民衆が一斉に蜂起したと連絡があったのは新月の日だった。
「……さて……あちらはうまくやっているかな?」
 ジノとロロは、とルルーシュは呟く。
「大丈夫じゃないかな?」
 スザクは苦笑と共に言い返す。
「それよりも、こっちだよ。どうやってここの不在をごまかすか、だね」
 外に監視のものらしい連中がいるけど? と彼は続けた。間違いなく、それは大宦官の手のものではないか。星刻の手の者達であれば、自分たちにこれほどまで殺気を向けてくることはないだろう。
「……あれを使えばいいだろう?」
 一瞬考え込むような表情を作ったルルーシュが、すぐにこういった。
「あれ?」
 彼の言葉が何を指しているのかわからなくて、スザクは首をかしげる。
「V.V.様の置きみやげだ」
 そう言われて、ようやく倉庫の隅に押し込んだ物の存在を思い出した。
「でも、あれ、体形が違いすぎない?」
「客の代わりにはなるだろう?」
 後は適当に偽造しておけばいい。ルルーシュはそう言って笑う。
「つまり、ルルーシュの頭の中では既に計画が出来ているわけだね?」
 なら、さっさと作業に入ろうか……とスザクは口にした。
「とりあえず、倉庫からあれを持ってくればいいんだよね?」
 後必要なものは? とスザクは問いかける。
「そうだな……一番大きな寸胴を持ってきてくれ。後はセンサー付きの温度計か?」
 いったい何に使うのだろうか。
 寸胴といえば煮込み料理だろうけど、と心の中で呟く。
「……二往復かな?」
 ともかく、とスザクは口にした。
 一つ一つはそんなに重くないし、持とうと思えばもてる重量だ。しかし、大きさを考えれば、と付け加える。
「悪いな」
「このくらい、ジノ達に比べれば何と言うことはないよ」
 真夜中に敵の動きを確認しに行っている彼らは身動きすらはばかられる状況ではないか。それに比べれば荷物を運ぶくらい何でもない。むしろ体を動かせるだけましだと思う。
「ならいいが……」
 無理はするなよ? と言い置くと、彼はキッチンへと向かう。
「本当に、何をする気なんだろう、ルルーシュ」
 みんなのために呂里をするという感じじゃなさそうだし、と呟く。
 それとも、それも罠なのだろうか。
「その可能性は、十分にある……かな?」
 しかし、ルルーシュの料理を罠に使うのはもったいないなぁ……と呟きながら、スザクは倉庫へと向かった。

