噂の根元は数日経っても見つからなかった。
「無理なんじゃないの、探すのって」
 スザクはこう言いながらルルーシュを見つめる。
「いや。たどることは不可能ではない。ただの噂ならばな」
 知人の知人に聞いたと言っても、その知人が同一の人物だった、と言うことはよくある。だから、逆に誰から聞いたのかをたどっていけば必ず大本にたどり着くなのだ。
 ネットでもそれは同じだと言っていい。
 大本のサイトさえ突き止めてしまえばいいだけだ。そちらの方が簡単かもしれない、と彼は続ける。
「アクセスログを提出させればいいだけだ」
 ラウンズの権限で命じれば、拒否することは出来ない。
「でも、日本だよ?」
 ブリタニアであれば可能かもしれないけど、とスザクは言い返す。
「だから、カレン達に頼んだ」
 今、黒の騎士団が動いてくれているはずだ……とルルーシュは言う。
「神楽耶も協力してくれている。彼らなら、日本人からうまく聞き出してくれるはずだしな」  そこまで巻き込んでいるなら、確かにそうだろう。スザクも認めざるを得ない。
「なら、もうしばらく待ってみれば?」
 でも、と首をひねる。
「日本人でネットを使える人間はごく一部だよ。神楽耶達だって、君やマリアンヌさん、それにナナリーが手を貸してくれているから可能なんだし」
 他の者達には、まだそこまで普及していない。いや、それ以前に許可が出ていないはずだ。
「確かにそうだな」
 そうなると、考えられるのは、誰かが貸し与える見返りに協力させている、と言ったところか……とルルーシュは呟く。
「問題は、どこの誰がそんなことをしているのか、だよね」
 可能性として考えられるのは、中華連邦だろうか。しかし、連中は先日叩きつぶされたばかりではなかったか、と思う。
 だが、逆ギレという可能性もある。
「起死回生を狙って、日本にちょっかいを出している?」
 だとするなら、無謀だなぁ……とスザクは呟いた。
「大宦官はバカ揃いだからな。ないとは言えないだろう」
 それにルルーシュはこう言い返す。
「しかし、連中は俺の身分を知っていたんじゃないのか?」
 あの場には《皇族》として立ち会っていた。それなのに、とルルーシュは眉根を寄せる。
「きっと、こちらの誰かと手を結んだんだろうね」
 本当に、バカはおだてると簡単に木の上に上る……と告げたのはスザクでもルルーシュでもない。しかし、今更、その声の主の登場には驚く事もない。
「V.V.様。いつ、いらしたのですか?」
 スザクは反射的にこう問いかける。
「ここに来たのは今だよ」
 ブリタニアにはここしばらくいたけど、と彼は続けた。
「シャルルをからかってたんだけどね。とんでもない噂を聞いたから、ね」
 あきれたから、ちょっと気絶させてきた……とそれこそとんでもないセリフを口にしてくれる。
「いいんですか?」
「いいんだよ。僕の力なら、すぐに復活するよ」
 腹部に一発、蹴りを入れてきただけだから……と彼は笑みを深めた。それよりもあの噂の方が問題だと思うけど? といいながら、彼は真っ直ぐに歩み寄ってくる。反射的にスザクは立ち上がると、彼に椅子を明け渡した。
「ありがとう」
 微笑みながらこう言ってくる。
「それよりも、ルルーシュ」
 すぐに表情を引き締めると、彼は視線を移動させた。
「家の子達にも協力させるからね」
 今回に限り、異議は認めない。彼はそう言ってルルーシュをにらみつける。
「V.V.様」
「可愛い弟と甥っ子がバカにされたんだよ? 許せるはずがないだろう」
 確かに、下半身に節操がないシャルルだが、彼が好きなのはあくまでも女性で男ではない。しかも、その相手として噂されているのがルルーシュでは……と彼は机をたたきつける。
「……それよりも厄介な噂が出ているんですけどね」
 日本で、とスザクは呟く。
「厄介な?」
 何? と即座に彼は問いかけてくる。
「ルルーシュが結婚するらしいですよ。顔も名前も知らない相手と」
 それにスザクはこう言い返す。
「そうなの?」
「……困ったことに」
 ついでに、自分たちもその噂は知らなかった。教えてくれたのはマリアンヌだ、とルルーシュは付け加える。
「……最悪だね、それは」
 V.V.が深いため息をつく。
