神楽耶に根回しを頼んだ中華連邦のテロリストとの会談は思った以上にあっさりと実現をした。
 理由は簡単。
 相手が日本に来ていたのだ。
「……殿下は女性でいらしたのか?」
 ルルーシュを見た瞬間、彼――星刻は真顔でこう言ってくれる。頼むから、それについては言及しないで欲しかった、とスザクは心の中で呟いてしまった。
「変装だ」
 案の定、というべきか。機嫌が悪いとわかる声でルルーシュが言い返している。
「これならば、目立たないだろう?」
 色々な意味で、と彼は続ける。
「確かに」
 ここならば、女性がカップルで訪れても目立たないか……と彼は頷く。その時の視線がスザクを向いていたのには深い意味はないだろう、と思いたい。
「ともかく、さっさと話を終わらせてしまおう」
 色々と下準備も必要だろうし、とルルーシュは言う。
「そうだな。私もあまり天子様の傍を離れていたくない」
 普通なら主思いと思えるこのセリフも、星刻が言うと別の意味に思えてならない。それはきっと、彼にまつわる噂をあれこれと聞いてしまったからだろう。
 とりあえず、そんなことを考えている事を悟られないようにと、スザクはさりげなくドアの方へと移動する。
 窓際には星刻がいるから、たとえ誰か襲ってきても大丈夫ではないか。
 しかし、同じ噂を聞いているはずなのに微塵も動揺を見せないルルーシュは流石、というべきなのだろうか。それとも、皇族としてはこれが当然なのか、と首をひねりたくなる。
 マリアンヌならば、絶対に問いかけているだろうな。そんなことも考えてしまったのは内緒にしておくべきだろう。
「でないと、あいつらが何をしてくれるかわからないからな」
 いっそ、あの時、遠慮しないで一掃してくれればよかったものを……と星刻はため息をつく。
「そういうわけにもいかなかったからな」
 あの時点で大宦官達を粛正すれば、それこそブリタニアと中華連邦は全面戦争に陥っていたはずだ。そうなったら、このエリア11はどうなっていたか……とルルーシュは続ける。
 その見事なシスコン発言に星刻は気付いていないだろう。スザクにしてみればいつものことだから、気にするほどのことではないし。ということで、誰もそれにはつっこむことはなかった。
 そのおかげだろうか。
 話し合いはさくさくと進む。
 こんなことはシュナイゼル相手でなければなかったようにも思う。同時に、いつもこうだと楽なのに、とも考えてしまった。
「とりあえず、相手を捕縛、ということでいいんだな?」
 最後の確認というようにルルーシュが問いかける。
「そうだな。まぁ、手が滑ってしまっても構わないが。一人残っていればいい」
 悪行を白状させるために、と星刻は笑った。
「わかった。では、そのように手はずは整えておく」
 ルルーシュも小さな笑いを返す。
 しかし、この二人のそんな表情が悪役のそれにしか見えないのはどうしてだろう。ふっとそんなことも考えてしまう。
「あぁ。そうだ」
 ふっと思い出したというように星刻が口を開く。だが、何故か視線を彷徨わせ始めた。
 先ほどまでの自信満々な悪役顔はどこに行ったのだろうか。そう思わずにはいられない。
「何だ?」
 そんな彼の態度に不信感を抱いたのは自分だけではなかったようだ。ルルーシュも不審そうに問いかけている。
「もしよかったら、だが……またプリンを作って欲しいと天子様が……」
 前回いただいたものの味が忘れられないとおっしゃられて……と彼は続けた。
「料理長にも作らせたのだが、どうしても貴殿が作られたものに比べると味が落ちると……そうも言われて」
 臣下としては、あの方の願いを叶えてやりたいのだ。そう告げる彼の表情がちょっとヤバイ方向に行っているような気がするのは錯覚だろうか。
「……ひょっとして、南の同類か?」
 ルルーシュのこの言葉の意味が相手にはわからないことは幸いなのかもしれない。
「まぁ、お作りするのはやぶさかではないが……それに関しては作戦が終了してからでよろしいか?」
 それでもこう言ったのは、ルルーシュ自身が彼女を気に入っているからだろう。
「もちろんだとも。天子様がどれだけ喜ばれるか」
 星刻はそう言って笑った。
「大宦官達さえいなくなれば、税を下げられるはず。そうなれば、国民も少しは楽になるだろう」
 それもまた天子が望むことだ。
 そのためならば、逆賊の汚名を着せられても構わない。彼はそう告げる。
「民のために、か」
 ルルーシュは小さな笑いを漏らす。
「まぁ、その覚悟がなければ、協力しようなどとは思わなかったがな」
 ともかく、今回のことは必ず成功させる。もっとも、自分たちはあくまでも手助けだ。彼はそう続けた。
「もちろんだ」
 星刻はそう言って頷く。
「我々の国のことだからな」
 そう言うところがきっと、マリアンヌ達に気に入られた理由なのだろう。そして、ルルーシュも同じ事を考えるに違いない。
 ともかく、この話し合いが無事に終わってよかった……とスザクは安堵のため息をついた。

