予想通り、というべきか。 自分たちの店はそれなりに繁盛していた。それについては当然だろう。 しかし、だ。 「あの人、殺していいですか?」 ある意味天敵といえる人間が他の誰かを見つめながらこう言ってくるのは怖い。もっとも、その気持ちはよくわかったが。 「全部終わってからなら、いいんじゃない?」 その時は、自分も手伝う……とスザクは言い返す。 「まさか、貴方のその言葉が嬉しいと思える日が来るとは思いませんでしたよ、クルルギ卿」 「ここでその呼び方はまずいと思うよ、ロロ」 誰に聞かれるかわからないから、ととりあえず注意をする。 「そうでしたね」 それでルル種の作戦が失敗してはいけない。ロロはそう言って頷く。 「あれが誰か、調べるぐらいはいいんじゃないかな、とりあえず」 すんでいる場所とか、行動パターンとか……とスザクはさらに提案をした。 「後は……ジノがもう少しまともに仕事が出来るようにしごくことか」 彼さえちゃんと仕事が出来れば、ルルーシュがフロアに出てくることは減る。そうすれば、あれを含めた変な奴に目をつけられることもないのに、とため息をつく。 「……そっちの方が優先順位は高いですね」 とりあえず、とロロは言う。 「頼んで構わないかな?」 自分はあれとルルーシュを引きはがしてくる、と口にすると同時に、オーダー票を握りしめた。 「君だと、最終手段を使っちゃいそうだからね」 暗殺という、と付け加えれば、彼も頷いてみせる、流石に自制できるかどうか、自分でも自信がなかったのだろう。 「確かに、店内で殺しはまずいですからね」 その分、ジノが八つ当たりをされそうだが、それは自業自得だし……と思う。 「じゃ、そう言う役割分担で」 言葉とともに、スザクは行動を開始する。 「ルル。オーダーがたまっている」 キッチンに戻って、ととりあえず柔らかな声音で告げた。もっとも、視線には殺気をこめていたが。普通の人間なら、これで引き下がるはずだ。 しかし、相手は厚顔無恥を絵に描いたような人物である。 「そのような者達、放っておけばよい。私がなんとでもしてやる」 お金さえ払えば文句はないだろう、と笑いながら彼は言った。 「そうはおっしゃいますが……あちらの方々の分ですので」 言葉とともに視線を向ける。 そこにいたのは軍の者達だ。もちろん、彼が交代でここに派遣してくれている者達である。その中に、彼からの連絡員がいることも否定しない。 「軍の人間といっても……」 自分が賄賂を渡せば、と彼は口にする。 「あの方々は黎将軍の部下の方々ですが?」 しかし、それに気付かなかったようにスザクは続けた。 「黎将軍の!」 「あの方が、エリア11においでの時にごひいきにさせて頂いたのですよ」 スザクが何を言おうとしているのかわかったのだろう。ルルーシュは微笑みながらこういう。 「時々、将軍もお忍びでいらっしゃいますが?」 ルルーシュがさりげなくこう付け加えたのは、彼に対する牽制だろうか。 「今日も、ひょっとしたらおいでになるかもしれない、って言っていたよ」 とどめとばかりにこう言ってみる。 「……用事を思い出した……また、な」 その瞬間、こう言うと、彼は立ち上がった。そして、そのままキャッシャーの方へと歩いていく。 「ロロ」 「伝票をお預かりしますね」 スザクの呼びかけに彼は即座に反応を返す。その脇に、ぴったりとジノがついているのは、間違いなく『ルルーシュのために仕事を覚えろ』と教育的指導を受けたからだろう。 「……ロロと親しくなったのか?」 それに彼はこう問いかけてきた。 「じゃないよ。ジノとあの男に関しては協定を結ぶことにしただけ」 任務を失敗するわけにはいかないから、とスザクは言い返す。 「あの男はわかるが……何故、ジノ?」 理由がわからない、とルルーシュは首をかしげた。 「仕事が出来ないからに決まっているでしょ」 おかげで、あれこれと厄介ごとが増えている。だから、ここで徹底的に仕事をたたき込むことにしただけだ、とスザクは笑う。 「そうか」 彼にしても、ジノの仕事覚えの悪さには何か思うことがあったのか。あっさりと頷いてみせる。 「なら、オーダーをこなさないとな」 ふっと笑うと、ルルーシュはそのままキッチンへと足を向けた。 