「二つの噂の固有名詞がどこかで入れ替わったのか、と思っていたのですが……どうもそうではないようなので」
 ブリタニアで流れていた噂はV.V.も耳にしたものだろう。だが、皇族はもちろん、高位の貴族が婚約をするという噂は流れていない。そのせいで、噂の大本にたどり着けなかったのだ。
「他のエリアでもそんな噂は流れていないようですしね」
 それに関しては、親しくして貰っているラウンズ達やコーネリアに確認して貰った。
「つまり、エリア11だけで、そんな噂が流れているって事?」
「結論から言えば、そう言うことになりますね」
 V.V.の疑問にルルーシュが頷いてみせる。
「そう」
 言葉とともに彼は唇の端だけを持ち上げた。
「なら、余計に家の子達を使わないとね」
 そんなバカは自分がこの手で仕置きをしないと気が済まない。彼はそう続ける。
「もちろん、マリアンヌに半分譲るよ」
 それは彼女の権利だ、と笑みを深めながら言う。
「……俺にも権利はあると思いますが?」
 ルルーシュが問いかける。それならば、自分にもあるのだろうか、とスザクは心の中で呟いた。
「君達はダメ。下手に手を出すと後が厄介だから」
 代わりに、とV.V.は言葉を重ねる。
「本格的に中華連邦のバカをつぶして手柄にすればいい。革命を起こしたいようだから」
 マリアンヌが画策をしていたよ、と彼は続けた。
「それは……何をしているんでしょうね、母さんは」
 別の意味で頭が痛くなる、とルルーシュは言い返す。
「どうやら、連中が彼女を怒らせたようでね」
 内密に《ゼロ》と大宦官の階段があったらしい。その場で余計なことを言ったのだろう、とV.V.は苦笑を浮かべる。
「何よりも、今の中華連邦の混乱は連中のせいだからね」
 それなのに、自分たちの利権を優先させようとしている。それをマリアンヌが許せるはずがないだろう。そう言ってV.V.は笑った。
「マリアンヌさんならそうだよね」
 そう言う連中は大嫌いだろうし、とスザクも頷く。
「そちらの裏工作は終わっているから、後は君が最後の仕上げをすればいい。そうすれば、ラウンズとしての足場も固まるでしょう?」
 実際の戦闘はスザクに任せればいいし、とV.V.は言う。
「間違いなく、それは僕の役目ですね」
 ルルーシュは全体の指揮をしてくれればいい。スザクはそう言って頷く。
「何よりも、君の足場がしっかりと固まれば、色々と都合がいいと思うよ」
 ナナリーのことも含めて、とさりげなく付け加えるV.V.は流石だ。そう思わずにはいられない。
「……ナナリー」
 ルルーシュにとって、それは最強のカードだ。
「そうですね。中華連邦が不安定なままでは日本にも影響が出る」
 確かに、それではナナリーがかわいそうだ……と相変わらずのセリフを彼は口にする。
「なら、こちらの方は僕たちに任せて貰っていいかな? シャルルのお仕置きも含めて」
 ふふふ、とV.V.は笑いを漏らす。
「やっぱり、蹴飛ばしただけじゃ物足りないような気がするし」
 そもそもの原因は彼だしね、と彼は続けた。
「ちゃんと経過は報告するよ。だから、任せておいて」
 中華連邦に関する資料もちゃんと届けるから、と彼は微笑む。
「そうしてください」
 割り切ったのか――それとも諦めたのか――ルルーシュは素直に頷いている。
「とりあえず、こき使うぞ?」
 スザク、と彼は付け加えた。
「もちろんだよ」
 ランスロットを改良しているらしいロイドが喜びそうだな、と思いつつスザクは頷く。
「じゃ、そう言うことで決まりだね」
 満面の笑みと共にV.V.が締めくくった。

 何故か、貴族達の中に精神を病むものが出てきたのはそれからすぐのことだった。
「いったい、何をやらかしたんだ、あの人達は」
 ルルーシュが小さな声で呟く。他にも日本で彼の地にいる貴族が半殺し状態で見つかったという。
「聞きたいの?」
 スザクは思わずこう問いかけた。
「いや、やめておく」
 考えている暇はない、とルルーシュはため息とともに告げる。
「そうだね」
 それにスザクも頷き返して見せた。





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