何とか復活したルルーシュとジノ――はまだ復活しているとは言えないかもしれない――と三人で作戦を話し合っていた。 「とりあえず、あちらの代表者と話をしなければいけないわけだが……」 どうやって会いに行けば目立たないか。ルルーシュはそう呟く。 「神楽耶があちらとのパイプを持っているみたいだけど?」 とりあえず、相談してみる? とスザクは問いかけた。 「……神楽耶を巻き込むのは不本意だが、それしかないなら、仕方がないな」 ため息とともにルルーシュは口にする。 「何よりも、別の意味で怖い」 過去のあれこれを思い出せば、と彼は続けた。 「否定できないね」 苦笑と共にスザクは言い返す。 「それでも、それが一番確実な方法であれば、妥協するしかないな」 多少の問題は、とルルーシュは眉間にしわを寄せながら口にする。 「ダメだよ、ルルーシュ」 それじゃ、跡が付く。言葉とともにスザクは何気なく彼に向かって手を伸ばした。それはいつもの行為だったはずだ。 「ほわぁぁぁっ!」 だが、何故かルルーシュはその手を避けようとする。そのまま、椅子に座ったまま後ろに倒れ込んだ。 「ルルーシュ!」 このままでは頭を打つかもしれない。そう判断をして、スザクはとっさに彼の体を抱き留める。 一瞬遅れて、周囲に椅子が倒れる音が室内に響き渡った。 「大丈夫?」 間に合ったことにほっとしながらも、スザクはこう問いかける。 しかし、それに対するルルーシュの反応は、やはり今までとは違う。 頬を真っ赤に染めたかと思うと、彼の腕から逃れようとしたのだ。 「ルルーシュ?」 いったい、どうしたのだろうか。 こんなこと、今までに何度もあった。その時は当然というような表情を作っていたのに、と思う。 「僕、何か失敗、した?」 可能性としてあり得るのはそれではないか。そう思いながら問いかける。 「いや、そういうわけではないが……」 取りあえず放せ、とルルーシュは言い返してきた。 やっぱり、なんかおかしい。 「ルルーシュ」 わざと低い声を作ってスザクは彼の名を呼ぶ。同時に、彼の体の向きを変えてお互いの視線が合うようにした。 「僕が何をしたの? はっきり言ってくれないと対処が取れないんだけど」 このままでは、自分が辛いからルルーシュの側を離れるかもしれない。といっても、すぐに割り切れるは思えないから、しばらくはナナリーかマリアンヌの所に置いて貰うことになるだろうけど、と続ける。 「それはダメだ!」 即座にルルーシュはこう叫んだ。 「なら、僕が何をしたのか。どうしてこんな態度を取られるのか。きっちりと教えてくれるよね?」 さらに詰め寄れば、彼は仕方がないと言うように頷いてみせる。 それを確認してから、スザクはルルーシュを解放した。 もちろん、彼が逃げ出す可能性は承知している。だが、自分から彼が逃げ切れるはずがない、という確信があった。 どうやら、ルルーシュの方もそれはわかっていたらしい。倒れてしまった椅子を直すと座り直す。 「とりあえず、悪いのはお前じゃないから、安心しろ」 ため息とともにルルーシュはそう言う。 「ただ、俺が自分の感情を制御できないだけだ」 C.C.からあれこれ言われたせいで、と彼は深いため息をつく。 「ふぅん……C.C.ね」 何を言ったのか。本人から聞き出すのが一番早道だろう。もちろん、マリアンヌに事情を話して一緒に聞いてもらわなければいけないだろうな、と心の中で呟く。いっそ、V.V.も呼び出した方がいいのだろうか。そんなことまで考えてしまう。 ルルーシュのことはナナリーに任せておけばいいだろうし。 そうしよう、とスザクは心の中で呟いていた。 そして、即座に行動に移った。 「別に、悪いことをしてはいないぞ」 むしろ、スザクにプラスにはなることだ……と彼女はいつもの口調で主張する。 「そう思えないから、言っているんだろ」 「確かに、あれはちょっとね」 スザクの言葉に同意するようにマリアンヌも頷いて見せた。 「あんな上の空じゃ、今度の作戦、失敗しかねないわ。いったい何をあの子に吹き込んだの?」 きちんといいなさい、と口にしながら、彼女は腰に履いた剣に手をかける。C.C.の態度次第では間違いなくきりりかかるつもりだろう。殺気が見え隠れしている。 「何といわれても……普通の性教育だぞ?」 しれっとした口調で彼女は告げた。 