「……改めてみると、ものすごいね、これ」
 空気でふくらませる人形はいくつか見たことがある。しかし、ここまで精密なものがあるとは思わなかった。
「ものすごく、気持ち悪いな」
 改めてみると、と呟く。
「本当に悪趣味だな」
 背後から見ていたルルーシュも同意の言葉を口にする。
「とりあえず、適当に座らせてくれ」
 体の一部だけが窓の外から見えるように、と彼は続けた。
「了解。なら、髪型は見えない方がいいよね?」
「……そうだな」
 こんなバカみたいな髪型をしているのは、この世界広しと言えども一人しかいない。だが、本人がこの国に来ていないことは当然知っているはず。だからフェイクだとわかってしまうだろう。
 ルルーシュがこう言って拳を握りしめた。
「ルルーシュ?」
「とりあえず、一発殴ってみるか」
 気分転換ぐらいにはなるか? と彼は笑う。
「壊さないようにね」
 ルルーシュの力なら大丈夫だと思うが、と心の中だけで付け加えた。
「わかっている」
 言葉とともに彼はそれを思いきり殴りつける。予想通り――と言っていいのだろうか――それは倒れただけですむ。
「何、無駄にこっているんだ、これは!」
 その表紙に、あのロールケーキが綺麗に外れたのだ。
「まぁ、いいんじゃない? これで、座らせる場所に制限がなくなったわけだし」
 さすがは皇帝陛下、と意味もなく呟きながらスザクはそれの足を持った。そのまま引きずるようにして窓際の席に座らせる。ブラインドを降ろしてあるから、シルエットぐらいしか見えないはずだ。
「ついでに、これも頼む」
 そう言いながらルルーシュが小さなかごを指さした。その中には何やら小さな機械が収められている。それと薄い板で作られた手のシルエットだ。
「何にするの?」
「適当に動くようにしてある。でないとすぐにばれるからな」
 当然というようにルルーシュは言った。
「本当に妙なところで細かいよね、ルルーシュってば」
 それを準備できるところがすごいけど、とスザクは言う。そのまま、言われたとおりそれらを置いた。
「嫌いじゃないからな」
 こういう事は、とルルーシュは言い返してくる。
「何にせよ、下準備は必要だろう?」
「そうだね」
 言葉とともに持っていたものを置く。この間、照明は中で何をしているのか見えないように窓際から奥を照らすようにしていた。こういうあたりも、ルルーシュが最初に指示をしておいたものだ。
「と、こんな所かな?」
 確認してくれる? とスザクは彼を振り向いた。
「大丈夫だな。後は匂いの方だが……スープを取っているから大丈夫だろう」
 無事に残っていたら、明日、それを使って何か作ってやろう、と彼は言う。
「ラッキー」
 なら、無事に残っていてくれることを祈ろう……と呟きながら、スザクはあるものをポケットから取りだした。そして、それを空気人形へと取り付ける。
「スザク?」
「これが爆発したら、ついでに爆竹がなるようにしておこうかな、と」
 飛び込んできた連中が驚くように、と言い返す。
「本当は金たらいとかも欲しいけど」
 あるいは大玉が玄関に転がっていくような仕掛けだろうか。
「流石に、そこまで用意したら連中にばれる」
 テレビのバラエティでよく見た定番の悪戯を思い出したのだろう。彼はそう言う。
「だが、ケチャップぐらいならいいか」
 ジノに掃除をさせればいいし、と彼は呟いたときだ。そのポケットの中で携帯が軽やかなメロディを奏で始める。
「ロロからだ」
 ポケットからそれを取り出す。そのままルルーシュは相手を確認すると、すぐに通話ボタンを押した。
「どうした?」
 彼の問いかけにロロが何かを言い返しているらしい。流石のスザクも彼の声を聞き取るのは無理だった。
「そうか。わかった」
 だが、ルルーシュの言葉と彼の表情だけでだいたいの状況がわかる。
「出来るだけ早く行く。お前はそのまま相手を追跡してくれ」
 ジノにはトリスタンで待機するように伝えろ、と彼は続けた。
「ということは、ランスロットも出せるようにしておいた方がいいかな?」
 そう呟きながらも、スザクは作業をする手を止めることはない。
「ともかく、爆竹と……ケチャップぐらいなら仕込めるかな?」
 確か、お弁当に入れるような個別包装のものがあったはず。それを爆竹と一緒にくっつけておけばかなりすごいことになるだろう。
 そう判断すると、スザクは一度その手のものをストックしてある場所へと向かう。そして、適当に掴んでくると、すぐに戻った。
「あぁ、大丈夫だ。こちらの準備ももう少しで終わる」
 それよりも無理はするな、とルルーシュが言っている。
「あぁ。出来るだけ早く合流できるようにする。もし状況が変わったならば、すぐに連絡を寄越せ」
 その彼の言葉を聞きながら、スザクは手を動かす。
「大丈夫だ。こちらにはスザクがいるからな」
 この一言と共に彼は通話を終わらせた。
「スザク」
 そのまま視線を向けてくる。
「ちょっと待って。これを繋げば、終わるから」
 しかし、配線その他で人形はとんでもないことになっている。それでも、外からは見えないからいいのか。
「相変わらず、おおざっぱなのか器用なのかわからないな、お前は」
 感心されているのかどうかわからない口調でルルーシュが言う。
「こう言うのは楽しいし、ロイドさんのせいで得意になったから」
「……ロイドか」
 スザクの言葉に、彼は苦笑を浮かべた。
「なら、後は寸胴に水を入れてスープの準備だな」
 それもすぐか、とルルーシュは言う。
「終わったら、直ぐにでるぞ?」
「わかっているよ」
 彼の言葉にスザクはそう言って頷いて見せた。

 ちなみに、この人形はよい働きをしてくれたらしい。もっとも、この時にはまだわからなかったが。





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