 しかし、まさかここで襲われるとは思わなかった。それも、ブリタニア人に、だ。
「……俺はともかく、お前の顔を知らない者がいるとは思わなかったな」
 ナイト・オブ・セブンの、とルルーシュはため息をつく。
「逆に、顔を知っているからかもしれないよ?」
 気に入らないと思われているのでないか。それでもバカにされているような気はするが、とスザクは言い返す。
「とりあえず、たたきのめした方がいいかな?」
「お前がその程度で構わない、というならな」
 別段、殺したとしても誰も文句は言わないだろう。ルルーシュは即座にこう言い返してくる。
「でも、それじゃ、誰が黒幕なのか、わからないよ?」
 それでは、後々困るのではないか。スザクはそう言った。
「ふむ……言われてみればそうだな」
 ならば、殺さない程度に痛めつけろ。ルルーシュはそう命じた。
「Yes,Mylord……なのかな、この場合」
 言葉とともにスザクは笑う。
「どうでもいい。さっさと終わらせろ。ナナリーとの夕食に遅れるわけにはいかないからな」
 ルルーシュはこう言い返してきた。
「はいはい」
 わかっているよ、とスザクは苦笑を浮かべる。
 本当に、彼の行動基準はわかりやすい。もっとも、今回だけは仕方がないのか。ナナリーの方も久々に会えたルルーシュに甘えているようだし、と思う。
「でも、あの話しだけは遠慮したいなぁ」
 最近、喜々として話をしているBL関連の……と付け加えた。
「あれか」
 まったく、余計なことを……とルルーシュも吐き捨てるように口にする。
「マリアンヌさんの怒りを向けられても平然としていられるところだけはすごいけどね」
 C.C.の場合、とスザクは言う。
「あいつの場合、そう言うところがどこかに家出しているだけだ」
 あの無神経魔女が、とルルーシュはため息をつく。
 これらの会話の間も、何もしていないわけではない。しっかりと襲撃者が襲いかかってくれていたのだ。しかし、マリアンヌやラウンズの仲間達にしごかれてきたスザクには児戯としか思えない。――もちろん、ルルーシュから見れば別の感想があったのだろうが。
「とりあえず、ナナリーには別の何かを進めておくべきだろうが……何がいいだろうな」
「これに関しては、神楽耶もあてにならないしね……あぁ、中華連邦の文化について調べておくべきとでも言う?」
「そうだな。これからは必要になるし、何よりも、あの子がこのエリアの総督だしな」
 そう言えば真面目なカナリーのことだ。きっちりと勉強してくれるだろう。その間に余計なことは忘れてくれればいい。でなければ、対象を別の誰かに移すか、だ。
「自分たちに被害が及ばないなら、もう、何でもいいよ」
 言葉とともに、スザクは最後の一人をたたきのめす。
「それよりも、こいつらはどうしたらいいのかな?」
 一人二人なら担いでいってもいいけど、と問いかける。
「適当に縛り上げておいて、ジノにでも拾いに来させればいいだろう」
 暇をもてあましているだろうし、とさりげなく酷いセリフを言っていないだろうか。彼が暇なのは、ルルーシュが仕事を与えないからではないか、と思う。
「まぁ、そうだね」
 しかし、それについてあれこれ言うつもりはない。ジノがルルーシュのパシリをしてくれるから、自分はルルーシュの傍にいられるのだ。
「じゃ、縛っちゃうね。ついでに、マルディーニ卿あたりに連絡を入れておいた方がいいかな?」
「カノンか。確かに、そうしておけば色々と都合よく使ってくれるだろうな」
 そう言いながら、ルルーシュも縛るのは手伝ってくれる。それでも、二桁近い人数がいたせいか、少し手間取ってしまった。
「まったく……余計なことをしてくれたよな」
 言葉とともにルルーシュが手近にいた相手を蹴飛ばした。その瞬間、生足が見えて、そう言えばまだ彼は女装したままだったのだと思い出す。
「……とりあえず、ルルーシュ。その恰好だからその程度にしておいてよ」
 下着が見えるよ、と苦笑と共に付け加える。
「スザク!」
 次の瞬間、ルルーシュが真っ赤になったのが見えた。

 しかし、この時、本国で厄介ごとが起きていたと、二人はまだ知らなかった。





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