閉店後、彼らはテーブルの周りを囲みながら、額を突きつけるように一葉の紙を見つめていた。 「どうやら、時期を早めないとダメだな」 理由はいくらでも後付けできるが、とルルーシュが言う。 「そう言えば」 あることを思いだして、スザクが口を開く。 「オデュッセウス殿下と天子様の婚約って、どうなったのかな?」 破談になったの? とさらに言葉を重ねる。 「そう言えば……どうなったんだ?」 ルルーシュもそれは聞いていないのだろう。首をかしげた。 「確認してみるか」 それを口実に出来るかもしれないし、と彼は続ける。 「そうだね。ようは、最終的に介入しても構わない理由があればいいだけだし」 「それが屁理屈でも構わない、と」 ジノもそう言って頷く。 「なら、あれ、処分してもいいよね?」 本気で腹に据えかねていたのか。ロロがこう問いかけてくる。 「ルルーシュ様に不埒な妄想を抱くなんて! あっさり殺すのも忌々しい」 さらに彼はこう付け加えた。 「ロロ。そこまでにしておけ。あのくらいなら、本国にもいることだしな」 しかし、ルルーシュが口にした爆弾発言の方がスザクには衝撃的だった。 「誰! って言うか、いつ?」 自分がルルーシュの側を離れることは滅多にない。あったとしても、代わりに信頼できる人々がいる場所で、だ。 「……陛下に謁見しにいったときにな。お前は兄上の仕事で席を外していた」 その後、ビスマルク達がしっかりと処置したらしいが……とルルーシュは笑う。 「第一、ご自分はどうなんですか?」 即座にロロがつっこんでくる。 「スザクは母さん達の公認を得ているし、何よりも、実力行使にでようとはしないぞ?」 それに言葉を返したのはスザクではなくルルーシュだ。 「第一、スザクがそう言うことを考えたとしても、気持ち悪くないからな、俺は」 さらに付け加えられたセリフをどう解釈すればいいのか。思わずスザクは悩んでしまう。 「ルルーシュ様!」 「スザクのことは、V.V.様も認めている。それ以上、スザクを非難するな。いいな?」 でないと、嫌いになるかもしれないぞ……とその間にもルルーシュはロロに釘を刺している。 「……ルルーシュ様がそう言われるなら……」 でも、とロロは続けた。 「あれは容赦しなくていいですよね?」 こうなったら、全ての鬱憤をあれで晴らしてやる、というかのように彼は問いかける。 「暗殺以外なら、な」 とりあえず、とルルーシュは言い返す。 「殺すのは、ダメなんですか?」 「あいつにはあいつで処分される理由があるらしいからな」 任せるしかないだろう。ルルーシュはそう口にした。 「なら、裸にして吊す? お腹のあたりに『変態』と書いておけば、みんなの笑いものになるんじゃない?」 昔読んだ漫画にあったけど、とスザクは提案する。 「わいせつ物を展示しては、周囲の者達の迷惑になるだろう?」 ルルーシュが真顔で問いかけてきた。ひょっとして、遠回しにだめ出しをされているのだろうか。 「股間は何かで隠せばいいんじゃない?」 第一、恥をかいて貰わないと意味がないだろう? と主張してみる。 「そうですよ。その位しないと、バカには自分がしてはいけないことをしたのだと理解できません!」 ルルーシュがいなくなれば、他の対象を見つけて同じようなことをするだけだ。ロロはきっぱりと言い切る。 「何度説明をしても理解できない人間は出来ないようですし」 言葉とともに視線を向けられたのはジノだ。 「……仕方がないじゃないか。したことがないし、必要ないと思っていたんだし……」 「だから、覚えなくていいと言うことではありません!」 ジノが足を引っ張るから、あれがのさばったのだ。ロロはそう言って彼に詰め寄る。 「そう言うことですから、吊すのは手伝って貰いますからね?」 どうやら、あれの処分はそれで決定らしい。 「せめて、子どもの目の付かないところに吊せよ」 深いため息とともにルルーシュがそう言った。 それが実行に移されたかどうかは、また別の話だろう。 終
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