「そいつが知っている程度の知識だと思うが?」 さらにこう付け加える。 「……レベルの問題だろう」 ため息混じりにスザクは言い返す。 「ルルーシュはまだその手のことはレベル1なんだから」 そもそも、恋愛感情すら理解できているのかどうか、わからないのに……とため息混じりに彼は付け加えた。 「それなのに、いきなりレベルMAXの話をされたら、いくらルルーシュでもパニックになるに決まっているでしょう!」 ただでさえ、彼は突発事項に弱いのに……とまたため息をつく。 「確かに、そうね」 我が子ながら、否定できないわ……とマリアンヌも苦笑を浮かべる。 「でも、それとこれとは別問題よね?」 C.C.? と彼女は視線を移動させた。 「長い付き合いだったわね。大丈夫。ちゃんとお墓だけは立ててあげる」 いくら不死身でも氷の中に閉じ込められたらそう簡単に復活は出来ないわよね? と笑う彼女が怖い。 だが、流石に付き合いが長いのか。C.C.はそうは考えていなかったらしい。 「元はと言えば、お前達二人があの子にきちんと教育してこなかったのが悪いのだろう?」 見事な責任転嫁をし始めた。 「言いたいことは、それだけかしら?」 しかし、その程度でマリアンヌの怒りは解けなかったらしい。凄艶な笑みと共にさらに詰め寄っていく。 「私は、ちゃんと基本は教えたわよ。だから、男女でどんなことをすれば子どもが出来るか。それはルルーシュもナナリーも知っているわ」 同性同士の行為についてはスザクがちゃんと教えてくれるだろう。第一、どこまでするかはそのカップル次第だと聞いている。だから自分はあえて口を出さなかったのだ。 こう言いながら、彼女はとうとう剣を抜いた。 「そう言うことだから、さよならね」 そのままC.C.の心臓めがけて突き出す。その動きはスザクが辛うじて確認できたほどのスピードだった。 しかし、C.C.はしっかりとそれを避ける。 「残念だが、私だって死ぬのはいやだからな」 この言葉を残して逃げ出そうと足を踏み出した。 しかし、次の瞬間、彼女はその場にダイブするように転ぶ。 「いい加減にしてよね、C.C.」 そう言ったのは、V.V.だった。 「ルルーシュだけじゃなく、ナナリーにもとんでもないことを吹き込んでいるだろう?」 まったく、と彼はあきれたように付け加える。 「シャルルはともかく、他の子ども達には余計なことを吹き込まないでくれるかな? かわいげがなくなるだろう」 それでは潤いがない、と彼は言った。 「……ナナリーに何を吹き込んでくれたのかしら?」 逃げられないというようにC.C.の背中を踏みつけながら、マリアンヌが問いかける。 「日本の文化の一つだ」 ぼそっと彼女は言い返す。 「だから、何!」 言葉とともにマリアンヌはC.C.の顔ぎりぎりに剣を突き立てる。その瞬間、彼女の髪が二三本、斬れた。 だが、それよりもスザクは別の意味でいやな予感を覚えてしまう。 日本の文化、といってもおそらく美術品や何かではあるまい。もっと、何というか生活に密着したものではないか。 そう考えた瞬間、ある可能性が脳裏に浮かぶ。 「それって、オタク文化といわないだろうね、C.C.」 顔をしかめながらスザクが問いかけた。はっきり言って、それはナナリーには教えて欲しくない。でも、彼女が入院していた頃に触れていた可能性があるな、と今更ながらに思いあたってしまった。 「よくわかったな」 その通りだ、と言われて、思わず頭を抱えたくなる。確かに、ルルーシュもヒーローものは好きだった――といっても、彼が注目していたのは悪役だった――が、目の見えないナナリーに何を教えたというのか。 「ボーイズラブは、その中でもトップクラスだからな」 内容的には玉石混合だったがと告げる彼女の声が耳に届く。 「それは、絶対にまずいよ……ひょっとして、ルルーシュが上の空なのは、そっちが原因だったりしないよな」 ナナリーが何かを言ったせいで、と呟く。 「可能性は否定できないわね。どちらにしろ、悪いのはC.C.だけど」 とりあえず、いっぺん死んでみる? と笑いながらマリアンヌは剣を抜いた。 その後のことは、怖くて誰にも話せないと思う。思い切り泣きそうな表情で政庁に帰って、ルルーシュに心配された。 しかし、本当のことは言えない。 どう説明していいものか。悩むスザクだった。 終
|