付け加える。 「……そうだな。今更か」 微苦笑と共に彼は頷いて見せた。 「では、すまないが」 この言葉に、スザクは返事を返す。そして、メールを開いた。 同時に、彼は中に書かれてある文面へと目を通した。スザクよりも読む速度が速いルルーシュは一瞥しただけで内容を理解したのだろう。 「……まずい……」 小さな呟きを漏らす。 「これって、本当?」 スザクもまた頬をひきつらせた。 「何が書いてあったのかな?」 よかったら、教えてくれないか……とシュナイゼルが口を挟んでくる。それは、万が一のことを考えての事なのだろう。宰相としてはそれは正しいと思う。 しかし、と思いながらスザクはルルーシュの顔を見上げた。 「……いったい、いつ、俺は婚約をしたのでしょうか」 それに、ルルーシュはこう言い返す。 「まぁ、あのロールケーキとあの后妃のことがばれていないのは不幸中の幸いですけどね」 そんなことになっていたら彼女が何をしでかしてくれたか。はっきり言って考えたくない。ルルーシュはきっぱりと言い切った。 「わかっているよ、ルルーシュ。それだけはみんな同じ気持ちだから」 だから、こうしてあれこれやっているんだし……とスザクは苦笑を向ける。そんな余裕があるのは、一番厄介な事態がばれていないとわかったからだ。出なければ、今頃フリーズしていたに決まっている。 そう考えながら、スザクは言葉を重ねた。 「問題は、どこからこんな話が出たか、じゃないかな?」 個人的にものすごく気になる、と心の中で呟く。その可能性はないとは思っていなかったが、マリアンヌが認めなければ、話も出ないだろうと信じていたのだ。 だが、このメールを見れば自分に話がなかったと本人が怒っている。ということはそれなりに広まっている噂なのだろう。 「ルルーシュ様に婚約話なんて、まったく出ておりませんわよ?」 一ミリも、と言ってきたのはカノンだ。 「他の皇族方は知りませんけど」 自分が知る必要があるとは思っていなかったから、と彼は言い切る。 二人の追及が他に向いたことでようやくシュナイゼルも元の調子を取り戻したのだろうか。 「いや。幸いなことに、誰の婚約話も出ていないよ。出ていたとしても、君とナナリー、それにカリーヌのそれは叩きつぶす予定だったがね」 姉たちが使えている――といってしまえば語弊があるのかもしれないが――皇女二人はまだ早いだろう。そして、ルルーシュのそれはシャルルが認めるはずがない。第一、ルルーシュにはその前に考えなければいけないことがあるだろう、と彼が意味ありげに付け加えたのは今までの意趣返しなのだろうか。 「そちらに関しては俺たちの問題で、兄上には関係ないかと」 ルルーシュはそれをさらりと受け流す。 「そう言えば、兄上の婚約話はどうなったのですか?」 オデュッセウスのそれは潰したような気がするが、と彼はそのまま矛先をシュナイゼルへと向ける。 「……まさかと思うけどさ。その話が間違って伝わったって事はないよね?」 伝言ゲームみたいに、とスザクは言う。 「婚約話がシュナイゼル殿下で、ルルーシュのは別の噂だったとか」 途中で人名が入れ替わったとか、と付け加えながら、ちょっといやな予感に襲われる。それはスザクだけではなかったらしい。 「陛下の愛人候補が……」 口に出した瞬間、想像してはいけないものを想像してしまったのか。カノンが思い切り顔をしかめている。 「いくらあのロールケーキでも、その選択はない……と思いたいな」 ルルーシュもため息とともにこう言った。 その時である。 目を開けたままシュナイゼルがゆっくりと後ろに倒れていくのが見えた。 「シュナイゼル殿下?」 これがルルーシュであれば、無条件で抱き留めるが、相手がシュナイゼルでは……とスザクは思う。しかしここで彼に何かあればルルーシュの負担が増えるだろう。 だから、と慌てて駆け寄る。 その結果、辛うじて彼が頭を打つことだけは避けられた。 「兄上にとって、これが一番のお仕置きだったようだな」 「そうですわね」 ルルーシュの呟きにカノンが即座に同意の言葉を口にする。 「とりあえず、適当に転がしておくか……」 どこがいいか、とルルーシュはため息をつく。 「ソファーをお借りしても?」 流石に床に転がしておくのは、と言外に付け加えながらカノンが問いかけてきた。 「ここを借りているのは俺たちの方だからな。好きにしろ」 もう興味はないというようにルルーシュは視線をスザクへと向けてくる。 「スザク」 「わかっているよ。マリアンヌさんには、人名がどこかですり替わったみたいだと返事を書くよ。後、神楽耶にも何でこういう事になったのかを聞いてみる」 後は、いっそ、カレンあたりにでも連絡を取った方がいいのだろうか。それとも藤堂あたりか、とスザクは首をかしげる。 「とりあえず、こういう事はカレンだろうな。そこからミレイに連絡を取ってもらえ」 逆では別の意味で騒ぎになりかねない。ルルーシュがそう言ってくる。 「問題なのは、これがナナリーの耳に入っていないかどうかだな……」 彼女の耳に入っていれば、別の意味で厄介ごとになりかねない。彼はそう続けた。 「アーニャが一緒だから、大丈夫だと思うけど……」 でも、ジノもいるから、とスザクは苦笑を浮かべてしまう。 「ともかく、カレンにはミレイさんにどこまで噂が広がっているのか、調べて貰えばいいね。ナナリーには内緒で」 さらにこう言葉を重ねる。 「……頼む」 本当に、こちらのことだけで頭が痛いのに……とルルーシュは口にした。本当に突発的な事態に弱いな、と思いながらスザクは頷く。 「まさかと思うけど」 その時のことだ。ふっと、脳裏にある可能性が浮かぶ。 「それを調べさせたくなくて、誰かが故意に噂を流したって可能性は、ないかな?」 ルルーシュが身動きが出来ないうちに証拠を隠そうとして、とスザクは続けた。 「可能性はありますわね」 それに先に反応を示したのはカノンだった。 「こちらも調べて置いた方がいいかもしれませんわ」 そう言うと、彼はシュナイゼルの体を軽々と抱き上げる。 「殿下を寝かせたら、すぐに調べさせます。内密に」 「そうだな。とりあえず、兄上達を第一候補に入れておいてくれ」 噂の根元は、とルルーシュは言う。どうやら、ようやく元の彼に戻ったらしい。 「おまかせください」 カノンが即座に言い返してくる。 「……どこの誰かは知らないが、こんな噂を流した奴には相応の報復をしてやろう」 しかし、この言葉は何なのか。 「悪役のセリフだよ、それ」 立ち上がりながら呟いたスザクの言葉は、綺麗に無視をされてしまった。 終
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